本当に宴会のノリでやってるなぁ…
宴会という名の祝言当日、俺達は厨房で宴会料理を作っていた。
ちなみに左腕は指の第一関節まで治った。
ほぼほぼ完治はしたけど爪がまだ生えている途中って感じかな。
「よう! 宴会って聞いたから遊びに来たぞ!」
「勇儀さん、小鈴に受付をお願いしておいたはずですが…」
「あー、うん。どうも怖がられちゃってるみたいでさ。妖怪としては全然いいんだが…どうも複雑な気分だな。」
「受付、してないんですか?」
「あぁ、出来てないな。」
「…了解しました。それじゃ、後で名簿に書いておきますね。」
「あぁ、よろしく頼むよ。それから土産だ。」
勇儀さんは手に持っていた鯛を俺に投げてよこした。
「うわっ! 随分デカいですね。何処で手に入れたんですか?」
「八雲 紫に宴会の事を伝えたらこれをもってけって言われてな。」
「まさかの妖怪の賢者さんの耳にも!?」
「勿論さ。自覚がないだけでお前は立場だけなら幻想郷でも結構上の存在だし今回は小祝儀だからな。お幸せに。」
顔が爆発した。
「別にそんな訳じゃ…」
「いーからいーから! 公然の秘密だろ?」
…どうも出来ちゃった婚に関しての情報は駄々洩れだったらしい。
「なぁ~ん~だ~よ~…」
鯛を両手にがっくりと膝をつく。
「あっははは! それじゃ、私はこれで。」
勇儀さんは星熊盃を片手に厨房から去っていった。
「猫辰、どうかしたか? …って随分とデカい魚だな!?」
「勇儀さんがおめで『鯛』ってさ…」
「まぁ…そりゃバレてるだろうな。」
俺はため息を吐くと立ち上がった。
「そりゃそうだよな…正邪、これどうする? お刺身にしてもいいし顎出汁で何か汁物を一品作ってもいいよね。」
「そうだなぁ…もうお吸い物は作っちゃったし刺身にするか。顎出汁にしてもいいけど何か思い浮かぶものはあるか?」
「うーん、ラーメンとかかなぁ。お茶漬けにしてもいいし。」
「ラーメン、なるほどな。でも作るための麺は今から作るには遅すぎるしなぁ…」
「ん? 正邪ラーメン知ってるんだ。」
ふと疑問に思ったことを訊いてみる。
「あぁ。高級品とはいえ江戸時代にはあったんだから当たり前だろ。」
「ほえー、江戸時代にはもうあったのか…」
俺が感心していると小鈴が名簿を片手に厨房に入ってきた。
「猫辰さん、招待状を出した方はみんな参加してくれました。」
「おっ! それは良かった。地霊殿の面々は来てる?」
「はい、回りからは随分と距離を置かれていますが…」
「うーん、そこに関しては何ともなぁ…」
やっぱりあまりいい顔はされないか。
「まあまあ、後で考えればいいさ。地霊殿の連中の所為で招待した奴らが帰らないならそれで万々歳さ。」
「それもそうだね。それじゃ、料理出そうか。」
「あぁ!」
正邪は鮎のフライが乗ったかご皿を手に持った。
俺ももつ煮込みの入った土鍋を抱え上げると運び始めた。
宴会場につくとすでに鬼たちが酒を片手に呑んだくれていた。
「酒が入るの早いなぁ…」
鬼たちの酒好きに呆れつつ俺はもつ鍋を鍋敷きの上に置いた。
「もつ鍋と鮎の揚げ物お待ち!」
俺が叫ぶと鬼たちは歓声を上げながら周りに群がった。
「おう、あんたらが作ったのか? やるじゃねえか!」
「うまそうな香りがするな!」
口々にそう言いながら鬼たちは器を手に持つ。
「はい待った!」
今にもレンゲを手に取りそうな鬼たちを押しとどめる。
「やっぱりもつ煮にはピリッと効いた物がないとね。」
俺は腰に下げていた唐辛子と山椒を磨り潰すと鍋の上に振りかけた。
「どうぞ召し上がれ!」
鬼たちが我先にとレンゲに手を伸ばす。
隙間を塗って何とか鬼たちの集団から抜け出すと俺は厨房に引き返して4つの器が乗ったお盆を手に取った。
「正邪、鯛の刺身任せていい?」
「任された!」
元気のいい返事を確認すると俺は広場に戻った。
ぐるりと辺りを見回して地霊殿の一行を探す。
「探しているのは私達かしら?」
「うわぁびっくりした!」
お椀をひっくり返さないように振り向くとさとりさんが俺を見ていた。
第三の目がぱちぱちと瞬きする。
「宴会に混じれてないって話を聞いたからもつ煮を持って来たんだけども食べる?」
「えぇ、お気遣い感謝するわ。今日はこいしもいるからこれからも4人分でお願いしてもいいかしら?」
「はいよお願いされた。欲しいお酒があったら多少は持ってくるよ。」
「えぇ、でもお酒はお燐が持ってくるだろうからあなたは厨房の仕事を頑張って頂戴。」
「ありがとさん。んじゃ、ごゆっくり。」
さとりさんにお盆を手渡すと厨房に戻った。
本当に宴会のノリでやってるなぁ…
そんなこんなで宴会は夜通し続いていくのだった…




