結論、寝起きのねここと猫辰は妖怪だった。
慧音さんの酒に付き合った翌日、今日はお暇を頂いた。
何でも「酒に付き合わさせてしまったお詫び」だそう。
という訳で俺は昨日行こうと思っていた「鳳凰の巣」に向かうことにした。
別の人里にあるので、そこはやむなく徒歩だ。
「現代の車やら、電車やらの力の凄まじさってのがよく分かるね。」
そんなことをぼやきながら俺はの道を歩く。
「そーなのかー。」
やせいの ルーミア が 飛び出してきた!
そんなモンスター捕獲ゲームの台詞が出てきそうだった。
「あれ、ルーミア。今日の授業は?」
「今日は別の子たちの授業の日なのだー。」
「そーなのかー。」
「そーなのだー。」
「「わはー。」」
そんな台詞が見事に被る。
「昨日も聞いたけどあなたは食べてもいい人間さんなのかー?」
ルーミアは再びあの質問を俺に投げかけた。
「思ったんだけどそれってどういう意味?」
俺は恐る恐る聞く。
正直、見た目が完全に幼いルーミアが人を喰らう様子が俺には全く想像できなかった。
「そのままの意味なのだー。」
ルーミアはしれっと恐ろしいことを言う。
「そのままって…」
「そのままの通り私は人を食べる妖怪なのだー。」
「……。」
俺は絶句する。
設定としては理解できた。
だがどうしても俺の体が追い付かない。
「黙ったままだと食べちゃうぞ?」
ルーミアが首を傾げる。
「俺は、食べちゃダメな人間だ。」
「そーなのかー。じゃあなんでその答えを出すまで時間がかかったのだ?」
「それは…」
「嘘をついていたから?」
「嘘じゃない!」
「嘘つきを信じると思う?」
「……。」
全くの正論だがそこからどうやって自分の潔白を証明すればいいのか俺には思い浮かばない。
「霊夢に言われたのだー。悪い人間は食べてもいいって。」
そういうとルーミアは大きく口を開ける。
その口には鋭い牙がはっきりと見ることが出来た。
「いただきまーす。」
体が動かない。
その時俺の頭はくだらないことを考えていた。
狼の牙みたいだ。
俺の牙も…
ちょっと待て。
俺に牙なんてない。
あるのはせいぜい犬歯くらいだ。
なんとなく舌で口の中を探ってみる。
あった。
なぜか鋭い牙がそこに生えていた。
「グルルルルァ!」
飛びかかってきたルーミアをよけると直感でルーミアの首に噛みつこうとする。
なんで俺はルーミアの首に牙を突き立てようとしているんだ?
俺の中の何かがおかしいと警鐘を鳴らし精一杯の意志の力で何とか噛みつくのを抑える。
一端飛び退いて距離をとることにした。
ルーミアはきょとんとしている。
「先生に犬の耳は生えていたのかー?」
「えっ?」
その言葉を聞いて俺は耳を触る。
しかし、そこに耳らしきものは無かった。
まさか…
頭の上にそっと手をやる。
何やらふさふさした物が俺の手に触れた。
これって…
「犬耳!?」
待った待った待った!
犬耳!?
どういうこと?
そう。
この時俺の頭には間違いなく犬の耳が生えていた。
「どうしてこうなった…」
「先生は犬だったのかー?」
「いやいやいやいや! ねこさんは生粋の人間ですよ!?」
「猫なのに犬の耳が生えているのだー。」
「やかましい!」
まるでコントのように言葉を交わして俺は改めて状況を把握する。
えっと、ルーミアと言葉遊び(?)をして、喰われそうになって、ルーミアの牙を狼みたいって思って、そしたら牙が生えていて、更に犬耳も生えていた。
よし、把握完了。
出来るか!?
なんでそうなるの!?
この時俺は人生(?)の中で1,2を争うほど混乱した。
犬耳、鋭い牙、謎の直感…
これ、妖怪化したのでは?
正直考えられるのはこれくらいしかなかった。
結論、寝起きのねここと猫辰は妖怪だった。
認めたくねえ。
「やっぱり先生は嘘つきだったのだー。」
そんなことを考えているとルーミアはまた襲い掛かってくる。
だけど、どうにもルーミアの動きがスローに見えた。
妖怪化した特典だろうか。
それでも利用できる以上利用するしかあるまい!
謎の闘争本能を抑えつけながら、ルーミアの攻撃を躱し続け尚且つルーミアに理解してもらう。
チュートリアルにしては難易度が高すぎやしませんかね…
攻撃を躱しながら、必死にルーミアに呼びかける。
「待ってって! 俺は人間のはずだ!」
「今更そんなことは信じられないのだ!」
こんな感じのやり取りを10回以上繰り返す。
そして、少し余裕が出来てこの体を分析することが出来た。
目がよく、犬耳が生え、牙を持ち、嗅覚が少し鋭くなった。
そして、これに該当しそうな奴を探す。
すると、ひとつ見つかった。
白狼天狗。
白くはないのでこの際狼天狗だろうか。
そろそろルーミアも鬱陶しい。
白狼天狗の本能をほんの少しだけ解放する。
一気に力が増したのが体感できる。
よし。
俺は素早く後ろに回り込むとそこそこの力でルーミアの首に手刀を落とす。
とすっ。
そんな軽い音と共に俺の人生初のテイクダウンは成功した。
その後もルーミアを喰らおうとする本能を何とか押し込み俺はルーミアを担いだ。
「軽いな。」
元の体重もあるのかもしれないが今の俺には羽を担いでいるような感じがした。
博麗神社に行ってもいいけど、きっと退治されるのがオチだ。
俺は目的地を変更することなく人里へ向かうことにした。