51 幼い子を言い表す言葉はまだこの世界に存在しない
(このままじゃ終わる……ど、どうすれば……)
グェネヴェアのおかげで、エリザベスがアーサーも好きなのを自覚してしまった翌日──
(アーサーとエリザベスは両思い……もう勝ち目ないな。ここから逆転は……あいつに話を聞くか)
考えた末にグェネヴェアは、とある人物の元へと向かう。
「やはりここにいたか」
「グェネヴェア中隊長……ど、どうしたんですか?」
訓練場にいたレークスは、グェネヴェアを見ると顔を少し青ざめる。
(未だ信頼は得られていないか……だが今はそんなことどうでもいい)
「レークスはエリザベス軍団長をどう思っている」
「え? もしかしてファンクラブ入団希望ですか?」
「えっ、あ、いや──」
「なんだ、それなら早く言ってくださいよ〜」
「ちょ、ちょっと私の話を──」
「はいこれっ!」
エリザベスファンクラブ会員カードと書かれた、土属性で作った四角い紙を、レークスは満面の笑みでグェネヴェアに渡す。
「これで中隊長もファンクラブの仲間入りですよっ!」
「あ……はい」
「これがあれば、家の土属性使いが取り揃えたリーダーのグッズが買えますんで、中隊長も是非来てくださいねっ! 売ってる場所はカードの裏に載ってるんで!」
興奮して話を聞こうとしないレークスだったが、ようやく落ち着いてきたので、グェネヴィアは疲れたように息を吐く。
「レークスは……軍団長のことどう思ってる?」
「そりゃ大好きに決まってますよっ!」
(言葉の意味をそのまま捉えるなら喜ぶべきところだが、これは望んだ回答ではない気がする)
「そうか……では私はこれで」
「グェネヴィア中隊長っていい人だったんですね」
素振りに戻るレークスを見て、グェネヴェアは頭を押さえて訓練場から離れる。
「ん? レークスの信頼は得られたんじゃないか?」
予想外の収穫があり、気分が軽くなったグェネヴィアは、ある場所へと向かう。
「エリザベスッ!」
グェネヴィアは軍団長室のドアを勢いよく開き、座っているエリザベスの前まで歩く。
「な、なんでしょうか」
「レークスとアーサーをどうして好きになったのか教えろ!」
「え、え〜っと……とりあえずドアを閉めてからでよろしいでしょうか?」
グェネヴェアの迫力に圧され、エリザベスは思わず敬語になってしまう。
エリザベスの話を聞くために、グェネヴィアはドアを締める。
「じゃあ、まずアーサーくん……私の命を救ってくれて、子供ながら、私好みのかっこいい目をしてるのと、身長が小さいところ」
「え? 身長が小さいのが好きなのか?」
「じ、実は私……幼い男の子が好きなんだ。もちろん恋愛対象としてね」
頬を赤く染めるエリザベスを見て、グェネヴェアは鳥肌が立ち、顔が青ざめていく。
「もしかしたらここから成長しちゃうかもしれないけど、もしずっとあのままなら……」
なにを想像しているのか、グェネヴェアには分からないが、エリザベスは涎を垂らす。
「おっとまた……」
エリザベスは涎を拭く。
(今、またって言ったな)
「アーサーくんと初めて会った時もつい涎が出ちゃったんだよね。考えるフリして誤魔化したけど」
(悪寒が……まさかここまでの変態だったとはな……)
すぐにでも帰ろうかと悩んだグェネヴェアだが、一応レークスの話も聞きたいので、仕方なく残る。
「次はレークス……身長が低いのもそうだけど……彼は私のヒーローだから」
(逆じゃなくて? レークスからするとお前がアイドルなんだが……)
グェネヴェアは少し混乱するが、とりあえずエリザベスの話を聞く。
「まだ私が解放軍に入る前──今から十年前になるかな」
まだエリザベスが九歳の頃──解放軍だった両親は、魔族に遭遇して死亡する。
エリザベスは親戚の家に預けられ、優しい叔母さんの元で不自由なく暮らせていたが、両親を失った心の傷が癒えることはない。
一年が経ったある日──エリザベスがいる親戚の家に、子連れの父親がやってきた。二人は解放軍に向かう途中で村に寄り、数日間だけ泊まりたい言う。
叔母さんが了承したので、エリザベスは他人の親子二人と、数日間生活することになった。
「その時の子供がレークスだったんだよ。レークスの方は覚えてないけどね」
「そんなことが……」
「ここからが重要なところなんだけど──」
父親は息子であるレークスの才能が凄まじく、是非解放軍に入らせようということだ。
まだ六歳の少年を解放軍に連れて行くという考えに、エリザベスは反対したが、父親の意思は固かった。
二日目にレークスと模擬戦をすることになったエリザベスだが、四歳年下の少年相手に、手も足も出ず完敗する。
何度やっても数秒で一本取られ、エリザベスの剣は掠りもしない。
その日の夜──夕飯を取っている最中、エリザベスはレークスに、どうやって強くなれるのかを聞く。
真剣も握ったことのないエリザベスだが、両親を殺した魔族がどうしても許せず、いつかは敵を取りたいと思っていたのだ。
だが期待とは裏腹に、レークスはドヤ顔で才能と言い放つ。呆気に取られるエリザベスだったが、まだ言葉は続いていた。
──才能。あとは頑張れば強くなれるけど?
「なんでもないように六歳の子供が言うんだよ? 私はその言葉に希望をもらえた」
「そう、なのか?」
「次の日には村を出てっちゃったけど、私も頑張って五年後──成人してから解放軍に来た。そこでレークスを見て……好きだって自覚した」
「な、なるほど」
(六歳のレークスを好きになったから、幼い子が好きということなのか……)
「身長が少し伸びてたことは残念だったけど、まだ小さいからね。将来伸びないことを祈ってるよ」
不気味な笑みを浮かべながら、エリザベスは涎を拭く。
(やはりただの変な奴かもな)
「実は土属性使いの人に頼んで、レークスの人形を作ってもらったこともあるんだけど──」
エリザベスの話を聞いていくと、グェネヴェアはさらに混乱してしまう。
(だから逆だよな? 現在進行形でレークスも同じことやってるぞ?)
その間にもエリザベスがなにかを話しているが、グェネヴィアは頭の中を整理していく。
(とにかく話をまとめると……レークスとは昔会っていて、感動? の再会を果たしてた。しかも互いに同じような行動を取る……これは二人の相性がいいからに決まってる。絶対そうだ)
グェネヴェアがそんなことを考えていると、軍団長室のドアから、コンコンという音が聞こえる。
「軍団長! 至急外へ来てください!」




