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其の弐──小姓、国を取り巻く現状に触れる──

 黒鹿毛の一件から、周囲の吾狼を見る目は明らかに変わった。

 それまで腫れ物を扱うように接してきた同僚達は気さくに話しかけて来るようになり、阿龍の身辺に関わる役目を任されるようにもなった。

 それだけではない。朧の計らいで、阿龍や双樹の師に当たる高僧から直々に学ぶことを許されたのだ。

 どうやら家臣団は『黒鹿毛の人を見る目』とやらに一目置いているのだろう。

 とは言え、自分という人間よりも、動物たる黒鹿毛の方が信頼されているようで、どこか吾狼は納得が行かなかった。

 

 心の乱れは、すぐさま太刀筋に現れる。

 阿龍の剣の相手をしている時だった。

 表情そのままの不機嫌そうな怒声が、中庭に響く。

 

「どうした、吾狼。先程から上の空ではないか! 」

 

 閃く剣の切っ先を目の前に突きつけられ、吾狼は慌てて後ずさりそして恐縮するようにひざまずき頭を下げる。

 

 主たる阿龍を怒らせてしまった。

 下手をすれば家が攻められる。

 

 吾狼は覚悟を決めた。

 

「まこと自分の不徳の致すところ。申し開きはいたしません。どうぞ、ひと思いにお手打ちになさってください」

 

 剣を構えたまま阿龍は白く浮き上がるような吾狼の細首を眺めていたが、ふっと息を吐き出すと刃を鞘に収めた。

 かちん、という音に驚いたように吾狼は顔を上げる。

 

「……お館様? 」

 

 と、阿龍は片膝をつき、視線を吾狼と合わせる。

 何が起きているのか理解できず硬直する吾狼の顔をまじまじと見つめながら、阿龍はおもむろに口を開く。

 

「名前で呼べと言っただろう? ふむ、相変わらず青白い顔をしているな。食事は取れているか? それとも師匠が厳しすぎるのか? 」

 

 耳に飛び込んで来たのは、想像だにしない吾狼を気遣うものだった。

 一介の小姓、いや人質という身分である自分が、こともあろうか一国一城の主を不安にさせてしまった。

 吾狼はますます恐縮し、それこそ地面に額を擦りつけんばかりの勢いで頭を下げる。

 

「滅相もございません。皆様大変良くしてくださって……もったいないくらいです」

 

 そうか、とつぶやくと、阿龍はその場にどっかりと胡座をかく。

 そして吾狼にも楽にするよう促した。しばしためらった後、吾狼はちんまりと正座する。

 

「では、何を考えていた? あれでは隙だらけではないか。ここが戦場なら、生き残れぬぞ」

 

 お前はいずれ俺の片腕となってもらわねばならぬ、そうやすやすと死なれては困るのだ。

 

 そう諭され、吾狼は己の器の小ささを痛感し思わずうなだれた。

 皆が自分より黒鹿毛を信頼しているのが悔しいなどと、恥ずかしくて口が裂けても言えない。

 重苦しい沈黙が流れる。

 それを破ったのは、言うまでもなく阿龍の方だった。

 

「……吾狼、しばし付き合え」

 

 半ば強引に連れてこられたのは、厩の前だった。

 

「今日は政に時間を取られることもないからな。無論お前も馬には乗れるのだろう? 」

 

「はい……ですが……」

 

 優れた騎手ではないし、何より乗るべき馬がいない。

 

 目で訴える吾狼に、阿龍は苦笑を浮かべながら言った。

 

「黒鹿毛の隣にいる青鹿毛を貸してやる。さあ、準備を」

 

 かしこまりました、そう一礼すると吾狼は厩の中へ入る。

 その姿を認めた黒鹿毛は、嬉しそうにその首を吾狼に擦り付けてくる。

 やはり黒鹿毛には不思議な力があるのだろうか。

 そんなことを思いながら、吾狼は黒鹿毛に馬具をつける。

 そして、貸してやる、と言われた青鹿毛に目線を移す。

 視線が合うやいなや、青鹿毛は一つ鼻を鳴らす。

 

