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世界一あったまいい俺がゴブリンの巣からのし上がる!!  作者: 龍輪龍
第二章 堕ちて汚れた危険物、その輝きは泥濡れの
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二肌脱ぎましょう

「ギャラララララララララッ!!」


 坑道よりも太い体。


 規格外の大蛇がうねる度、黒い甲鱗が岩盤を削る。

 ズガガガガガッ、と山を揺らす。

 文字通りのモンスタードリル。

 ついに岩盤を砕き割って飛び出した。そこにレヴィとダダンの姿はない。


 頭を低くして、先割れした舌でチロリと空気を舐める。

 それだけで二人の逃げた方向が分かってしまう。

 野生の蛇が鼠の通り道を辿って獲物を狩るのと同様に、『蛇』の権能を受け継ぐジェイドも、二人の残り香を追うことができる。


 レヴィの(におい)はよく覚えている。柔らかな頬の感触も、乳臭い香りも。

 体をくねらす毎に匂いが強くなる。ぐんぐん距離を詰める。

 狭い道も削り壊して猛追する。


 蛇のようにしつこい、という修辞表現がある。それは真実だ。

 一度狙った獲物は逃がさない。

 何十時間かけてでも必ず追い詰める。

 警察犬以上の嗅覚。それに加え、ピット器官と呼ばれる『第三の目(サーモ・アイ)』によって、赤外線を感知できる蛇に死角はない。


 人類がサーモグラフィを実用化したのは、ここ50年以内のことであるが、ヘビは有史以前より、その能力を備えていた。

 いくら物陰に身を潜めようと、『体温』までは隠せない。


 岩の後ろで震えるレヴィを透視して、回り込みを掛ける。

 彼女の姿を肉眼でも捉えた――――瞬間、大蛇の右目が爆ぜた。


 レヴィがマグナム弾をブッ放ったのだ。

 大の大人でも正しい姿勢で撃たなければ、肩がぶち壊れるほどの反動を味わうそれを、ドワーフの膂力(りょりょく)で無理やり扱ってみせた。

 激痛に暴れ回る大蛇。

 レヴィはその隙を突き、這うように逃げ出した。



 シューシューと息を巻いて追跡する大蛇。

 二人の匂いは鍾乳洞の奥に続いていた。


 ムワッと立ち込めるどぶ川のような悪臭。人間さえ吐き気を催す劣悪な空気だ。嗅覚の鋭敏な蛇にとっては拷問に等しい。爬虫類的な無表情を限界まで歪めた。

 臭いの原因は天井にある。

 ぶら下がった無数のコウモリが落とす糞尿、そして死骸。


 それらは柔らかな土と混ざって発酵し、ジリジリと熱を放っている。

 まるで蒸し風呂かサウナのよう。

 そこら中が熱源なのだ。『第三の目(サーモ・アイ)』が映す世界はオール・レッド。使い物にならない。


 ――――視界を奪って不意打ちする気か。


 嗅覚とピット器官を潰された大蛇が、唯一残った片目を凝らす。

 暗闇にぬぼぉ、と光る蛇の片目。……そこへ再び銃弾が刺さった。

 爆ぜる眼球。横倒しになり、のたうち回る大蛇。


 苦悶の絶叫が反響する。土埃が舞う。

 そんな中、大蛇は(かす)かな匂いを嗅ぎ取った。彼が執着して止まないレヴィの匂いを。

 一緒にいるダダンの匂いを。


 か細い糸を手繰るように猛進する。

 怒りに支配された巨体にブレーキはない。

 ぐぉおおおおおおっ、と開かれた大顎が、レヴィとダダンを丸呑みにした。



 ――――ゴクンッ。



 飲み込んだ瞬間、大爆発。耳をつんざく轟音が吹き抜ける。

 体内から弾け飛ぶ黒蛇。

 彼が飲み込んだのはレヴィとダダンではなく、二人の服を羽織った人形(デコイ)だったのだ。

 中に仕込まれたダイナマイトは、600本。


 頭と胴が永久に別れたところへ、氷柱石(つららいし)の天井が落ちる。

 断末魔もなく、大蛇は岩の中に沈んでいった。

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