2なんのために存在してるのかよくわからない冒険者ギルドとかいうやつ
暴力系ヒロインってこんな感じですよね
「ギルドマスター。お客様です」
ギルドの受付嬢の間で「お高く止まっている」と評判のエルフの秘書がギルドマスターに言った。
「予定は入ってなかったはずだが」
「入ってないなら開けろ」
「おまえか」
ギルドマスターなるよくわからない役職専用の部屋。
そこにあるなんか高そうな石の机。
それに無礼にも腰掛ける我らが主人公N。
「酒屋のつけはこの間払ったろ。なんか未払いでもあったか?どっちにしろ手元に金が無いから仕事終わってから来てくれ」
Nを気にせず椅子に座るギルドマスター。
「あんたはいいんだ。あんたは。つけの分取りに来たら気前よく返済するいいお客様だからな。問題はあんたの部下だ」
そう言って数人の名前をあげるN。
「今度入った新米連中だな。そいつがどうした」
「飲み屋だの服屋だののツケ溜め込んだまま研修とか言ってどっかバックレだんだよ。これが請求書」
そう言って請求書の束を目の前につき出す。
パラパラと見るがそれでも結構な額。
「はぁぁぁ」
またか、という感じでため息。
「彼らが使ったって証拠は」
「これ」
Nはまたなんだよ、というニュアンスで紙の束をだす。
念書だ、いつどこで何を使った、日付、名前、所属組織、階級etcの上に手形がぽんと。
「秘書くん。これ見せて会計に金を出させてくれ。あとそいつらどこにいるか探して呼び戻せ。文句並べるようなら力づくで構わんから」
「はい」
「馬鹿だねぇ。新米でツケが聞くのはギルドから回収できるからでてめぇの信用じゃねぇってのに。ボンクラな部下を持つと苦労するな」
「まったくだよ。あといい加減どけ」
そう言ってNの背中をパーンと叩くギルドマスター。
「おまえさ、冒険者なったんだろ?」
「すすめられた通りなったよ。知ってんの?」
「そりゃお前なぁ」
金が来るまで接客用のソファーに座りNとギルドマスターは雑談。
「冒険者になるための講習中に講習そっちのけで講師と素手で喧嘩したらそりゃ話題になる」
ちなみに勝敗は引き分け。
というか講義そっちのけで喧嘩してても通るんだから講習もザルってもんだ。
「冒険者なら借金の回収なんざより冒険行けよ。お前の実力なら1階は余裕だぜ」
「メンツが足んねぇんだよ」
「ならファミリー入れ、なんだよ。未定って」
本来、こういう場合はファミリーか身元引受の神に文句をつけるがNが出した書類には「所属ファミリー・未定」の文字。
「制度上ファミリー入ってなくても冒険者にはなれるが、そりゃ神の連中や俺たちギルドの人間が冒険者になるとかファミリー旗揚げの下準備のためだ。お前みたいな糞ガキがウロウロするのは想定されてねぇからこっちも困るんだよ。どっか適当なところ見繕って紹介してやろうか?」
「いいよ。俺はこの町のファミリーには名前が知られてんだぜ。悪名だがな」
金貸しと回収屋にとって冒険者やファミリーはお得意様。
「そうか。まぁさっさと決めるか厄介事起こさないように暮らせ。しかしなんだよ蒼ざめた馬債権回収社って。黙示録の馬か?死神じゃねぇんだからもっとマシな名前付けな」
ギルドマスターは貰った名刺にケチをつけ始めた。
「あぁぁぁ。暇だよ!いつまでかかるんだ!クソ!お腹空いた!」
そう言ってギルドの受付に並べられたソファーの一つを占領して寝る神様。
無骨な膝当てと相反する可憐な脚が美しいコントラストを
「セクハラ講習」
ごめんなさい。
「何でそれができないんだよ!」
そんな時、受付て何か騒ぎをおこしているろくでもない三人組。
「ですから、それはできないんですって。依頼を完了させてください」
受付嬢が強気で言い返す
「あぁ!」
それに切れて受付嬢に掴みかかる男。
「やめろ」
見かねた他のファミリーの冒険者パーティが止めにかかるが、その前に
「ウルサイ!!クソ!!糞脳みそが足りねぇなら昼前から不快な声で騒ぐなクソが!」
うちの神さまが罵声を浴びせかける。