 少し、気難しそうだ。

 

 それが青鹿毛に対する第一印象だった。

 しかし、阿龍を長く待たせる訳には行かない。

 棚からもう一組馬具を取り、おっかなびっくり青鹿毛にそれをつける。

 

 青鹿毛はやや機嫌悪そうに尻尾を激しく左右に振る。

 けれどそれ以上暴れることも無くされるままにしていた。

 こうしてやっとのことで支度を終えた吾狼は、右手に黒鹿毛、左手に青鹿毛を引いて厩を出た。

 

「お待たせいたしました。申し訳ございません」

 

 その姿を見た阿龍の顔に、一瞬驚きの表情が浮かんですぐに消えた。

 

「御苦労。では参るぞ。遅れるなよ」

 

 言うが早いが、阿龍は黒鹿毛にひらりと跨ると、その脇腹を蹴り颯爽と走り去っていく。

 急いで吾狼は青鹿毛にしがみつくように跨る。

 と、青鹿毛は吾狼が何もしないうちに走り出した。

 

「え……ちょっと……」

 

 慌てて吾狼は手綱を取る。

 が、青鹿毛は乗り手のことなど気にも止めず、黒鹿毛を追っていた。

 

      ✳

 

 蹄の音を響かせて、二頭の馬はつむじ風のように走る。

 武家屋敷が並ぶ地域を抜け、町人たちの住む市井を抜け、左右に田畑を見やりながら進む。

 その景色に、吾郎は見覚えがあった。

 そう、あの時遠乗りに出てしまった阿龍を必死に追いかけた道である。

 阿龍が目指しているのは、おそらく先日と同じ。

 城下から離れた所にある、一本の立派な木が生えた小高い丘だろう。

 青鹿毛の首に必死にしがみつくようにして、吾郎は先を行く阿龍と黒鹿毛を追う。

 その時ふと、吾郎はあることを疑問に思った。

 青鹿毛は相当な名馬だ。

 さすがの吾狼でもそれくらいは理解できる。

 そして、青鹿毛自身も吾狼が自分に不釣り合いな騎手であることを理解しているだろう。

 青鹿毛が望めば、吾狼を振り落として身一つで黒鹿毛を追うことができる。

 むしろその方が早く走れるだろう。

 にもかかわらず、どうしてそれをしないのだろうか、と。

 そんな吾狼のことなど意に介する様子もなく、青鹿毛は快調に走り続ける。

 田畑の広がる地帯を抜け、草原に出る。

 そして緩い勾配を登り始めた。

 完全に丘を登りきった所で、青鹿毛は脚を止める。勢い余ってその背から転がり落ちた吾狼を見、阿龍は今度は目に見えて驚いた表情を浮かべた。

 

「……本当にここまで青鹿毛に乗ってきたのか? 」

 

 それを命じたのはあなたではないですか?

 

 そう言いたいのをぐっとこらえつつ、吾郎は立ち上がり、着衣に付いた土ぼこりを両の手で払った。

 

「と言うよりは、乗せてもらったという感じです」

 

「……青鹿毛は、人見知りが激しくてな。滅多なことでは人を乗せぬ。それどころか、近付けようとすらしない」

 

 俺の知る限り、まともに青鹿毛に触れていたのは、姉上様と弥生……妹だけだ。

 

 そう聞かされて、今度は吾狼が驚く番だった。

 

「では、青鹿毛の手入れは? 」

 

「もっぱら弥生に任せていた。だが嫁に行ってしまってからは、ご覧のとおりだ」

 

