40 戦況と気付き
気を失っているボールスとペリノアを守るため、エリザベスは不死のゾンビ十数人を相手に、たった一人で戦っていた。
「くっ……」
(このままじゃ……)
水属性には、遠距離攻撃且つ魔力消費の少ない魔法があるが、ゾンビを消滅させられるようなものはほとんどない。
エリザベスは先程までの戦いで魔力をかなり消費しており、今のところ足止めはできているが、すでに魔力の限界が近かった。
(災害級を使えるような魔力はもうない……水属性だと、せめて押し流す程度が精一杯……誰か呼ばないと……)
〈雨〉
このままではどっちにしろ負けると判断したエリザベスは、残り少ない魔力を使い、解放軍基地上空を除いた、周辺に水滴を降らせる。
(これで近くにいる人はここに来てくれるはず……お願い……助けて)
◇◆◇◆◇
(これは、リーダーの魔法か……)
突然水滴が振り始めたため、レークスは上空を見渡す。すると一箇所だけ、空が晴れている場所があった。
(あそこは解放軍基地……ってことはやっぱリーダーがピンチってことか……でも──)
〈凍結〉
周りを取り囲むゾンビを、凍らせていくレークスだが、その後ろから次々とゾンビが現れる。
「くそっ! きりがねぇなこれ」
氷属性は、凍らせることで体温を低下させ、死に至らしめることができるが、ゾンビはもともと死んでおり、肉体も腐っているので、相性が悪かった。
(すぐにでも助けに行きたいんだが、全然ここから抜け出せねぇ……てか抜け出せたとしてもこいつらを基地に連れてっちまう)
レークスは〈凍結〉で数十人のゾンビを凍らせているが、一向に減る気配なく増えていき、すでに凍らせている氷にはヒビが入る。
(俺はここから離れらんねぇ……ここは他の奴らに任せるしかねぇな)
◇◆◇◆◇
〈旋風の防壁〉
風がゾンビたちを斬り裂いていく。だが傷はすぐに修復され、再び襲いかかる。
「魔力消費は極力控えて! ギリギリまで魔法は使うな!」
ケーニッヒとそれ以外の解放軍メンバーは、数百を超えるゾンビたちを相手に、連携して戦っていた。
数では解放軍側が圧倒的に勝っているが、不死のゾンビ相手には、数で押し切ることができない。
「こいつら体力は減らねぇのかよっ! 傷も治ってくし……首を斬っても死なねぇとか反則だろっ!」
(それに半数ぐらいは、あの襲撃で死んだラモラック隊のメンバーってのが嫌なとこだ)
そうして戦っていると、突然空から水滴が振り始める。
「くそっ!」
(リーダーがピンチなのか……だけど今ここを離れたら、ここにいる仲間たちに、指揮できる奴がいなくなっちまう)
ゾンビの魔法を回避した勢いで、ケーニッヒは上空へ飛び、一瞬だけ空を見渡すと、解放軍基地辺りの上空だけが晴れていた。
(本当は助けに行きたいんだが、ここで俺がいなくなれば、最悪解放軍は全滅する……それだけはできねぇ)
ゾンビにやられそうな仲間を見つけ、ケーニッヒは地上に降りる。
(ここは他の奴らに任せるしかねぇな)
◇◆◇◆◇
(誰も来ない……やっぱりみんな、こいつらと戦ってるよね……)
まともな魔法が使えなくなるほど、魔力がなくなってきたエリザベスに、ゾンビの魔法が直撃する。
(もう終わりか……)
解放軍基地まで吹き飛ばされたエリザベスは、すでに魔力と体力だけでなく、戦う気力すら残っていなかった。
倒れたまま動かないエリザベスに向かって、ゾンビたちが歩いてくる。
(あぁ……死ぬんだったら……最後に伝えとけば良かったな……)
目の前で剣を振り上げるゾンビを見て、エリザベスは涙を流す。
「誰か、助けて……」
「「りょ〜かい」」
突如ゾンビが燃え盛り、基地の入り口を岩が塞ぐ。
「大丈夫ですか?」
「なんなのあいつら」
「あ、あなたたち……目が覚めたのか」
エリザベスを助けたのは、魔族ブーゼの災害級によって意識を失っていた、ボールスとペリノアだった。
「おかげさまで」
「ここまで運んでくれたお礼に助けてあげるわ」
「ありがとう。心強いよ」
「いえいえ。感謝されるようなことではないです」
ボールスの手を取り、エリザベスが立ち上がると、ペリノアは周りをキョロキョロと見渡す。
「と、ところで……ノーデンス様はどこに?」
「ノーデンス中隊長? どこにって……あれ?」
ペリノアの言葉を聞いたエリザベスは、なにか重要なことに気付いたように目を見開く。
「そういえば……魔族が攻めてくる少し前から、ノーデンス中隊長の姿を見ていない」