「なんだとオラァ。俺らファミリーをなめてっと痛い目あうぞぉぉぉ」
標的を神さまに変えて、喧嘩を売ろうとした男は売り言葉の途中で悶える。
神さまは何も言わず男に駆け寄り、股間に一撃。
思わず前のめりになった所で鉄の膝当てを使った膝蹴りで顔面。飛び散る前歯。
そして倒れこんだところに追撃。
「喧嘩売るなら!!!」
蹴り
「御託は!!」
蹴り
「殺してから!!!」
蹴り
「並べろ!!!」
蹴り
「糞が!!」
蹴り
「おい死んじまうぞ。ほら、落ち着け」
そう言って止めに入ったのは先日の講師。
部屋にいたところ受付嬢の一人に助けを求められてでてきたが、気づいたらうめき声しかださないチンピラを助けていた。
ちなみに彼の本業はギルドの格闘術教官。講師は人手不足ということで応援でやっただけなので取っ組み合いのほうが好きだ。
「止めるな!!このままぶっ殺したる!!」
教官は小柄な少女を腰から持ち上げ無理やり引き離す。
それでも男に追撃をかけようと暴れる猛獣。受付嬢や残りの二人は血が付いた膝当てを見てドン引き。
受付嬢の一人はカウンターに飛んできた白い物が血が付いた歯であることに気づき失神。
「殺したらあかん。ほらお前ら、今日の騒ぎは見逃してやるからそいつ連れて失せろ。このままだと殺されるぞ」
「は、はい」
そう言って残りの二人は床で呻いている男の肩を支えながらギルドから出ていった。
「おう、派手にやったらしいな」
教官と受付嬢たちが神さまをソファーに座らせなんとかかんとか宥めるなかでNは奥から出てきた。
「あ、てめぇのツレだよな?暴走機関車みたいな女だな」
「あぁ。目玉の代わりに糞でも詰まってんのか糞が!」
今からでも教官に噛みつかんという勢いの神さまを受付嬢が体で抑える。
流石に関係ない人間を投げ飛ばすというほどは切れてない。
「落ち着いてください!助けてもらったのはありがたいですけどギルド内での暴力沙汰は辞めてくださいね」
「言っても無駄だし聞く義理はねぇよ。そのボンクラは神様だぞ。脳味噌に行く栄養が胸に流れ込んだみたいだがな」
えぇぇ、という感覚がギルドの職員を襲う。
神さまにも色々いるが、ファミリーをけしかける前に自分から掴みかかるこんな血気盛んな神さまは見たことない。
しかも強い。躊躇いがない。残酷。
「お前がクソ遅いから悪いんだ!!!どうしてくれる!!!」
「はいはい。飯食いに行くぞ。全額回収できたからな。上がりは1割だ。みんな怖がるギルドの仕事はちょろくて助かる。何たべる?」
「肉!酒もつけろ!」
そういって受付嬢や教官に見向きもせずソファーから立ち上がりNと腕を組む。
「このぼんくらが迷惑かけたな。でもそのうちまた来るからよろしく。あと受付嬢のあのこ、金髪エルフの」
「マリンですか」
「そう、そいつ。下着屋の支払い遅れてるって言っとけ。さもないと組合に明細持ち込むってな」
そんなことを言って二人もギルドから出て行った。
「なんなんでしょうか。あの二人」
「一緒にこの間冒険者の講習をうけたぞ。強いのなんのって。あのまま時間切れじゃなかったら俺はあのガキに負けてたかもしれん」
「そんな強い、というか教官も何してるんですか」
冒険者の講習などはじめから寝ていても受かるザル制度というのは今に始まった話ではないが、講習中に講師が切れて取っ組み合い始めたなどというのは前代未聞だ。
「しかしまた来るって」
「あれは回収屋だ」
二人の会話に割って入るギルドマスター。
「マスター。回収屋って」
「つけ払いだの借金の未納分だのを回収するんだよ。借金取りだな。あいつは請負も債権買取もやってる」
それでだ、とマスターは話を切り替え。
「君ら、次の休憩時間にギルド職員を全員呼び出してくれ。ギルドの風紀に関して、重大、非常に重大な訓令がある」
「なんですか?」
「ギルドの信用、あと借りた金は自分で返せということだ」
「あぁ」
教官はなんとなくわかった。そして一言。
「毎年恒例ですね」
「あぁ、いい加減理解してほしいんだがくり返し言わないと理解できないようでな」
そんなものだろう。人間。