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ドワーフ騎士団


 軍事関係者において、『ドワーフ騎士団』の名を知らぬものはもぐりである。

 彼らこそ世界有数の精鋭部隊。


 矮躯ながら筋骨隆々。

 致命傷すら怯まぬ豪傑共。

 一人一人が伝説級の魔法武器を携え、一挙手一投足は神秘を帯びている。


 人の頭より高く跳ね、馬より速く駆ける。

 背の低さは問題にならないどころか、敵方からすれば恐ろしい的の小ささ。


 そのくせ、秘めたパワーは火山の具現。

 (つち)を振れば大地が割れ、剣を薙げば大気が裂ける。

 ドワーフが突撃した後には、草木一本残らないと恐れられた。


 そんな語りも今は昔。

 ある事件を経て珠具(じゅぐ)と呼ばれる魔法武器の大半を失い、その武勇は半世紀も前の御伽噺おとぎばなしとなっていた。

 彼らに残されたのはゴリゴリマッシヴな肉体のみ。

 フィジカル面だけは今も変わらず精鋭である――――はずだった。



 そんな彼らが、雑兵の如く薙払われる。

 黒き大蛇の尾によって。


 里に現れた怪物もまた、規格外だった。

 硬さも、速さも、図体も。


 騎士団員の振う石斧では、傷一つ付けられない。

 里に留まっていた騎士達は55人。それが今や9人まで減っていた。


 ある者は住居の壁にめり込み、ある者は巨体に押し潰され、生死の境を彷徨っている。

 騎士団が壊滅すれば、里に住む女子供も無事では済むまい。

 なんとしてもここで倒さねば。

 ――――だが、可能なのか?

 斧を構える9人とて、それがやっと。既に満身創痍だ。



「化け物め……」


 近衛騎士のダーマンは忌々しげに大蛇を仰いだ。

 牙の間からシュウシュウと紫煙を燻らせる顎。その中へ、尻尾に絡め取られた子供二人が運ばれていく。


「俺は、俺は美味しくないよぉ!」「あああああっ! いやだ! 助けてぇぇぇ! パパァ! ママァァァ!」


 囚われたムートンとダリンガが泣き叫ぶ。

 悲鳴に駆られて飛び出す騎士達。

 次の瞬間、彼らの眼前を埋める巨大な尾。騎士達が一網打尽に薙ぎ払われる。

 硬い岩盤に頭と背を強く打ち付け、意識を失う騎士の面々。

 立ち上がれたのは、一人だけ。


 子供二人が今度こそ喰われる。

 騎士・ダーマンは自身の石斧を投げつけた。


 大蛇が人質を盾にする。

 ダーマンは自らの浅慮を呪った。

 ――――この軌道では、子供の首が飛ぶ。



「教えたはずだぞ。道具は大切にしろと」


 横合いから飛び出すヒゲモジャの男。

 子供の首を()ねんとしていた石斧を空中で掴み取り、飛びついた勢いのまま、大蛇の尾を斬り落とす。

 ブシャッ、と血の噴水が打ち上がった。

 尾の切れ端がビタンッと落下し、子供達が解放される。


 男も降り立ち、斧を血振りする。その背中にダーマンは感極まった。


「オっ、オバール隊長ォッ!」

「なかなか、隠居させちゃくれねぇな」


 振り返らずに呟くオバール。

 ノイズめいた絶叫を放ち、のたり狂う大蛇を石斧一本で押し止める。


「ジャリのお()りは任せたぞ。ダーマン」

「隊長は……」

「俺はこいつと話がある」

「……まさか一人で!? 無茶です!」

「ここが俺の戦場(しごとば)だ。荒らす奴は誰であろうと容赦しねぇ」

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