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東方夢創伝  作者: 寝起きのねこ
New world
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…いろいろ、思い出したよ。

と、とりあえず回避!

おぉ、近年まれに見るベスト回避!

絶対絶命なのは変わらないけど。

なのでいざ変身!

というか妖獣の姿に戻るだけだけど。

そのままの勢いで俺は突撃する。

魍魎たちは案外あっさりと撃破することが出来た。

しかし、人間に戻りながら俺は違和感を覚えた。

「弱くね?」

いくら何でも弱すぎる。

俺が強いわけではない。

幻想入りして結構チート的な能力をゲットしていても自分の立ち位置ぐらいは理解しているつもりだ。

単純な強さのパラメーターでいえば強さ的には中の上ぐらい。

実際遊戯さんには卑怯な戦い方をしないと倒すことはできないし…

不意打ちでなら仕留められるけど正面からは無理みたいなそんな感じ。

さて、どうしたものか。

(地底から出て。そこに私はいる。)

取り合えず地上から出るとしようか。

で、場所的に普段の家よりも少し深層にあるっぽいから途中で正邪に顔を見せて確認してから行くとしよう。

うんうん、いい考えだ。

『――そこの。あなたが話に聞いていた不確定要素ね。』

家路についてしばらく、何かが俺の周りを取り巻いた。

白銀の霧は俺の周りからだんだんと俺の前に移動し、やがて一つの人型を取った。

「――どちら様?」

『誰と言われようと、私に個体名はない。』

白銀の霧はだんだんと紺に変色し、やがてそこには腰に刀を差し、軍服らしき服を着て、赤いメッシュの入った紺色の髪をした少女が姿を現した。

「…で、何か御用?」

『私は不確定要素を始末する者。』

いつの間にか俺の、というか俺たちのいた場所はちょっとした都に姿を変えていた。

ご丁寧に桜まで舞い散っている。

「ここは一体…」

『あなたの言うボスステージ。ここはその舞台になる。』

少女は腰の刀をすらりと引き抜いた。

「…あんたがボスってことでいいのか?」

『然り。』

「俺たちに話し合いって道は?」

『無い。』

「…そうかい。」

俺は戦闘態勢に入った。

でも…なぜだろう。

すごく懐かしい人と対峙している気がする。

静かに時は流れる。


スパンッ!


戦いはそんな衝撃波じみた攻撃音から始まった。

俺が心臓を狙って拳を突き出し、少女はそれを半身になって躱しながら俺の首をめがけて刀を伸ばす。

それを俺はぎりぎりでよけて一度引いた。

少女の方もそれを追撃する様子はなく最初に立っていた場所に戻った。

冷汗が俺の額に浮かぶ。

「化け物かよ…」

さっきの攻撃音だけでそれだけの攻防があった。

つまり、これを後何度繰り返されるか。

そして少女の能力、基礎的な身体能力、すべてが未知数だ。

さらに、これは予感だが…

こいつはラスボスじゃない。

まだ後がある以上ペース配分しないといけない俺と、この一戦で仕留め切れば何も問題ない彼女。

どちらが不利なのかは言うまでもなく俺だ。

少女は油断なく刀を構えている。

その構え方はさながら…

「あぁ、そういう事か…」

俺はなんとなく思い出した。

懐かしい思いもする訳だ。

「なら、これ以上不利になる前にさっさと片付けないといけないわけだ。」

今ならはっきり分かる。

ユイ君が受け流しを専門にするときの剣の構えだ。

もっとも、少女の場合それを剣一本でやっている訳だけど。

俺は腰を落として構えを取った。

「…いろいろ、思い出したよ。あんたのおかげで。」

『……。』

少女は答えない。

でも、その目はどこか安心したような情を抱いていた。

「第二幕、始めようか。」

俺のつぶやきに少女はコクっと頷いた。


スパンッ!


再び。

低い払い蹴り、少女は軽く跳んで躱すと袈裟斬り。

一歩後ろに下がって躱し着地した少女の胴体に蹴りを打ち込む。

少女はそれを刀で防ごうとするが俺の方が速かった。

華奢な体が建物に叩き付けられる。

それを見逃す俺ではない。

追いかける形で素早く距離を詰める。

――安心した。

そこに少女の姿はなかったから。

鋭い剣気。

言うまでもない少女の物だ。

俺は壁に飛ぶとさらに踏み台にして上に飛び出した。

俺のいた場所に斬撃が飛ぶ。

壁はすっぱりと斬り捨てられた。

『――見つけた。』

少女は懐かしい友に再開したような目をして刀を構えた。

俺は突き出される刀を見ていた。

刀を踏み台して宙返りを打つと少女の背後に立つ。

少女は反転して斬りつけようとするがさせはしない。

俺は少女の手を狙って掌底をたたき込んだ。

少女の手首にすさまじい衝撃が走ったのが分かった。

衝撃に耐えきれなくなったのか少女の手から刀が飛ばされる。

くるりと反転すると今度は蹴りをたたき込む。

吹っ飛びかけた少女の手をつかむと遠心力を使って地面に叩き付ける。

放射状に亀裂が走り少女は口を開けた。

彼女に馬乗りになり、動きを封じ込む。

「……。」

『……。』

静寂が立ち込めた。

俺の手にはいつの間にかクナイが握られている。

「…ありがとう。いろいろと思い出せた。あんたが誰かは思い出せない、もしかしたら知らないのかもしれないけど。でも、すごく懐かしかった。」

『…初心忘るべからず…頑張って。』

俺は少しの間目を閉じて、また開くと少女の胸にクナイを突き刺した。

砂は零れるような音とともに少女も、都も消えた。

気が付けば地底に戻っていた。

手を見下ろすと腕にうっすらと赤い一本の線が入っていた。

「『初心忘るべからず』か…」

時には童心に帰ってみるのもまた楽しいものだな。

俺はそう思いながら帰路を走り出した。

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