幻想郷に成人年齢はないのです。
お久しぶりですね。
ざっくり2ヶ月ぶりだそうです。
まあ記憶からは無くなりますわな。
「猫辰君! 結婚おめでとう! そこの小物が結婚するとは思わなかったよ。」
「うるせぇ誰が小物だ誰が!」
ある日、地底で生活していると神主がやってきた。
案の定酔ってる。
完全に出来上がってた。
この方は酒飲まないとやっていられない状況にでも追い込まれているのだろうか…?
あーうん、あまり考えない方がいいってもんか。
「んで、ZUNさんがなんでこんな二次創作者の元に?」
「ん? 気まぐれ。」
「ほー、そうでしたか。」
懐から缶ビールを取り出しては3分と経たずに開けていく神主を見ながら俺は呆れる他なかった。
妊娠して酒の飲めなくなった正邪はその様子を見て顔を蒼くしている。
それが地面に転がっている空き缶を見てなのか、はたまた小物呼ばわりされた事へのショックなのかは謎だ。
「まあ正確に言えばただのチェックだよ。幻想郷メンテナンス。そういう事言うのはナンセンスだけどね~。」
「幻想郷で酒を飲むことのどこがメンテナンスなんですか…?」
「そこは気にしちゃだめだよ~? 幻想郷の闇だからね。スペカを唱えただけで早苗さんが吹っ飛んだりプリズムリバー三姉妹と会うだけで幻想郷が止まるのはもう勘弁だからね。」
「あー、うん。ご愁傷様です。」
「めんどくさかった。」
酒で赤くなった顔を若干蒼くさせながら神主はドボドボとビールをグラスに注いだ…っておい。
いつの間に冷えたグラスなんて取り出したんだよ!?
「えへへ~、神主権限。」
「幻想郷では常識にとらわれちゃいけないんですね…」
俺は冷や汗をかきながら神主の強さを改めて思い知った。
まあ戦おうだなんてみじんも思わないけど。
多分、一瞬で負ける。
システム的にね…
「で、いつまでここにいるんですか?」
「さぁ?」
「『さぁ?』ってあなた…」
「この幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!」
「あなたがそれを言わないでくださいよ!」
そんな突っ込みを入れている間にも神主は缶ビールを一本空けている。
通算…18本。
平均して1本が3分だとしたら神主は既に54分居座っていることになる。
多分まだ増えるだろうけど…
恐らく2時間は平気で滞在するだろうな…
場合によりけりかもしれないけど。
と思ったら、その後30分くらいで神主は立ち上がった。
「じゃあそろそろ帰るよ。」
「速いですね。」
「うん、酒を飲めない人と飲んでてもつまらないから。」
いつになく辛口なコメント来た…
「未成年ですいませんでしたね。また5年後ぐらいに飲めるようなら。」
「幻想郷に成人年齢はないのです。」
「ホントに失礼しました…」
「まあ、それがポリシーならしょうがないよね。んで、帰り際に悪いんだけどちょっとマジ話いい?」
神主はちらっと正邪に目を向ける。
正邪は不満そうな顔をしながらも黙って寝室に引っ込んでいった。
「で、どうしたんですか? マジ話なんて神主らしくもない。」
「うん、実をいうと二次創作の世界でちょっとエラーが起こってるっぽくてね。この世界は起こってないらしいからその情報収集と臨時のパッチを作ってたんだ。」
神主は懐から缶ビール…じゃなかった、2枚のカードを取り出した。
「一応、パッチ渡しておくから何か不具合が起こったらこれ使ってね。」
「それについては別にいいんですけど…エラーってどんなエラーが起きるんですか?」
「それがいろいろ。あるところではフリーズしたりあるところではスペカがごっちゃになったり。そこにいるキャラクターやその挙動のせいなのかもね。」
「そうですか。」
「万能なパッチなんて今のところ絶対に作れないからねぇ…監視用のAIを突っ込んでもそれがフリーズすればどうしようもないし…」
「神主さんも大変なんですね…」
「思っているよりかはね。」
「ところで、どうして2枚もパッチを?」
「もう一枚は…あぁ…君は…使わない方がいいかな。」
神主さんは少し複雑な顔をしながらそういった。
「どっちを使っちゃいけないんですか?」
「えっとね…いや、カード見ればわかるんじゃない? それじゃ。」
神主はそそくさと扉に手をかけると麦のにおいを漂わせて消えた。
残された俺はカードに目をやった。
スペカのような形態をとったカード。
これが一応パッチらしい。
「今考えてもどうにもならないか。」
俺はため息をつくとくるりと振り返った。
…缶ビールが28本。
さらには「片付け任せたぜ!」という書置き。
「…うせやん。」
俺はため息をつくと缶ビールを拾い始めた。
だけど俺は思いもよらなかった。
神主のパッチが役に立つときなんて。




