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東方夢創伝  作者: 寝起きのねこ
New world
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あんたの事、嫌いじゃなかったぜ。

俺は地底の出口を目指して歩き続けていた。

左手の手首には赤い線が入っている。

謎のタトゥーだ。

一体何を意味するのか、果たしてそれは。

ただの称号なのか、それともまた別の意味を持つのか。

ありそうなのは何か効果を持っているってことだ。

または、本家でいうところの残機なのか。

であればボムも何もない状態で俺は進んでいることになる。

鬼畜ゲーと名高い東方シリーズだけどこれはもはや初見ルナティックになってくるんだろうか。

何とか1ボスは突破したけどいつまでさっきの難易度である保証はない。

むしろ、ボスが俺を監視しているのであれば何か措置をそってきてもおかしくはない。

というか、攻略させたくないのなら難易度を上げてくる可能性だってある。

しかし腐っても天下の東方シリーズ、クリアは出来るように設計されて……ってそうか。

そもそも俺はBANされた存在である以上幻想郷自体が本気で俺を殺しに来てもおかしくないわけだ。

だったら赤いこのラインが一体何を意味しているのかは本当に謎だ。

そんなことを考えていた時だった。

「ヒャッハァ見つけたぜぇ!」

そんな声と共に戦斧が俺の脇腹に食い込んだ。

「んなッ!?」

困惑の中慌ててスライムに変化して被害を防ぐ。

振りぬかれた戦斧はスライムとなった俺を吹っ飛ばし、壁にたたきつけた。

未だに抜けない混乱の中、竜人の姿で立ち上がる。

目の前には爆発的な衣装に身を纏った竜人と思しき人物が戦斧を持って立っていた。

「いよぅ! あんたがアブノーマルなんだってな! どんな奴かと思ったらめちゃくちゃよわそーじゃねえか!」

そういって男は哄笑した。

小説的な感じで見ればるからに三下、いわゆる雑魚キャラだ。

だけど、さっきの威力を見る限り油断は出来ない。

俺は気を引き締めて男を睨みつけた。

「俺はベータ! ソースはてめぇの頭の中の三下キャラどもだ! どんな気分よぉてめえが噛ませ犬だと思っていた相手に殺されるのはよぉ!」

言動が完全にチンピラのそれ。

でも、それを三下と片付けることのできない強さをこのベータとかいうのは持っている。

油断すれば一瞬で持ってかれるのはさっきの一撃で体感している。

竜人の姿のまま俺は一気に距離を詰める。

何のためらいもない、本気を出した拳は案の定というかなんというかベータの戦斧に防がれた。

「生っちょろいなぁ! この程度で俺を倒せると思ってんなら笑わせるぜ!」

耳障りな哄笑を響かせながらベータは戦斧を振るう。

すかさず竜の鱗で攻撃を防ぐが、予想以上の衝撃が体に走る。

骨が軋むのを感じながら強引に攻撃を当てて距離を取る。

「どうよどうよ! 降参するなら今のうちだぜぇ!?まあ思いっきり痛めつけた後で殺すんだけどなぁ!」

「うーんどうしてこう言動が三下なのにねぇ…」

俺はぼやきながら攻撃を再び仕掛ける。

しかしそれも読まれていたかのようにベータは戦斧で攻撃を防ぎ、俺の鳩尾目がけて蹴りを放つ。

「グフッ!」

「甘い甘い甘いッ!」

あの耳障りな哄笑と共に攻撃が襲い掛かる。

竜の鱗を使って何とか流しているが結局これじゃあさっきとやっていることは変わらない。

俺は再び相手と距離を取ることになった。

さてさて、攻めあぐねと来たか。

そして何より厄介なのは、相手が攻撃を仕掛けてこない事。

うかつに攻撃をせず、あえて待ちに徹することで俺の消耗を狙っている。

それこそ奴の思うつぼか。

思うつぼ…思うつぼ…?

「あっ。」

俺は三度目になる攻撃を仕掛けた。

接近すると同時に攻撃を叩き込もうとするがやっぱり防がれる。

でもそれは予想済みだ。

俺は右手をベータの顔の前に持ってきた。

ベータが戦斧で俺の腕を切り裂こうとする。

でも、武器を持って超近接戦闘をするのは残念ながら不利と言わざるを得ない。

そして俺の腕が切断される前に変化は完了した。

「君もフュージョンしてみない?」

「やめろォォォォォォ!!!」

ベータが恐怖に目を見開くけどもう遅い。

俺は全力でエネルギーをぶっ放した。

世界が真っ白に染まる。

そしてベータは、蒸発した。

これがほんとのおもうつほ、なんてね。

「目が見えねー。」

さっきの光の所為で多分目が慣れてないか、それとも失明したかのどっちかだな。

極端な痛みがないから前者だと思うけど。

俺は本来の姿に戻った。

四足歩行で少し低くなった視点だけど目は見えるようになった。

とりあえず一安心。

さて、地底の出口までもう少しだ。

(あと少しだから、頑張って。)

「おうともさ。」

俺はそういってのんびりと四足歩行のまま歩き始めた。

それからというもの、敵は居なかった。

正確にはボスが現れることはなかった。

もし、このゲームがきっちり六面まであるのならまだ4体のボスがいるはずだ。

気が重いぜぇ…

だらだらと歩き続けていると俺と正邪の家の前まで来た。

「……。」

どうやらまだまだ先は長いらしい。

(これは私からの贈り物、あなたの愛する人にさようならを言って。)

俺は人間に戻ると横開きの扉を開いた。

左手をちらりと見るとそこには2本目のタトゥーが刻まれていた。

正邪がどう見るか。

まあ別段気にしない気もするし何か言われる気がする。

「ただいま…。」

勿論返事はない。

少し警戒しながら俺はリビングに向かった。

正邪は寂しそうな表情をしながら料理をしている。

しかし、正邪が動く事は無い。

炒めている野菜も空中で静止している。

異変の弊害だろう。

「…まったく、俺がいなくても一人で生きていけるだろうに。」

正邪の表情に少し嬉しさを覚えながらも俺は思わず憎まれ口を叩く。

「…これで最後かもしれないけど、あんたと一緒にいれた時間は悪くなかったよ。」

それ以上の思いは口にしなかった。

何を言ってもただのウソになりそうだったから。

正邪の唇に人差し指を当てる。

「あんたに意識があれば、何を言ったのかな?」

我ながら本当に意地悪な奴だと思う。

仮に正邪に意識があっても答えられないし、止められないから。

正邪の頬にそっと口づけする。

「またね、正邪。あんたの事、嫌いじゃなかったぜ。」

俺は扉に手をかけて家を出た。

茫然とした寂しさが俺の胸を満たす。

「…寂しいもんだ。」

俺はいつの間にか近くにあった地底の入り口を潜った。

久しぶりの日の光に思わず目を細める。

「やっと来たわね。」

「あぁ、お待たせ。ずいぶんと悪質なサービスをどうも。」

目の前には赤いリボンに白い服、髪は金。

ZUN氏の置き土産、冴月 麟がそこにいた。

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