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世界一あったまいい俺がゴブリンの巣からのし上がる!!  作者: 龍輪龍
第二章 堕ちて汚れた危険物、その輝きは泥濡れの
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鉱山奴隷 ~命の錬金術~


「きゃ――――……んもぐっ?!」


 レヴィの悲鳴を塞いで抑えた。人間族(トールマン)に見つかれば面倒なことになる。

 俺が人間を警戒するなど、おかしな話だが――――。

 ――――少なくとも友好的な人種には見えない。



「こんなんじゃ足んねぇぞ! オラァッ! キリキリ働け! ――――出来の悪い奴は間引くからな!!」


 松明を握った人間(・・)は怒声を張り上げ、周囲を威圧する。ドワーフ族のような陽気さはどこにもない。

 鉱夫の手が遅いと見るや、その背に鞭を打ち付ける。

 連中と鉢合わせないように進む中、そんな場面に幾度も出くわした。


「……ひどい。……こんなの、ひどいよ……」


 心根の優しい少女は、目にした光景に耐えきれず感情を溢れさせていた。

 いつもの強がりが見る影もない。


「……ねぇ、ダダン。助けてあげようよ」

「やめた方がいい」

「……なんで? どうしてそんな冷たいこと言えるの?」

「一場面だけ切り取って、どっちが悪い奴、なんて決められないだろ」

「そんなの決まってるわ。痛い思いして、可哀想でしょ……!?」

「よく見ろ。みんな枷を付けてる。逃げないように」

「……それがなに?」


 ――――鉱山奴隷だ。こいつらは。

 よほどの重罪人でもなければ、なりえない。


 奴隷というのは一般にイメージされるほど扱いは悪くない。所有者にとっては羊や牛より価値のある財産なのだから。長持ちさせなきゃ丸損だ。衣食住は保証され、場合によっては結婚も可能だったと聞く。

 人と区別されはしたものの、能力があれば重宝され、家庭教師を任される奴隷もいた。

 後世に名を残したイソップ童話の作者も、出自は奴隷である。


 だが物事には例外が付きものだ。

 鉱山奴隷もその一つ。

 酸素の薄い暗闇で、鉱物から発生する有毒ガスを吸いながらの重労働。生傷は絶えず、満足な治療も受けられない。

 そのあまりの過酷さ故、平均寿命は、たったの3ヶ月。


 損得勘定の出来る奴隷主なら、そんなところに大切な財産を投じたりはしない。

 では誰がやるのか。

 使い捨てにして良い命だ。

 ――――重罪人か戦争捕虜。社会では危なくて使えない奴隷が、この地獄へ送り込まれ、金銀に変換されている。


 それが鉱山刑。

 強制労働のくっついた合理的死刑である。



「……あの子も、そうなの?」


 レヴィが指差した先、幼い子供がうずくまっていた。

 泥まみれのくすんだボサ髪。

 俺達の格好がマシに見えるほどボロボロの衣服。

 背中にはミミズ腫れが覗いていて、そこへまた、鞭が打ち据えられる。

 見張りの怒声に急かされ、落とした鉱石を掻集める。

 次の瞬間サッカーボールのように蹴飛ばされ、幼い体はくの字に曲がった。

 転がる体が何度も踏みつけられる。




 ――――ドォンッと、凄まじい衝撃が坑内を吹き抜けた。


「ガスだ! 崩落するぞ! 退避ッ! 退避ーッ!」


 悲鳴と共に泡を食って逃げ出す監督官達。

 ガス突出は熟練者ほど恐ろしい。生き埋め、窒息、毒ガス、丸焼き……死因は山のようにある。すぐにその場を離れるのが正解だ。命は一つきりなのだから。…………例えそれが、虚仮威こけおどしだったとしても。


「……すごい。ホントに追っ払っちゃった」

「だろう? なにせ俺は世界一、……なんて言ってる場合か。すぐ戻ってくるぞ。早く運ぼう」

「そ、そうね!」


   ・


   ・


   ・


 置き去りにされた幼子を背負い、里まで帰ってきた。

 緊張の糸が切れたのだろうか、目覚める様子はない。


「待って。誰か来る」


 先行するレヴィが、こちらに手の平を向けてささやく。

 岩陰に隠れてやり過ごした。

 ドワーフの里は他種族の立ち入りを禁じている。その為に関所があるほどだ。人間族(トールマン)など、見つかったそばから叩き出されてしまうだろう。


 早く人目の付かないところに移動しなければ。

 自宅が使えれば簡単だったのだが、俺達の住居は部屋単位。――復興で多少はマシになったものの――まだプライバシーはないに等しい。とても匿えない。


「レヴィの部屋はどうだ? 族長の家なら部外者は近づけないだろ?」

「……ううん。お手伝いさんが出入ではいりするのよ。……あのコウモリの巣はどうかしら……」

「衛生面で不安だな。傷口から感染するかもしれない」


 うーん。と考え込む声がハモった。


「……やっぱり返してくるか。元居た場所に」

「それはダメ」


 強い眼差しで、ぎゅっと腕を引いてくる。こうなったら梃子でも動かない。それが分かるほど長い付き合いになってしまった。

 確かに、みすみす手放すのは俺も惜しい。


「仕方ない。……レヴィの口の硬さ、信用していいよな?」

「もちろん! ダイヤモンドだって噛み砕けるわ!」

「物理的な意味でなく」


 背に腹だ。

 やや不安を感じるが、弱みを一つ晒すことにした。

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