何を言ってるのかわからねーかもしれないが自分でも何を言っているのか分からねー…
ザ・ワールド!
時よ止まれ!
WRYYYY!
教壇に上って顔を上げてみると、まあでキラキラした目で子供たちがこちらを見ている。
慧音さんは何でもいいって言ってたし、この際語らせてもらおう。
「では、授業を始めます。お願いします。」
『おねがいします!』
子供たちの声に一瞬気圧されたけど何とか俺はその場に踏みとどまり、黒板と向き合う。
チョークを手に取り、あるものを描き始めた。
比較的簡略化されたものだけど、子供たちは興味津々といった様子でこちらを見ている。
「これ、何かわかる人?」
黒板に書いたものを見ても子供たちは誰も手を上げなかった。
しきりに首を傾げている。
なるほど。
慧音さんは教えていないのか…
俺は答えを教えることにした。
「これは世界です。」
何を言ってるのかわからねーかもしれないが自分でも何を言っているのか分からねー…
ただ、この子たちには知ってほしかった。
世界の広さ。
自分たちの世界を。
とまあ、かっこよく言った訳だがこっから先はぶっちゃけ何も考えていない。
「何か質問がある人は?」
この質問には当然のようにみんなが手を上げる。
「じゃあ、前の列から順番に言っていこうか。」
そして、一つ一つ聞いて出てきた質問はざっとこんな感じ。
・世界とは?
・それ(大陸)は何か?
・世界は四角いのか?
・この人里はどこにあるのか?
まあこんなものだろう。
逆によくここまで出てきたと思う。
なので、ひとつずつ答えていくことにした。
「世界っていうのは先生や、君たちが住む場所のことです。例えば君たちは大地がなくなったらどうやって生活しますか?」
ミスティアが手を上げる。
「はい。」
「ミスティア。」
「空を飛ぶ、ですか?」
その答えに俺は苦笑した。
彼女らしいといえば彼女らしいのかもしれない。
「そうだね。でも世界は飛ぶことが出来る生き物ばかりじゃないんだ。」
「あぁ…」
ミスティアが言わんとしていることが分かったのか顔を赤くした。
別に間違いではないと思う。
誰しも自分を常識として物事を考えるのが普通だ。
「残念ながら空をどぶことが出来る生き物はとても少ない。それにずっと飛び続けると疲れるでしょ?」
「はい。」
さて、みすちー弄りはここまでにして次に行こう。
「少し変な言い方かもしれませんが、世界がなくなるということは生きていくことが出来なくなる、ということです。これが私たちの住む場所、『世界』になります。」
みんなはきょとんとしている。
まあ、全部分かれとは言わない。
徐々に覚えていってほしい。
「さて、次の質問の答えを教えましょう。その前に皆さんは『海』という湖があることを知っていますか?」
それぞれ頷く。
まあ、この辺は外から流れ込んできた書物とかで話しくらいは聞いたことがあるだろう。
塩辛いとか、そのくらいかもしれないが。
そこで俺は意地悪な質問をすることにした。
「『海』とは外の世界にあることはみんなも知っている事でしょう。では、どれが『海』だ?」
その問いに寺子屋が騒がしくなる。
どれだどれだとみんなが口々に騒ぎ立てるのだ。
少し収集を付けた方が良いな。
俺は一回だけ手を大きくたたく。
その途端、さっきまでの騒がしさがさっと消えた。
おぉ。
あのおぜう様がカリスマにこだわる理由が少し分かった。
一種の薬物のように快感だ。
「みんなに少し時間を上げます。その間にどれが海か当ててみてください。ただし、関係ない話が聞こえたらそこで終わりですからね?」
自由を与えながらも釘を刺すのを忘れない。
飴と鞭をうまく使いこなせているとは思えないが俺なりの保険だ。
ガヤガヤとどれが海なのか相談が始まった。
慧音さんは知っているのかにやりと笑み向けてきた。
「お前も意地悪だな。」
そんな声が今にも聞こえてきそうだった。
しばらくの後シンキングタイムを終了する。
「では、どれが海なのか手を上げて答えてください!」
「はいはーい!」
元気よく手を上げたのはチルノだ。
「あたいにはもう分かったよ!」
「じゃあ、どれかな?」
「ここだ!」
チルノは黒板を指さした。
その指した先には、見方を変えれば一番広い物が写っていた。
「ここが海だ!」
それ聞いてみんなが笑う。
そんなわけないだろうと思っているようだ。
「正解だ。」
その言葉にみんなは目を丸くした。
「少し、意地悪な質問だったな。チルノの言う通りここが海だ。」
そういって、海の部分を白く塗りつぶした。
「チルノ、戻っていいぞ。」
「ふふん。」
チルノは勝ち誇ったような笑みを浮かべて席に戻る。
「さて、信じられない様だがこれが海だ。実はこの世界は海で覆われているんだ。」
「はい、先生! てことは僕たちは湖に囲まれた島にいるんですか?」
生徒の1人が手を上げる。
「考え方によってはそうなるんだ。でも、この島(大陸)が沈むことはほぼないから安心してくれ。」
質問した生徒は安心したような顔をした。
よし、次に行こう。
「先生はこんな風に書いたが実は世界というのは四角いわけではない。」
その言葉で生徒の頭が疑問符だらけになったのが見えるようだった。
「だったらなぜ、こう描いたのか? 答えは簡単だ。世界のすべてがこれで見えるからだ。」
更に疑問符が増えた。
あぁもう!
