2 だいたいね、はじめの方でね、主人公が街角を走るか歩くかして街の人と触れ合ってんだよ
ふれあい(借金回収)
「おいこら出てこい。いるのは分かってるんだ」
この物語の主人公である新米冒険者のNくんは今日も真面目に働いている。
「はやくでてこーい!元嫁に請求してもいいのか?親権を争ってる最中に売春宿のつけの回収が来たなんて弁護士が喜ぶな」
ダンジョンは空高く天の上まで届く塔と誰も最下層をしらない地下の迷宮でできている。
その周りを囲むようにある街「ヘルファイヤー」。
ダンジョンからの利益や冒険者たちのおかけで賑わっているこの街の住宅街。
その一角にある長屋から始まる。
「それだけはやめてくれ!!」
中から飛び出てきた寝起きの男はそう言ってNに縋りつく。
Nはその首をガッシリと捕まえ、手に持っていた縄で男の腰を縛りあげる。
「つけの回収に居留守なんて使わなけれそんなことにはならねえんだよ。ほら、財布とってこい」
そう言っておとこやもめの小汚い部屋に向かって男を蹴り飛ばし自分もはいる。
体としては警官と護送囚。犯罪をやったわけではないが逃げられちゃこまる。
いや、正確に言えばこの界隈で売春もこういう取り立ても違法行為なので犯罪だが。
「でも、今日は金がないんだ」
「あぁ?本来の支払い日は一週間前だぞ。甘えたこと言ってんじゃねえよ」
「そうは言っても、家族が」
「売春の手入れでとっ捕まって嫁に逃げられたアホが何いってやがる」
「いや、家族と言っても兄弟で」
「てめぇのアホな兄弟がなんだ?死んで葬式代でも居るってのか?ならそいつの住所教えな。今から一緒に行くぞ。香典の残りくれぇあるだろ」
「それもやめてくれ!!実家の支援がなきゃファミリーには残れない」
「はぁ。そのファミリーから給料もらってんだろ」
「今度入ったファミリー付き合いが多くてさぁ」
やれやれと言った具合にNは部屋を見回す。
金目のものは鍋と剣しかねぇ。
「その剣。貰ってくぞ」
「そ、それだけは」
「それだけは、が多いんだ。返して欲しけりゃあと3日以内に金用意しとけ」
そう言って少し優しい声になるN。
「まぁ入れ知恵してやる。嫁さんの機嫌をとるのに金がいるから質に入れたとでも言ってファミリーに前借りをたのめ。剣がなきゃ商売にならねぇんだから、不服だろうがお前の言い分を疑おうが金は出すさ。ほら、質札な代わりだ」
そう言って N はポケットから紙切れを一枚出した。
如何にも質札という感じだがなんの意味もない。ただの小道具。
「それってすごく怒られない?」
「さもなきゃ俺がこれでお前の両腕叩き斬ってやる。ファミリーに叱られるか腕切り落とされるかどっちがいいか考えな。全く。利息分は店の好意でまけてんだぞ」
そう言ってNは男の剣を片手で抜き、そのまま縄を切る。
男の腰に縄が残ってるが気にしない。
「それじゃあ3日後だ」
そう言ってNは小汚い部屋から出ていった。
「「神さま!」」
ヘルファイヤーの下町。
正確に言えば貧民街。こんなところにいる神様は彼女しかいない。
「「おっぱい揉ませてください!!」」
「お前らどこでそんなクソみたいなセクハラ覚えた?」
えへへと笑う男の子の集団。
口汚くそれを罵る神様は外に出したテーブルに小汚いゆりかごをならべ、どっかに転がっていた木箱に座りながら近所の赤ん坊達の子守りをしている。
見た目は可憐で巨乳な少女なのに手つきは慣れたものだ。
「神様は神様なんですよね」
神様の名前は誰も知らない。
この辺じゃ名前もない人間は珍しくない。
この子供達も何人かは親ではなく神様が名前を付けた。
「なんか文句あっか?」
「神様らしくないなぁって」
「神様ってもっと偉そうにしてるよね」
「お金持ちだったり」
「賢そうだったり」
「女の子連れてるよね」
「女の神様だと男の子つれてることもあるよ」
「俺の友達も連れてかれたよ。帰ってこないんだ」
子供達は口々にそんなことを言う。
「全く嬉しくないクソみたいな評価だな。あと最後のちょっと聞かせろ」
ただこの貧民街は他の街と違って比較的治安がいい。
この神様のおかげだ。正確に言えば神様とそのファミリーが主体になって作った自治組織が組織的に仕事を作り、街の治安を維持しているおかげ。
この地域は神々の祝福や法の御加護など受けていないが、彼らには愛しき神様とその下僕がいる。
「おう、働いてるか?」
神様が子供達から連れてかれた友人の話を聞いたところにNが帰ってきた。
「回収率は?」
「5件中2件。1件は宝石差し押さえたのでチャラ。残り2件は後日だ。こっちも担保は押さえてある。蒼ざめた馬債権回収会社は一人で回してるにしてはなかなかの好成績と自画自賛してもいいよな」
「ただいま!とかおかえり!も言わないんですね」
二人のやり取りを聞いた子供の一人が、そんなことを述べた。
子供たちにとってはファミリーはこの二人のイメージだが世間一般のファミリーはもっとイメージ通りのことをしてる。
ダンジョンに潜ったり、アイテムを回収したり、みんなで訓練したり、食事したり、旅行したり、他のファミリードンパチしたり、勧誘したり、子供を誘拐洗脳したり。
なのでおそらく初めてファミリーを見るであろう皆さんも、勘違いしないようにしていただきたい。
二人は普通ではないのだ。
「債権回収は金になるてのは本当だったね。それよりちょっと出かける用事ができた」
「着いてく必要は?」
「ある。クソみたいな抗争沙汰になるかも」
「はぁ、二人しかいないんだよ。抗争もクソもあるかアホ。足りない脳みそにその胸の脂肪流し込め」
「アホみたいなことだろうがやる必要があるんだよ。クソみたいな話だけどね」
そんな怒鳴り合いともいえる会話をしたところ赤ん坊が泣き出した。
「おーよしよしよしよし」
「ながないで泣かないで」
そしたら二人は今までのどなりあいをやめて全力であやしている。
「不思議な人達だよね」
「本当本当」
その光景を見た子供達はそんな感想を述べ
「手伝え」
という神様の命令に従って赤ん坊をあやし始めた。
そして一週間後、一つのファミリーの本拠地が半分吹き飛んだ。爆弾テロ騒ぎだが不思議と死者は出ず、本拠地以外に被害はない。
極めて精密な爆破。テロリズムらしさがない。
そしてそれと同時になだれ込む冒険者ギルドと神々連合の司法部門
児童誘拐。人命軽視。奴隷労働。そういった罪の匿名の告発が各所に行われた。
ファミリーは壊滅。被害者の総数は不明。確認が急がれる。
そんな見出しが翌日の新聞を賑わしたが、ヘルファイアの下町に新聞を読めるやつなんてヤツは少ししかいないし、それだって町の連中が読んだ新聞が古紙回収で回ってきたのを眺める程度だ。
その頃にはみんなそんな話題に興味はなくなっている。この界隈の人間は誰がやったか知ってるしね。
世の中そんなもんだ。