表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/73

51 幼い子を言い表す言葉はまだこの世界に存在しない

(このままじゃ終わる……ど、どうすれば……)


 グェネヴェアのおかげで、エリザベスがアーサーも好きなのを自覚してしまった翌日──


(アーサーとエリザベスは両思い……もう勝ち目ないな。ここから逆転は……あいつに話を聞くか)


 考えた末にグェネヴェアは、とある人物の元へと向かう。


「やはりここにいたか」

「グェネヴェア中隊長……ど、どうしたんですか?」


 訓練場にいたレークスは、グェネヴェアを見ると顔を少し青ざめる。


(未だ信頼は得られていないか……だが今はそんなことどうでもいい)


「レークスはエリザベス軍団長をどう思っている」

「え? もしかしてファンクラブ入団希望ですか?」

「えっ、あ、いや──」

「なんだ、それなら早く言ってくださいよ〜」

「ちょ、ちょっと私の話を──」

「はいこれっ!」


 エリザベスファンクラブ会員カードと書かれた、土属性で作った四角い紙を、レークスは満面の笑みでグェネヴェアに渡す。


「これで中隊長もファンクラブの仲間入りですよっ!」

「あ……はい」

「これがあれば、うち土属性使い(仕入れ係)が取り揃えたリーダーのグッズが買えますんで、中隊長も是非来てくださいねっ! 売ってる場所はカードの裏に載ってるんで!」


 興奮して話を聞こうとしないレークスだったが、ようやく落ち着いてきたので、グェネヴィアは疲れたように息を吐く。


「レークスは……軍団長のことどう思ってる?」

「そりゃ大好きに決まってますよっ!」


(言葉の意味をそのまま捉えるなら喜ぶべきところだが、これは望んだ回答ではない気がする)


「そうか……では私はこれで」

「グェネヴィア中隊長っていい人だったんですね」


 素振りに戻るレークスを見て、グェネヴェアは頭を押さえて訓練場から離れる。


「ん? レークスの信頼は得られたんじゃないか?」


 予想外の収穫があり、気分が軽くなったグェネヴィアは、ある場所へと向かう。


「エリザベスッ!」


 グェネヴィアは軍団長室のドアを勢いよく開き、座っているエリザベスの前まで歩く。


「な、なんでしょうか」

「レークスとアーサーをどうして好きになったのか教えろ!」

「え、え〜っと……とりあえずドアを閉めてからでよろしいでしょうか?」


 グェネヴェアの迫力にされ、エリザベスは思わず敬語になってしまう。

 エリザベスの話を聞くために、グェネヴィアはドアを締める。


「じゃあ、まずアーサーくん……私の命を救ってくれて、子供ながら、私好みのかっこいい目をしてるのと、身長が小さいところ」

「え? 身長が小さいのが好きなのか?」

「じ、実は私……幼い男の子が好きなんだ。もちろん恋愛対象としてね」


 頬を赤く染めるエリザベスを見て、グェネヴェアは鳥肌が立ち、顔が青ざめていく。


「もしかしたらここから成長しちゃうかもしれないけど、もしずっとあのままなら……」


 なにを想像しているのか、グェネヴェアには分からないが、エリザベスはよだれを垂らす。


「おっとまた……」


 エリザベスは涎を拭く。


(今、またって言ったな)


「アーサーくんと初めて会った時もつい涎が出ちゃったんだよね。考えるフリして誤魔化したけど」


(悪寒が……まさかここまでの変態だったとはな……)


 すぐにでも帰ろうかと悩んだグェネヴェアだが、一応レークスの話も聞きたいので、仕方なく残る。


「次はレークス……身長が低いのもそうだけど……彼は私のヒーローだから」


(逆じゃなくて? レークスからするとお前がアイドルなんだが……)


 グェネヴェアは少し混乱するが、とりあえずエリザベスの話を聞く。


「まだ私が解放軍に入る前──今から十年前になるかな」


 まだエリザベスが九歳の頃──解放軍だった両親は、魔族に遭遇して死亡する。

 エリザベスは親戚の家に預けられ、優しい叔母さんの元で不自由なく暮らせていたが、両親を失った心の傷が癒えることはない。


 一年が経ったある日──エリザベスがいる親戚の家に、子連れの父親がやってきた。二人は解放軍に向かう途中で村に寄り、数日間だけ泊まりたい言う。

 叔母さんが了承したので、エリザベスは他人の親子二人と、数日間生活することになった。


「その時の子供がレークスだったんだよ。レークスの方は覚えてないけどね」

「そんなことが……」

「ここからが重要なところなんだけど──」


 父親は息子であるレークスの才能が凄まじく、是非解放軍に入らせようということだ。

 まだ六歳の少年を解放軍に連れて行くという考えに、エリザベスは反対したが、父親の意思は固かった。


 二日目にレークスと模擬戦をすることになったエリザベスだが、四歳年下の少年相手に、手も足も出ず完敗する。

 何度やっても数秒で一本取られ、エリザベスの剣は掠りもしない。


 その日の夜──夕飯を取っている最中、エリザベスはレークスに、どうやって強くなれるのかを聞く。

 真剣も握ったことのないエリザベスだが、両親を殺した魔族がどうしても許せず、いつかはかたきを取りたいと思っていたのだ。

 だが期待とは裏腹に、レークスはドヤ顔で才能と言い放つ。呆気に取られるエリザベスだったが、まだ言葉は続いていた。


 ──才能。あとは頑張れば強くなれるけど?


「なんでもないように六歳の子供が言うんだよ? 私はその言葉に希望をもらえた」

「そう、なのか?」

「次の日には村を出てっちゃったけど、私も頑張って五年後──成人してから解放軍に来た。そこでレークスを見て……好きだって自覚した」

「な、なるほど」


(六歳のレークスを好きになったから、幼い子が好きということなのか……)


「身長が少し伸びてたことは残念だったけど、まだ小さいからね。将来伸びないことを祈ってるよ」


 不気味な笑みを浮かべながら、エリザベスは涎を拭く。


(やはりただの変な奴かもな)


「実は土属性使いの人に頼んで、レークスの人形を作ってもらったこともあるんだけど──」


 エリザベスの話を聞いていくと、グェネヴェアはさらに混乱してしまう。


(だから逆だよな? 現在進行形でレークスも同じことやってるぞ?)


 そのかんにもエリザベスがなにかを話しているが、グェネヴィアは頭の中を整理していく。


(とにかく話をまとめると……レークスとは昔会っていて、感動? の再会を果たしてた。しかも互いに同じような行動を取る……これは二人の相性がいいからに決まってる。絶対そうだ)


 グェネヴェアがそんなことを考えていると、軍団長室のドアから、コンコンという音が聞こえる。


「軍団長! 至急外へ来てください!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