あんたはあんたでやりたい事すりゃいい。
ぼんやりと2人で空を見上げていると霊夢さんと魔理沙さんが空から戻ってきた。
「…暴動鎮圧おめでとう。」
「暴動の主犯が何言ってんのよ。」
「違いねぇ。」
俺は思わず笑った。
「こんな筈じゃなかったのに…」
正邪が頭を掻きながらむっくりと体を起こす。
「まあいいじゃないの。これで依頼は達成されたんだし。」
「依頼?」
「詳細は企業秘密ってことで。」
「誰に依頼されてこんな事をやったのよ!?」
霊夢さんが大幣を突きつけてこちらに詰め寄る。
「んー、じゃあ一つだけ情報開示。俺が依頼されたのは一人の暗殺。町はその結果だ。」
「はあ?」
霊夢さんが眉を吊り上げて首を傾げるのを見て魔理沙さんが霊夢の肩を叩く。
「おいおい霊夢、最初にこいつがなんて言ったのか忘れたのか?」
「何か言ってたっけ?」
「外の世界の恥を駆逐するって言ってただろ。」
「外の世界の恥?」
「さて、状況確認。この人里の状態はどうなっていて、幻想郷の存在意義は何だったでしょう?」
「人里はよく分からない男が武装化させていて、幻想郷は妖怪の――あんたまさか…」
「さあ、何のことでしょう?」
俺は肩を竦めてすっとぼけた。
「全く、里の人は無事に保護してからこんなことして…」
霊夢さんはいくらか表情を和らげて俺を見下ろす。
「お前と正邪だけで里を壊滅させたのか?」
「ん? あぁ、俺と正邪だけで壊滅させたんだ。」
霊夢さんは胡散臭そうな目を向ける。
「ホントだって。」
「嘘はよしなさい。あなたの身の為にならないわよ?」
「何言ってんの。俺はなんにでも化けられるんだからお空になって里を燃やしたりさとりさんになって建物内にいる人の場所を把握したりすることぐらい朝飯前だぜ?」
「なるほど、地霊殿が絡んでるのね。」
「後は鬼に化けて建物の門をぶち破ったりとか…」
あれ、なんでだろう。
どんどんボロが出ている気がする。
霊夢さんは凶悪な笑みを浮かべながら腕まくりする。
「ほら、結局は俺達2人でやったことだし…」
「全く、そういう事にしといてあげるわ。あなた達は暴動の主犯として里をキチンと修復しなさい。」
「ういうい、分かってら。」
ため息をついて体を起こすと正邪の手を引いて立ち上がるのを手伝った。
それから博麗の巫女同伴の元、俺達は村の人に頭を下げて謝罪をした後村の再興に全力を尽くすことを約束した。
表面上はそんな態度は一切ない様にしたけど。
神力を消す為だからこれで感謝されてそれが助長して崇められるのだけは本当に勘弁だ。
それからあちこちを修理して、たまにそれとなく俺達の好感度を下げておいていよいよ地底に帰る日が来た。
「本当に、行っちゃうんですね…」
門まで見送りに来た小鈴は白み始めた空の下で何処か寂しげに宵の中言う。
「悪いな。お前には色々と迷惑かけたと思う。」
「いえいえ! それに迷惑をかけてしまったのはこちらの責任ですし…」
そこまで言ったところで正邪が小鈴に声を掛けた。
「小鈴ちゃん。」
「はい。」
正邪が小鈴を強く抱きしめた。
「正邪さん!?」
「あんまり一人で抱え込むんじゃないよ。あんたはあんたでやりたい事すりゃいい。」
「…正邪さんの割には随分素直に言いますね。」
「人が助言してるんだ。そういう時は素直に受け取っとくもんだよ。」
「…えぇ。そうさせていただきます。」
小鈴は正邪の肩に軽く手をまわした。
「んじゃ、私はこれで。」
正邪は軽く片手をあげるとすたすたと地底への道を歩き始めて行った。
「んじゃ、俺もこれで…」
「猫辰さん。」
俺も正邪の後を追いかけようとすると小鈴が声をかけてきた。
「ん? どうしたよ?」
次の瞬間、小鈴は思いもよらない行動に出た。
一歩踏み込むと俺の頬にそっと唇を押し付ける。
「…ッ!?」
「ずっと、あなたの事が、好きでした…」
小鈴は涙ながらにそういった。
「俺が既婚者なのを知ってて言ってる?」
「…えぇ、それでもお伝えしたい思いを抱え込むのが正しいんでしょうか?」
「……。」
「……。」
昇りつつある日の中小鈴の涙はきらきらと光っていた。
「…何が正しいのかなんて俺は知らない。でも、やりたい事をすればいいんじゃないかな。」
「正邪さんと同じことを言うんですね。」
「夫婦ですから。」
「そうですか。」
「でも、ありがとね。」
小鈴をぎゅっと抱きしめると俺は正邪を追って駆け出した。
「また来てくださいねー!」
小鈴の声が俺の背中を叩いた。
振り向いて頷くと俺は正邪を追って再び走り出した。
しばらく走り続けていると正邪が俺を待っていた。
「よっ、モテ男は違うねぇ。この女たらし。」
「阿保抜かせ。知ってたんだな、小鈴の事?」
「このあたしが気付かない訳ないだろう?」
「知っててほっといたのか。相変わらずやることがえげつないな。」
「お前に言われたかないね。」
しばらく睨みあっていたが気付けば二人共ケラケラと笑っていた。
「お互い様だな、正邪。」
「全くだよ、猫辰。」
「離婚したくなったらいつでもどうぞ? 子供は俺がちゃんと育ててやるからさ。」
「何言ってんだ。私が育てるに決まってるだろ。」
「見解の相違だな。」
「全くだ。」
そういってまたケラケラ笑った。
「さて。帰ろうぜ、正邪。」
「あぁ。帰ろうか、猫辰。」
俺達は蒼くなり始めた空を拝みながら地底への道をのんびりと歩き始めた…




