2 旅行
緑豊かな森の奥で野菜を育てながら生活している一人の娘がいました。
街に出向く時は、パンを買いに行く贅沢をする日だけでございました。
人と触れ合うことも殆どない娘は、ある日、森で一人の青年と出会います。
青年は、森で怪我をしており、余程迷ったのか衰弱しておりました。
娘は、傷口を綺麗に洗い、薬草を毎日取り換え、色んな野菜をすりつぶし、スープにして必死で介抱しておりました。
その甲斐あり、青年は、元気になり一緒に野菜を収穫するほどまでになりました。幼い頃に育ててくれた祖母を亡くし、ずっと一人であったため、人と一緒にいることがこんなにも楽しいということを忘れていたのです。
それだけではありません。娘と青年は、とても気が合いました。
深く想い合うまでにそう時間はかかりませんでした。
青年は、将来を共にするつもりで一度、街へ帰り両親に報告しました。
両親は驚愕し、顔を見合わせ慌てて家を飛び出します。
「魔女の娘が森で生きていた」
街の大人たちは総動員で魔女の娘を捕まえに行きます。
「息子が生きて帰ってきたのは娘も魔女の力を持っているからだ」
青年は必至で違うことを説明しますが、多勢に無勢。
皆、戯言だと取り合ってくれません。
娘は、困惑しながら森を逃げ出そうとします。
街の大人たちは逃がすまいと逃げるための足を奪いました。
娘は、緑豊かな森で一人静かに最後の時を待っていました。
もう痛みは感じません。
夢か現か、青年が涙を流していました。
青年は、涙で言葉が出ません。信頼の証を鼻と鼻を擦り合わせ、必死に伝えます。
「誰が何と言おうと貴女は魔女なんかではない」
娘は、笑顔で息を引き取りました。
青年は、二度と街に姿を現すことはありませんでした。
「うっわ…。最悪」
「もう、暁澄そういうこと言わないでよ。感動している私の気分と気持ちが台無しじゃない」
幼馴染の未来が泣きながら怒ってくる。相変わらず、感情表現豊かで忙しい奴。
「そもそも、子供が聞いていい話ではないと思う」
「うえ~ん」
双子の遥大と遥絆は、号泣中である。
「そんなことないわ。人魚姫も声を代償として命を失っているし、白雪姫も最後に継母が熱せられて赤くなった鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊らされるって話もあるのよ」
「え…。そんな話だっけ? 毒リンゴと鏡しか記憶にないなぁ」
「人魚ひめも白雪ひめも、はる知ってるよ。 あーにぃがよんでくれるご本には、テツのクツをはくお話なかったよ」
涙を拭きながら絵本の好きな遥絆が応えてくれる。
「良かった。 そんな怖い復讐の白雪姫を読んでなくて。」
「確かに。 復讐は怖いわね」
未来が素直に納得している姿を見て、可愛いと思ってしまう。
遥大と遥絆がいるから、復讐なんて怖くて、良くないことだと綺麗事を言える。
この童話にしても俺には無理かもしれない。
大切な人を奪われて許すなんて…。
未来を見つめながら、そう心の中で思ってしまう。
「おんなの人は、カッコいいね。 ぼくもがんばって、つよくなるね」
遥大が凄く大人な見解をして見せた。
確かに…。
誰も憎まず、相手の幸せを願って最期まで生き抜く姿がよく描かれている。
しかも精神的に追い込まれそうな、いじめがメインのものが多い。遥か昔から根本的なものは変わらず、逞しく生き抜いていくのが女性なのだろうか。
未来は、きっと気づかずに生き抜いていける性格だろうな。
遥絆は、我が妹ながら可愛い。可愛すぎるから、愛嬌で切り抜けられるはずだ。泣かされるようなことがあれば、お兄ちゃんが何としても守り抜いてやるからな!
「遥大の行く末が楽しみだな」
「本当に。遥大は十分そのままでカッコいいわよ」
運転中の親バカな父と母が大喜びしている。
今日は、家族旅行で鎌倉の紫陽花をみて、江ノ島水族館に行ってきた。
高校生になってから旅行の散策時間は、俺と未来が5歳の双子を子守させられている。
未だに恋人のような夫婦だ。
仲が良いのは結構だが、お陰で迷惑だ。俺も健全な男子高生だ。
未来とデートがしたい!
「はな、おうたうたう」
遥絆の切り替えの速さには、いつも驚く。
悲しい気持ちを気分転換したいのだろう。
「じゃあ、いつものからいくか」
♪せんろは~
皆で童謡を大合唱していたせいか、直前まで大型トラックが横から突っ込んできていることに誰も気付くことはなかった。




