お菓子ドラゴンと甘い恋愛小説
僕は恋愛小説が大好きだ。
甘くて蕩ける様な言葉、切なくてほろ苦い物語。物語の中で素敵な恋愛に触れると、主人公の様に一つ階段を上がれた気がして、心の中がとっても甘酸っぱくなる。
だから、僕は小説を読んでる時間が大好きだ。
「アーマッマッ! この二人がくっつくのか! これも酔狂よのう!」
この大好きな時間を、まさかドラゴンさんと一緒に過ごす事になるとは思わなかったけれど……。
◇
その日、世界に新たな厄災が訪れた。
「我は、お菓子ドラゴンである! この世の全てを甘々にしてくれようぞ!! アーマッマッ!」
そのドラゴンは体は飴細工、瞳はマカロン、角はクッキーで出来ており、吐き出されるブレスを受ければ、山はケーキに、川はチョコレートに、建物はお菓子の家になってしまう。
塩さえ砂糖に変えるその力は、この世の生き物全てをあっという間に虫歯にしてしまった。
行く末を憂いた王は、このドラゴンの暴威を納めてもらう為、対話を選んだ。
「我を諫めるか、人間の王よ! 面白い! 我の甘さに合うモノを持ってこい!」
王の発令で、我こそはその甘味に合うモノなり!という人々が立ち上がった。
茶道の師範、コーヒーのバリスタ、至上の紅茶を入れる執事、中にはソムリエや日本酒の蔵元、ウィスキーの蒸留所までも参戦した。
そんな中、誰しもが考えていない一人も立ち上がっていた。
「甘いモノ食べながら、この甘々な恋愛小説……絶対に素敵な時間が過ごせるはず……」
引っ込み思案の少年が持ってきた、その一冊の恋愛小説によって、お菓子ドラゴンの厄災は鎮められたのであった……
◇
「あの時の少年の様子と言ったら……今でも思い出すのう」
「もう、からかわないでくださいよ」
恋愛小説を気に入ったドラゴンさんの元へ、僕は定期的に新しい本を持って来る事になりました。
「でも……良かったです。こう、小説仲間が出来て。ほら、僕、男なのに恋愛小説ばかり読んでるから、友達居なくって」
俯いた僕に、ドラゴンさんはチョコレートの香りがする鼻息を鳴らしました。
「異形の者の前で、自分の好きな物を好きと語る少年の姿。それは歴戦の勇者と肩を並べる勇敢な姿であったぞ」
「ありがと……えっ? ドラゴンさん?」
目の前で、ドラゴンさんは輝く光を纏い、少女の姿に変わって……
「のう、少年。我と共に、新しい物語を紡がぬか?」
その時、僕の心は甘酸っぱくなって、ドラゴンさんとなら一つ階段を上がれる、そんな気持ちになりました。