 吾狼の視線の先で、青鹿毛は黒鹿毛からやや離れた場所で草をはみ始める。

 改めて青鹿毛を見やると、確かに黒鹿毛に比べると毛並みは乱れ、ややみすぼらしく見える。

 おそらくは、他者から洗うことや刷毛をかけられることを拒むのだろう。

 それまで世話をしてくれた人物と引き離された青鹿毛。

 慣れ親しんだ国もとを離れただ一人この地にやって来た吾狼は、自らの身の上を青鹿毛に重ねていた。

 

「吾狼、お前さえ良ければ、青鹿毛をお前に預ける。ここにいる間、世話をしてやってはくれないか? 」

 

 厩番のようなことをさせて申し訳ないが、そう話を振られ、吾狼は思わず姿勢を正す。

 ぴくり、と青鹿毛の耳がこちらに向けられた。

 まるで聞き耳を立てているかのようだ。

 

「自分に異存はありませんが……ただ青鹿毛がどう思うでしょうか? 」

 

「お前を振り落とさずここまで乗せてきたのがその答えだ。そうは思わぬか? 」

 

 再び吾狼は青鹿毛を見ると、長い尾で虫を追い払いながら我関せずとでも言うように草をはんでいる。

 吾狼は驚かせぬように歩み寄ると、静かにそのたてがみを撫でた。

 青鹿毛は抵抗する素振りさえ見せない。

 

「では……及ばずながら、つとめさせていただきます」

 

 吾狼の返答に、阿龍は満足げな笑みを浮かべるとその場にどっかりと腰を下ろす。

 青鹿毛の脇を離れ、吾狼はそのすぐ後ろに控える。

 

「この木はな、春になると薄紅(うすくれない)の可憐な花を咲かせるのだ。良く弥生と見に来たものだ」

 

 弥生様……妹君は、この青鹿毛を乗りこなして阿龍様と遠乗りをしていたというのか。

 だとしたら相当なお転婆姫だ。

 

 そう思いつつ、吾狼は神妙な表情で言葉の続きを待った。

 

「弥生は槍術では城下で右に出るものはいない手練(てだれ)で、勉学においては俺よりも優秀。男子であれば間違いなくこの頂の城主になっていただろう」

 

「……お館……阿龍様? 」

 

 この人は一体何を語ろうとしているのだろう。

 

 はかりかねて吾狼は思わず尋ねる。

 が、阿龍は正面を鋭く見据えたままで、吾狼の声はその耳には届いていないようだった。

 

「御正室……霜月尼殿は嫡男に恵まれなかった。是非に男子をと望まれたにも関わらず、実際に産まれたのは弥生で、男は側室の子の俺だった」

 

 そう言うと、阿龍は手元の草を引き抜き前方へ投げやった。

 同時に、固く唇を噛む。

 かけるべき言葉を失って、吾狼はその場に立ち尽くす。

 冷たい風が、両者の間を吹き抜けた。

 

「俺がいなければ、弥生が婿を取ってこの城を治めることができたのにな」

 

 いつもの豪快さは影を潜め、整った顔にはどこか寂しげな表情が浮かんでいる。

 再び阿龍は枯れ草を引きちぎり、宙空へ投げつけた。

 

 恐らくは、幼い頃から阿龍は自らの生い立ちに悩んでいたのだろう。

 霜月尼のあの態度を見るに、家族仲もさほど良好な関係とは言えなかったのかもしれない。

 そんな阿龍の心の支えとなっていたのが、妹君だったのだろうか。

 

 そんなことをぼんやりと考えていた時だった。

 不意に阿龍は吾狼を顧みる。

 

「吾狼、お前の城……圷はあちらの方だったか? 」

 

 現実に引き戻された吾狼は、慌てて阿龍が指差した方角を見やる。

 

「はい、あの山の方角に当たります……あれ? 」

 

 ふと、吾狼は首をかしげる。

 圷城の方角からわずかにそれたところから、煙が上がっているのが見える。

 方角的に、狼煙のろし台がある場所でもない。

 阿龍は吾狼の視線を追い、やはりその煙に気がついたようだ。すでに彼はいつもの阿龍に戻っていた。

 

