3 なんでお前らそんな元パーティーメンバーに復讐したがるの?
追放系は復讐かパーティーが「戻ってきてくれ!!」とか言い出すのがお約束問題
「おるかー」
今日も今日とて借金回収に励むNくん。
今日の相手は新顔の冒険者。債権が回り回ってNくんの所まできたってことはロクな話ではない。
「おらんのかー」
しかし貧乏長屋、貧民街と言い切った方がいい場所だろうが彼は行くのだ。
「うーん」
物音がしないかドアに耳を当てて中の物音を聴く。
居留守はよくある商売。郵便配達員は二度ベルを鳴らすがうちのNくんは20回ドアを叩く。
「・・・た・・・」
うめき声。
「大丈夫かー」
一応でもドアに鍵がついているので声のトーンをあげて確認。
そして
「開けるぞー」
そう言ってポケットから鉄の工具を取り出す。
ピッキング用道具。ドアを破ってもいいが修理代が高い。
解錠。
「入るぞー」
そう言って無作法に入る。
そこには部屋の隅に倒れている冒険者。両足がなく重たそうなかばんと台車にのしかかられ呻いている。
「助けてくれ。倒れて、起き上がれないんだ」
「借金の取り立て屋に助けられってのもなんか皮肉なもんだな」
冒険者を起こして台車に座らせる。
これで移動しているのか。
「本当だよ。でもありがとう」
「ざまぁねぇが、死んでもらっちゃ回収がもっとめんどくさいんだ。それで、えーと」
債権の証書を確認する。回収できれば結構な額。
しかし
「済まない。払えないよ」
「まぁ見りゃわかるよ」
部屋には金目のものがない。鍋すらないのだ。
彼が座っている台車も荷物運搬に使うもの。車椅子なんてハイカラでお高い物はない。
「ここにおいて貰えてるのも、家主の好意みたいなものでさ。それも今日までだ」
「ダンジョンでやられた口か?」
「あぁ、そんなのはあなたには関係ないだろうが、まぁ、来てもらったんだから泣き落としでもしてみようか?」
「まぁ話くらいは聞いてやるよ」
普段なら聞かない所だが、泣き落とししてみようか?という男の言い回しが気に入った。
元冒険者の話は月並だった。
新米冒険者としてファミリーに入り、ダンジョンに挑戦。
仲間内の連中が調子に乗り、奥へ奥へ。
気づいたら引き返せず、裏切り。新人である自分は一人だけ囮で放置。
他のファミリーの人間が助けてくれたから命だけは助かったが、元のファミリーは引受を拒否。
ダンジョンでのミスは冒険者の命取りであり、冒険者の指導不足はファミリーにとっての命取り。
なら「そんなのは知らない」言い切った方がいい。
そして冒険者は治療費やら冒険に必要な物品の購入費やらで借金漬け。
こういう話はまれだが、借金取りにしてみればよくある。
「ファミリーも神も知らないの一言で放り出された。放置さ。こんなことあるかい」
「そりゃ引き運が悪かったな。でだ」
その割に世の中儚んでない男の態度。こういう連中は往々にしてまずいことをやらかす手前。
キョロキョロと見回しながら
「金目のモンでもないか?」
「ないよ。この台車が一番高いさ。金になると思うならこのかばん以外なんでも持っててくれ。これと台車は明日からの生活に使うからだめ」
彼の部屋には椅子はあっても机やベットがない。両足がないのだ。椅子には座れない。
椅子は机替わり、机やベットは背が高すぎて使えないから売り払ったか
台車のそばには大きなかばん。
クローゼットの中を物色。タンスはない。ぼろい木箱ににぼろい衣服。そして鉄くずと粉。
「爆弾か。狙うなら商店や馬車なんかの狭い場所を狙え。爆風が逃げにくい方が確実に仕留められる」
「なんのことだ?」
雰囲気が変わる。
「そのかばんの中だろ?やめとけって。そういう手合は一人二人殺しても変わらん。まとめて吹き飛ばせるような力があれば別だが、だったらお前はそんなざまにはなってねぇ」
そう言って躊躇いもなく男を蹴り飛ばしてどかす。
急襲。転げまわる男、足がないのだ。這いつくばることしかできない。
そしてかばんの中を確認。
鉄パイプを切ったものに導火線が刺さったものが何本も。
中は火薬だろう。威力と安全性をあげるために密封したか。
手先は器用なようだ。冒険者にならなければ別の未来もあったろうに。
「とりあえずこれは没収な。素人の手製爆弾なんざ売り物にはならんが。出来は良さそうだ。ダンジョンでなら使えるかもしれん」
闇市場のマーケットもあるにはあるが、そこならもっと良いものが買える。
「てめぇ何しやがる」
「復讐なんか生産性がないぜ。お前には借金の返済をしてもらわなきゃならん」
「うるせぇ。誰が雇うってんだ。こんな姿の怪物。だったらアイツらと一緒にぱっと飛び散って死にてぇんだよ。頼むよ。見逃してくれ。頼む」
「なに、雇われ口だったら一つ紹介してやる。人生上を向いてあるけばいい事ある。人は変われるんだ」
数週間後後。街の花屋で妙な男が働き始めた。
両足がない元冒険者。
金がないのか荷物を運搬するための台車にのって店の内外を走り回っている。
しかし彼なりに真面目に働き、愛想よく接客業務やら、ブーケに針金なんかでちょっとした飾り細工をすることで人気が出た。
というか店主の愛想の無さが花屋としては絶望的だったのだ。接客業は目利きだけでは食べていけない。
店主もそれをわかっているようで、花屋のバリアフリー化を暇を見ては進めている。
そして彼なりの幸せを掴むために今日も働くので、新聞など読む暇はない。
その見出しはこうだ。
ファミリーによる冒険者の事故隠蔽。ギルドから指導と同時に、罰金、賠償金の支払い命令。
その賠償金は彼のもとには入っていない。
どこに消えたかって?
言う必要ある?