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38 死者との再会

 二人は同じ場所を見ていた。アーサーは二人の視線の先に目を見やる。

 ──肌が腐っている赤みがかった茶髪の男がいた。

 明らかに死んでいるはずが、右手に剣を持って立っている。

 パンドラによって死体のまま蘇った解放軍元軍団長ゴルロイスだった。

 アーサーの記憶に目の前の男は存在しない。だがエレインとモルゴーンは絶句していた。


「なんで……」

「どうして……」


 次の言葉にアーサーは耳を疑った。


「パパ……」

「父さん……」

「──え?」


 とても人族には見えなかったが、そもそもエレインとモルゴーンの父親は死んでいるはず。


 ──アンデットになったってこと? いや、腐ってるけど肌があるから違うか……。じゃあ未確認のアンデットなのかもしれないな。


 アーサーが観察していると、蜃気楼よろしくゆらりとゴルロイスの姿が消える。

 ──気付けばアーサーはエレインに抱えられ、モルゴーンがゴルロイスの剣を受け流していた。


「父さん……俺は父さんを傷つけることはできない」

「誰がパパにこんなことを……絶対許せない」


 アーサーを地面に降ろしたエレインは、怒りを抑えるように拳を握りしめ、身体から炎が漏れ出す。

 エレインが本気で怒ってるのを初めて見たアーサーは、射殺すような鋭い殺気にも似た魔力を感知し背筋が凍る。


「──姉さん?」


 アーサーが声を掛けると、エレインはハッと我に返り、魔力を元に戻して優しく微笑む。


「……アーサーありがとね。また助けられた」


 また助けられたの『また』に違和感を持ったアーサーだったが、今は頭の片隅に退けた。

 ──留まることなく生成する岩を足場に、ゴルロイスは空中を高速で飛び交う。

 対抗するようにアーサーたちも速度を上げ、剣と魔法の撃ち合いが始まった。


「──アーサー成長したね」

「これなら俺たちが守る必要もないな」

「俺は大丈夫。それよりもどうするの?」


 エレインとモルゴーンは冷や汗を垂らす。

 ゾンビとなり理性が消えたゴルロイスなど、苦戦することなく二人は容易く勝てるだろう。

 だが父であるゴルロイスを殺すのは、例えもう死んでいたとしてもできなかった。


「このままじゃここで足止めされちゃうよ」

「……あたしたちがパパを止めておくから、アーサーは解放軍のみんなを助けに行って」

「──姉さんありがとう」


 アーサーは〈光速移動シャイニングムーブ〉でこの場をあとにしようとするが、突如ゴルロイスから魔力が溢れ出し、エレインとモルゴーンは風圧で吹き飛ばされてしまう。


「──うおっ」

「うくっ……アーサー‼」


 二人から解放されたゴルロイスは、加速してアーサーの背中を視界に捉え、土属性の災害級〈隕石落下メテオストライク〉を発動させた。

 ゴオォオォと摩擦で燃え盛る流星が、上空からアーサー目掛けて落ちる。

 音を置き去りにする爆風が通り過ぎたあと、時間差で鼓膜が破れそうな爆音が鳴り響く。


「──アーサー‼」


 エレインとモルゴーンが同時に叫ぶ。

 災害級によって周りの木々は倒れ、地面には巨大なクレーターができた。

 吹き荒れる暴風を防御魔法で防ぎながら、エレインはアーサーがいた場所へ急ぐ。


「──いない……」


 隕石のあとにアーサーの姿はなかった。


「……どこ……アーサーは……どこ……アーサー……」

「──ここにいる‼」

「──っ!」


 エレインが慌てて振り向くと、全身を雷で覆ったグェネヴェアが、アーサーを抱えていた。


「──アーサー‼」


 アーサーに駆け寄りエレインは勢いよく抱きつく。


「良かった……生きててくれて……アーサーがいないと……あたしは……」

「い、息が……」


 苦しそうに顔を青ざめるアーサーを見て、エレインは慌てて離れる。


「ご、ごめんね!」

「……姉さんに殺されるところだった」

「ごめんねアーサー。痛くなかった?」

「めちゃくちゃ痛かった」

「だ、大丈夫⁉」

「──少しは落ち着け」

「あたっ!」


 慌てふためくエレインの頭を、背後からモルゴーンが手刀で打った。


「全く……お前を見ていたら冷静になれた」

「……ならあたしに感謝するべきじゃない? なんで叩いたのかな?」

「今は目の前に集中しろ」

「はっ! そ、そうだった……」

「お前……忘れてたのか……」


 呆れたようにため息をつくモルゴーンだが、呼吸を整えるエレインを見てどこか嬉しそうな笑みを浮かべる。


 ──あのエレインが状況を忘れるほど焦るとは……よっぽどアーサーが心配だったんだな。


 モルゴーンが横に視線を移すと、すでに臨戦態勢と言わんばかりに、剣を構えてゴルロイスを睨むエレインがいた。


「アーサー、グェネヴェア。二人共戦えるな?」

「本音ではアーサーには戦ってほしくないけど、情けないことにあたしたち二人じゃ、あのパパは止められそうにない」

「もちろん俺も戦うよ」

「無論私もだ」


 魔物のような唸り声を上げたゴルロイスは、これまで以上の速度で動き出す。

 さらに加速したゴルロイスだが、魔力が膨れ上がったことで、魔力探知が使え反応しやすくなった。

 ゴルロイスの攻撃を躱したアーサーは、同じく回避するモルゴーンを見てふと疑問に思う。


 ──なんで兄さんはあんなに速く動けるんだろう。


 アーサーは光属性で、炎属性のエレインに、グェネヴェアが雷属性と、速度に特化している魔法属性。

 対してモルゴーンは速度が全くない土属性なのにも関わらず、三人には及ばずとも同等レベルの速度で移動できている。


「──兄さん!」

「アーサーどうした?」


 エレインとグェネヴェアがゴルロイスの相手にしているタイミングを見計らい、アーサーはモルゴーンの隣に移動した。


「どうやってそんなに速く動けるの?」

「ん? ああそうか。アーサーにはまだ言ってなかったな」


 モルゴーンは手に持つ白黒の剣を前に出す。


「この神器〈ワズラ〉はな、重量を自由自在に変えられるんだ」

「……そうなんだ。でもそれでどうやって速く動くの?」

「ふむ……それは見てれば分かる。それより来るぞ!」

「──っ!」


 ゴルロイスが撃った岩の弾を、二人は危なげなく回避する。

 アーサーはモルゴーンを観察する余裕すらあった。

 ──モルゴーンが岩を避ける時、〈ワズラ〉の剣先を進行方向に向けていた。

 一瞬だけ〈ワズラ〉の重さを上げ、遠心力を使って高速移動していたのではないかと、アーサーは推測する。

 思考しながらも相手の動きをよく見て躱していると、突如──ゴルロイスの動きがピタリと止まった。


「──え?」


 アーサーが戸惑いを隠せずにいると、その刹那──強大かつ不気味な魔力が一帯を覆っていく。

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