「澤城の方だ。尋常ではないな」

 

 言うが早いが阿龍は立ち上がり、大股で黒鹿毛に近寄るとあっという間にその背に跨った。

 

「吾狼、先程の話は多言無用。特に双樹にはな。あとから来い。焦るでないぞ」

 

 言い終えるよりも早く阿龍は黒鹿毛の腹を蹴り、あっという間に城へ向かい走り出していた。

 いつしか青鹿毛は草をはむのをやめ、どうするのかとでも言うように綺麗な瞳で吾狼を見つめている。

 

「ええと……よければまた、乗せてくれないかな……」

 

 あまりにも気弱な吾狼に向かい、青鹿毛はやれやれとでも言うように一つ嘶いた。

 

      ✳

 

 吾狼が青鹿毛を厩に繋ぎ城内へ戻ったとき、広間からは誰かがすすり泣く声が聞こえた。

 この声は確か、同僚で澤城から上がっている……。

 

信矢(しんや)、すまぬ。全ては我々の咎だ。たかが農民風情と侮ったばかりに……」

 

 漏れ聞こえて来た阿龍の声は、苦渋に満ちている。

 どうやら澤城で何かあったらしい。

 信矢の様子からすると、尋常でない何かが。

 

 襖の傍らで凍りつく吾狼。

 と、前触れもなくそれが開き、立っていたのはいつになく厳しい表情を浮かべた朧だった。

 

「盗み聞きとは、あまり褒められたものではないぞ」

 

「申し訳……無事戻ったことをお伝えしたかったのですが……では、失礼いたします……」

 

 表情そのままの厳しい言葉に、慌ててその場を離れようとする吾狼。

 が、意外にも朧はそれを止めた。

 

「何も逃げることもなかろう。いい機会だ。入れ」

 

 そう言うと、朧は踵を返し室内へと戻っていく。

 どうするべきかと迷いつつ吾狼は広間に視線を送る。

 と、上座の阿龍のそれとぶつかった。

 

「その通りだ。お前もこの城を取り巻く状況を知っておく必要がある」

 

 いつになく真剣な表情と口調の阿龍。

 その左手に控える双樹の微笑。

 ようやく吾狼は覚悟を決め、一礼すると広間に足を踏み入れた。

 襖を閉め、その傍ら……一番の下座に控える。

 その頃には信矢も落ち着いたようだ。

 泣きじゃくるのをやめ、涙をこらえながらじっと阿龍の言葉を待つ。

 僅かに一同に目線を巡らせてから、阿龍はおもむろに口を開いた。

 

「我々の生活は他でもなく、市井の人々や農民たちの力あって初めて成り立つものだ。それは理解しているな? 」

 

 ──武人は何も生み出さない。搾取し破壊するのみだ。──

 

 国もとで親からよく聞かされていた言葉がふと脳裏に浮かぶ。

 おそらく阿龍が言わんとしているのも、同じようなことだろう。

 神妙な表情で吾狼はうなずく。

 

「だが、多くの武人は勘違いしているのだ。力を持つゆえの愚かさでな」

 

 再び、吾狼はうなずく。

 悲しいかな、無辜(むこ)の民を搾取(さくしゅ)する城主は少なくない。

 信頼ではなく恐怖によって支配するという愚かしいことが、多くの国で行われている。

 

「抑えつけられた不満や鬱屈は、やがて爆発する。今まさに、そのうねりがこの頂城を飲み込もうとしているのだ」

 

 思わず吾狼は首をかしげる。

 阿龍がそのように人の道を踏み外すような領民支配をするとは思えなかったからだ。

 そんな吾狼の様子に、ようやく阿龍の顔がふっと緩んだ。

「無論、俺はそんな莫迦なことはせぬ。だが、搾取されていた側からすれば、俺も同じ支配者だ」

 

「そんな……」

 