説明へたくそか!
「慧音先生、何か球体のものってありますか?」
「あぁ。」
そういうと慧音さんは算数で使うボールを持ってきた。
「地球はこんな形をしているんだ。」
俺はそのボールを掲げて言う。
「この絵を球体にするとこんな形になる。」
「どういうことですか?」
大妖精が聞く。
俺はここで少し考え込んだ。
「それを教えるのは少し難しいんだ。今度慧音先生にまたお願いされたら教えるけどそれでいいか?」
「はい。」
その返事で、生徒の目が慧音さんに向く。
これは次回もありそうだ。
俺は内心げっそりとしながら次の質問に答えることにした。
「次に人里はどこにあるのかと言ったな。実はそこが難しい質問なんだ。」
そう、幻想郷の説明をここでどうやったものか、そしてしてもいいのか。
そこが現在の悩みどころだ。
まあいいか。
都合が悪い様なら慧音さんには少し迷惑をかけることになるかもしれないな。
「人里の話をする前にまず、幻想郷の話をしようと思う。この幻想郷がどうやって出来たのか知っている人はいるか?」
全員が手を上げた。
「手を下げていいぞ。この幻想郷はみんなも知っての通り大妖怪と博麗の巫女によって作られている。実はその時、面白いことが起こったんだ。」
生徒たちは俺の話を聞こうと一心にこちらを見つめている。
「それは、この世界から切り取られたんだ。」
そう言いながら俺は世界地図を指す。
「少し分かりやすく説明しよう。この幻想郷が結界で覆われていることは知っているよな?」
これにはみんなが頷く。
俺は部屋から湯飲みを持ってきた。
「もともとこの幻想郷は世界と合体していたんだ。」
子供たちは首を傾げる。
「みんなは井戸から水を汲んだことはあるか?」
この質問に大半の生徒が頷いた。
「じゃあ、井戸には何が入っているか分かるか?」
これには全員が頷いた。
「話を幻想郷に戻そう。例えるならここは井戸から汲まれた水なんだ。世界全体が水だ。ある時、大妖怪と博麗の巫女が結界を張ったことでその水の一部が汲み上げられたことになる。」
そう言いながら俺は湯飲みで水をくみ上げる動作をする。
生徒たちの半数が納得したような表情をした。
「表現の仕方が悪かったかもしれないが、これが『幻想郷が世界から切り取られた』ということだ。それ以来その結界の外から来た奴らのことを『外の世界の○○』という。先生も外の世界から来た人間だ。」
うーん、偉く難しい説明になったけど分かるだろうか…
「すまん、随分と質問がずれたな。つまり、ここでそれを示すのは難しいということだ。」
「先生は外の世界の人間なんですか?」
「そうだ。まあ、外の世界の質問に関しては授業が終わってから聞いてくれ。」
ここでいちいち答えていたらそれこそ身が持たない。
「という訳でだ。結局何が言いたのかというと、世界は広い。君たちの思っているよりも何倍も広い。幻想郷なんてかなり小さいものなんだ。でも、その小ささがこの幻想郷の良さでもあると思う。外の世界を知り、幻想郷を大切にしようという心をみんなには常に持っていて欲しい。という訳で授業は終わりだ。」
『ありがとうございました!』
「こちらこそありがとうございました。」
こうして授業は終わったのであった。
この後、生徒たちから滅茶苦茶外の世界について聞かれて解放されたのは慧音さんの次の授業の一喝が飛ぶまでだった。
やっぱり教師向いてないかも。
なる気は毛頭ないけど。