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Relate/聖剣使いの英雄譚  作者: いんだよう
村の外れに住む少年
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7 才なき強さ

 手にはなにも持っておらず、腰にも剣すら掛かっていない。丸腰のイグレーンにラモラックは眉をひそめる。


「──木剣は使わないんですか?」

「私はこのままで大丈夫ですよ」

「……では魔法を?」

「ええ」

「……分かりました」


 イグレーンの魔力を感知するが、平均より少し高い程度。だが先程の苦い敗北を思い返し、なにも言わずに木剣を構える。


「じゃあ私からってことでしたよね?」

「いつでもいいですよ」

「……遠慮なく魔法を使っていいですか?」

「どうぞ。遠慮なく」

「──それじゃあ行きますよ」


 イグレーンが開始の合図を宣言すると同時に、ラモラックの周りを無数の火の球が囲む。


「──炎属性使いか」


 この世界では、一人につき一属性の魔法と基本魔法である無属性を使う。なのでラモラックはイグレーンを炎属性使いだと考えた。

 周りに現れた無数の〈火球ヒートボール〉が飛んでくるが、ラモラックは〈身体強化〉を使ってかわす。

 イグレーンの魔力量では攻撃魔法に限界があると考え、回避に徹することにしたのだ。

 このまま避け続ければ勝てるはずなのだが、先程のことから不安が拭いきれない。

 ──今度は周りに無数の水の球が現れた。


「──なっ!」


 ラモラックは驚愕する。

 通常一人につき一属性しか持っていない魔法だが、まれに二属性以上を操れる者もいる。

 ──イグレーンは炎と水を操る二属性使いだった。

 驚きはしたが二属性扱えたとしても所詮魔力量は乏しいと考え、ラモラックは再び意識を集中させる。

 シャボン玉のように宙に浮かぶ複数の〈水球ウォーターボール〉が一つに集まり、その大きさを増していく。


「──一体なにを……」


 訳が分からないラモラックを余所に、巨大な水球にイグレーンが〈炎球ファイアボール〉を放つ。

 水に当たると大した威力のない小爆発が起こり、辺りを水蒸気が覆う。


「──っ!」


 霧のように周りを囲まれ、視界を奪われたラモラックだが、見せずとも魔力探知は使える。

 感知したイグレーンの魔力を目掛けて走り出す。

 抵抗するように炎球が飛んでくる。ラモラックは体を捻って全て避けるが、霧が晴れると同時にイグレーンが魔法を発動させた。

 ──再び辺りを霧が覆う。


「そんなことをしても無駄──っ!」


 ──魔力探知が使えなかった。

 今度は姿だけでなく、魔力すらも覆い隠す魔法〈隠蔽霧ミスト〉だった。正真正銘ラモラックはなにも見えなくなる。

 真っ白な世界では抵抗もできず、気付けば木剣を奪われ、首元に突きつけられていた。


「──私の負けです」


 ラモラックが両手を上げて降参した。

 首元から木剣を離したイグレーンは、模擬戦中に気になったことを伝える。


「軍団長さん強化魔法しか使ってないようだったけど……全力で戦ってないですね?」

「──それはお互い様でしょう? あなたも下級魔法しか使っていなかったじゃないですか」

「やっぱり模擬戦では魔法の威力は抑えたほうがいいかなと思ったんですよ」


 二人が感想戦のように話していると、イグレーンの隣にユーサーが歩いてきた。


「俺たちはアーサーに技術を教えます」

「──確かにこれは……師として相応しい強さだ」


 生まれつきの才能で強い者や、感覚で強くなった者は人に教えるのが下手な者が多い。

 対称に技や化学反応などを研究し、考え抜いた『技術』で強くなった者は頭で理解しており、人に教えるのが上手いのだ。


「……分かりました。では三年後にまた来ます」

「はい。三年で俺は『剣技』を──」

「私は『魔法』を──」

「──アーサーに教えます」


 二人の声が重なる。


「──人族の希望を……よろしくお願いします」


 聖剣に選ばれた少年の両親に、ラモラックは頭を下げる。

 そんな光景をアーサーは遠目からぼんやりと眺めていた。


「──俺が……人族の希望……」


 自分が人族の希望と呼ばれたことに、アーサーは実感が沸かず、胸の奥に違和感を持った。



◇◆◇◆◇



 雲一つないが晴れとは言い難い濁った空の下。禍々しい漆黒の城が建っている。


 城内に電球などはない。ガラスから薄っすらと差し込む月光によって、なんとか影が映し出されている。


「──報告します。我が配下アルワが魔族領外に行ったきり帰っていません」


 薄暗い広間にて、魔族が玉座に座す主に平伏していた。

 肉体の色に侵食されてしまったのか、黒に近い深緑の髪を持つ魔族アンファングは、顔を上げることなく報告を続ける。


「調査したところ、その近辺には人族が彷徨うろついており、人族に殺された可能性があります」


「それだけか? ならば去れ。ただでさえ厳しい状況だというのに、幹部でもない者のことなどいちいち報告するな」


 報告を受けている主は、血のように真っ赤な瞳から冷たい視線を送っている。それでも平伏した姿勢を保ち、落ち着いて口を開く。


「ですが、人族の中でなにやら不穏な動きがあるようなのです」


「所詮人族のすることだろう? 放っておけ」


「なにか嫌な予感がするのです」


「…………」


 根負けしたのか主は小さくため息をつく。


「ならば己が配下と共に人族を駆除してくればよい。だが今はならん。他の者らが動き始めている」


「では……」


「三年もすれば収まるだろう。現状『幹部』一人欠けるも惜しい。決して城を離れるな」


「……かしこまりました」


 アンファングが立ち上がって頭を下げると、主は体の前に手を出す。


「今は自陣を固めるが先決。三年は籠城する。他の者らに攻め入る隙を与えるな。三年後、人族殲滅の許可を出そう」


「ハッ! ──魔王パズズ様」


 魔王──パズズから命令を受けたアンファングは、ビシッと敬礼し王座の間を後にした。

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