 悲しいかなそれが事実だ、そう寂しげな微笑を浮かべる阿龍。

 今度は先程から黙っていた朧が言葉を継いだ。

 

「奴らが蜂起したのは、ひと月前。初めに落とされたのは我らと同盟関係にある谷城だった」

 

 谷城は確か、阿龍の従兄弟である飛燕が治めていた峠城と境を接していたはずだ。

 脳裏で地図を描きながら、吾狼はうなずく。

 

「そのまま奴らはそこを拠点にして、周辺の城を攻め始めた」

 

 あれは烏合の衆ではない。

 頭目には明らかにその手の知識がある。

 

 そう言う朧にうなずいて同意を示してから、阿龍は双樹に視線を向ける。

 軽く会釈をしてから、双樹は重い口を開く。

 

「配下の者によると、あいつらを束ねてるのは(みや)と呼ばれるやつだそうだ。氏素性は不明。しかも素顔もわからねえ」

 

 配下の忍を総動員しても、それ以上のことは掴めなかった。

 そう悔しげに言い捨てると、双樹はぎりと歯を食いしばる。

 

「素顔がわからないって、どういうことですか? 」 

 

 あまりにも間の抜けた吾狼の問いに、重苦しい室内の空気は押し流された。

 毒気を抜かれたようにふっと息を吹き出すと、双樹はわずかに唇の端を上げる。

 

「常に面頬(めんぼう)|(顔を守るための武具)をつけているんだ。その下は絶世の美形と言う噂だが。吾狼はどう思う? 俺は……」

 

 話がずれていきそうなのを察した朧が、聞こえるように咳払いをする。

 決まり悪そうに頭をかくと、双樹は姿勢を正して更に続けた。

 

「その後落とされたのは砦が三つ。今度は澤を狙っているのでは、と言うところまではわかっていたんだが……」

 

 なるほど、それで阿龍は信矢に謝っていたと言うわけか。

 動きを察していたのだから、援軍を差し向けていればこのようなことにはならなかったかもしれない……。

 

「いえ、お館様の咎ではありません。聞けば、賊は虐げられた民とのこと。恥ずかしながら我らは良き為政者であったかどうか、自信が有りませぬ……」

 

 そういえば信矢は同僚に相撲の技をかけ笑いものにしたり、下働きの者たちを顎で使ったりして、良く朧に叱られていた。

 居城でもそのままの振る舞いが当たり前だとしたら、あまり素行的に褒められた為政者とは言い難いだろう。

 そんな彼も、今は憔悴しきっており、今にもまた泣き出しそうだ。

 

「……信矢、思い詰めるな。同盟関係にありながら助けられなかったのは先にも言った通り我らの咎だ。先程から言っているだろう? 」

 

 もったいないお言葉、と信矢は深々と頭を下げる。

 と、阿龍は何かを思い当たったようだった。

 

「信矢、今日はもう休め。くれぐれも国もとに戻ろうなど思うでないぞ。命あっての物種だ」

 

「はい……ですが今夜はお館様の寝所番を仰せつかっておりますが……」

 

 つまりは、今信矢が下がっては、今晩阿龍の身辺警護をするものがいなくなる、ということか。

 数秒考えた後、阿龍はぽんと膝を打った。

 

「ならば吾狼、そなたに代役を申し付ける。異存はないな? 」

 

「は、はい! 」

 

 勢いで吾狼は畳に額を擦り付ける。

 が、ふとある事に気がつく。

 寝所番とは、万一の時には自らを盾として投げ出さなければならない命がけの役割である、と言うことを。

 腕っ節の強い信矢であればまさに適任であるが、ひ弱な吾狼には務まるのだろうか。

 

「あ、あの……恐れながら……」

 

「役目大義。信矢、くれぐれも早まるなよ」

 

 そう言い残すと、阿龍は朧と双樹を伴いその場を後にする。

 その姿が見えなくなると、吾狼と信矢は不安げな表情でお互い顔を見合わせていた。

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