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東方夢創伝  作者: 寝起きのねこ
そして気づけば幻想郷
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慧音さんはワーハクタク、半人半獣であって決して動物ではない。

キモけーねって言った奴、表出ろ。

平和的に口頭で説教してやる!

「それじゃあ、明日から授業があるから、今日はお前の部屋なんかを案内するよ。」

慧音さんは俺を廊下の一番奥まで連れていった。

本来の寺子屋とは若干造りが違ったりしているっぽいな。

部屋の奥にある襖を慧音さんが開けるとそこには机以外、何の装飾も無い畳部屋が広がっていた。

「お前の部屋だ。布団は夜に持ってくるから待っててくれ。」

「分かりました。」

寂しげな部屋の紹介が終わると今度は台所に案内された。

「ご飯は私が基本作るからあまり気にしないでくれ。」

「いえいえ、申し訳ないんで多少は手伝いますよ。」

「そうか? じゃあ、お言葉に甘えて。」

そういうと慧音さんは俺に微笑む。

なんだろう…この笑顔、やっぱり癒し効果がありそうだ。

ハクタクは人を癒すのだろうか…

そんなこんなで夕餉を頬張りながら寺子屋の案内と明日の授業の打ち合わせをする。

こうやって見てみると教師っていう仕事は案外大変なんだな。

今まで生徒って立場からしか学校環境は見てこなかったから不満なんかもあったけど、こちら側に立ってみると教師ってのは細かい視点にまで気を配る必要があるから中々繊細な仕事なんだなと痛感する。

「慧音先生って、いつも1人で授業の事とか考えてるんですか?」

俺はなんとなく気になったことを聞いてみた。

「そうだな。別に他の誰かがいる訳じゃないから黙考して授業の様子なんかを考えてる。1人でぶつぶつ物を言うのも自分が怖いからな。」

そういうと慧音さんはこちらに顔を向ける。

「だから、お前が来てくれて私は今凄い嬉しいぞ。」

シンプルだけど暖かい言葉をもらって俺の頬が赤くなる。

「お? 照れたな?」

慧音さんがいたずらが成功した時のような顔をする。

「年頃の男子をからかわないでください。」

俺はなんとかそれだけを口にすると夕食を掻き込んだ。

夕食が終わって食器も片付けると、慧音さんが外へ出て行った。

「布団を取ってくる。」

「大丈夫ですか? かなり重いと思いますし、1人じゃ危ないと思いますが。」

「大丈夫だ。少し別の用事もあるからな。」

そういうと慧音さんは寺子屋の扉を開けて出て行った。

「…静かだな。」

慧音さんのいなくなった寺子屋は不気味なくらい静かでどこか肌寒さを感じた。

「慧音さんの部屋に火鉢ってあったかな?」

俺は慧音さんの部屋に入る。

「失礼しま〜す。」

慧音さんの部屋は書類で埋まりかけていた。

襖のある壁と机と接している壁以外は本棚が占拠しており、そこには大量の本と巻物が収まっていた。

大量の書物に俺は思わず目を奪われる。

「なんだここ…」

自慢するほどのことでもないが俺はかなりの読書好きだ。

その読書好きは小学生の頃から健在で下校時に二宮金次郎の如く本を読みながら歩いていたので、担任の先生から

「今度見かけたら本を取り上げる。」

とのお言葉を頂いた程だ。

流石に今はそんなことはしていないが、それでも読書愛は現在まで衰えることを知らない。

火鉢のことは完全に頭から抜け落ちた。

本棚に近づくと一冊を引き抜く。

「幻想郷歴史録」

無愛想な字でそれは書かれていた。

開いてみると紙いっぱいに漢文訓読で文字が書いてある。

「読めるかな…」

俺はゆっくりと本に指を添えて読み始める。

そこには幻想郷に結界が出来る前のことが書いてある。

3ページを読み終える頃に俺は比較的簡単に歴史書が読めるようになっていた。

更に何ページか読み進めていると不意に肩に手が置かれる。

顔を上げると慧音さんがこちらを睨んでいた。

あっ…まずい…

「えっと…ごめんなさい。少し寒かったので暖が欲しくなりまして。」

自分でも拙いと分かるような言い訳をする。

「…どうしてこれを読んだんだ?」

「本が好きだからです。」

俺は不思議なくらい即答した。

人間関係もロクに維持できない俺だが、不思議とめり込める物があった。

それが読書と執筆だ。

「…神主の言うことも間違っていなかったな。読書愛という本性が底なしだ。」

そういうと慧音さんは俺の頭をわしゃわしゃと搔き撫でた。

「えっ?」

慧音さんの急な行動に俺の頭はついていけなかった。

「全く、うちの生徒たちにもこうなって欲しいものだ。」

「怒らないんですか?」

「怒らない。知識欲があることはいいことだ。やや過剰なやつもこの幻想郷に入るけども。」

しかし慧音さんは俺の手から本を取り上げた。

「だが、生活習慣を壊してまで求めるのは感心しないな。『蛍雪の功』という言葉が中国にはあるそうだが、そんなことをする様な時代でもないし、野心もないだろう?」

「そうですね。」

俺は同意した。

反論の余地はない。

「布団は部屋に敷いてある。火鉢も部屋には置いてあるから使ってくれ。」

「ありがとうございます。おやすみなさい、慧音先生。」

「あぁ。おやすみ、猫辰。」

俺は慧音さんの部屋を出ると自分の部屋に戻る。

慧音さんの言葉通り布団が敷いてあった。

側には火鉢も置かれている。

「今度お礼をしないとなぁ。」

確か今ここにいる人里の近くには…

あっ!

俺はあることを思いついた。

でもなんとかしてお金を集めなくちゃな…

お金を貯めたらこの恩も返せるかもしれない。

そんなことを考えながら俺は布団に入り、眠りに落ちた。

ツノの動物に頬をつつかれた夢を見たが気のせいだ。

きっと気のせいだ。

慧音さんはワーハクタク、半人半獣であって決して動物ではない。

ないったらないんだからな!

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