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ミミリーと弟②


 結局ミミリーが弟のルーイに会えたのは、二日後だった。


「ルーイ! お見舞いに来られなくって、ごめんね。調子はどう?」

「もう元気だよ。退院してもいいって、お医者様が言ってくれたんだ。ところでお姉ちゃん、怪我したの? 包帯巻いてる」

「ああ、こんなの全然平気よ」

「本当に? 無理しないでほしいな」

「本当よ、痛くも痒くもないわ」


 ミミリーはルーイの手を取り、弟を心配させないように笑顔を作った。

 実際ミミリーの怪我はさほど深くなかったので、もうほとんど痛まない。

 二人で病室で話していると、入院中ずっと世話をしてくれていた亜麻色の髪の看護師のリリカと、茶髪に眼鏡をかけた青年ウィルがやってくる。


「お二人揃って退院できそうで、何よりです」

「え、お姉ちゃん入院してたの?」

「ちょっとだけね。心配しないで」

「ルーイ君、これあげるよ」


 茶髪の髪の青年が、ルーイに向かって紙の束を差し出してくる。受け取ったルーイは不思議そうな顔をした。


「これは……?」

「文字の一覧表と、簡単な本。入院中に覚えたことを忘れないように」

「でも、本はすごく高価なもので……」

「僕があげたいと思ったから、受け取ってくれると嬉しいな」

「…………!」


 ウィルの言葉を聞き、ルーイは本をぎゅうと抱き締め、そして尊敬の眼差しでウィルを見上げた。


「ありがとう、ウィルさん! ボク、いつか立派なお医者様になれるように頑張るから!」

「うん」


 受付に降りて会計をする段階になるとミミリーは緊張で体をこわばらせた。

 ルーイの入院金額に加えて自分の分もとなると払えるか不安だった。

 緊張がルーイにも伝わったのだろう、見上げる瞳は揺れている。


「姉ちゃん、お金足りなかったら、この本を質に入れて借りる……?」

「ダメよ、今もらったばかりでしょ。それにその本はルーイにとって必要なものなんだから、そんなこと言っちゃいけません」

「でも……」

「大丈夫よ、足りるわ。足りる」


 自分に言い聞かせるようにミミリーは同じ言葉を繰り返す。

 そして受付で言い渡された金額はーーギリギリのところでなんとか支払える金額だった。

 ホッとしながら支払いを済ませ、病院を出る。


「姉ちゃん、明日からボクも働くから、姉ちゃんは仕事ちょっと減らしなよ」

「うん。そうするわ」


 少なくとも夜にルーイを家で一人にするのは心配なので、酒場の仕事はやめようと思った。


「あれ、ミミリーちゃん?」


 ミミリーが呼ばれて顔を上げると、そこにいたのは酒場の常連のバージルだ。

 ミミリーは咄嗟にルーイをかばうように前に立ち、営業用の笑顔を浮かべる。


「こんにちは、バージルさん」

「どうしてミミリーちゃんがウチの病院にいるの?」

「ウチの病院?」

「俺、ここの院長やってるんだ」


 どこか誇らしげに言うバージルに、ははぁ随分羽振りがいいと思ったら、病院の院長だったのかとミミリーは得心する。

 院長は親しげにミミリーに近づくと、なれなれしく肩に手を回そうとしてきたので、さっと身を避ける。まさか避けられると思っていなかったバージルは面食らった顔をした。


「…………? なんで避けるの? お店ではあんなに俺に寄ってきたくせに」

「姉ちゃん、何のお店で働いてたの?」


 バージルを見たルーイが不審な目でミミリーを見つめてきた。

 酒場の仕事はルーイが入院してから始めたので、ルーイには見るからに金持ちなバージルとミミリーが会話をしているのが不思議で仕方ないのだろう。おまけにバージルの距離感が近い。


「ルーイ、何でもない。何でもないのよ」

「俺があんなに貢いだの、忘れたのか!?」

「…………」

 怒りの沸点が低いらしいバージルが、触れるのを避けられ、目も合わせないミミリーに向かって怒鳴った。

「ルーイ、行きましょう」


 一刻も早くここを立ち去り、お店に行って辞めると言おうとミミリーが考えてルーイの背中を押して立ち去ろうとしたが、バージルがミミリーの手首をガシッと掴んだ。


「おい、俺に挨拶もなしなのか!」

「院長」


 喚くバージルに向かって、冷ややかな声がかけられた。

 ミミリーが見つめた先、病院の正面玄関から、わらわらと医師及び看護師が出てくる。その顔は一様に真剣で、静かな怒りを湛えていた。

 突如病院関係者に取り囲まれたバージルは、うろたえる。


「な、なんだ、何なんだ」

「院長、あなたの不正はここまでです」


 そう言ったのは、疲れ果てた血色の悪い顔をした、一人の幸薄そうな医師だった。

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