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東方夢創伝  作者: 寝起きのねこ
やっぱり騒がしい平和な地底
35/56

この子に必要なのは危機感だな。

「ふぁぁ~あ…」

巨大なあくびと共に俺は眼を覚ます。

なんというか…あまり眠れなかった。

大きな原因は普段2人で寝ているベッドにもう1人追加されたからだろうな。

おかげで今まで2等分していたものを3等分することになった。

でも、習慣というのは恐ろしい。

起き上がろうとすると正邪が俺に抱き着いてきた。

「おはよう、猫辰。」

「…おはよう。ところでお客さんがいるの忘れてる?」

その言葉で昨日の事を思い出したのか正邪は顔を真っ赤にすると突き飛ばすようにして俺から離れた。

まぁ、小鈴はまだ寝てるからいいか。

「とりあえず、飯作ろうぜ。」

そういってゆっくりと起き上がる。

大きく伸びをすると正邪は後ろから俺の首に腕を回してきた。

いつもの充電はやっぱり必要ですか。

そっと頭を撫でてやると正邪は猫みたいに満足そうな顔をした。

正邪をくっつけたまま俺は台所に向かう。

さて、今日は何を作ろうか…

いつもの様に朝食を作っているとごしごしと目を擦りながら小鈴が居間に入ってきた。

「おはよーさん。」

「…おはようございます。」

どうも小鈴ちゃん、朝が弱そうだ。

最後の味付けを確認すると俺は3つのお皿を机に並べた。

正邪も丁度作り終えたのかお茶碗を並べる。

「さて。じゃあ頂きます。」

「召し上がれ。」

「頂きます!」

まるで正邪が1人で作ったみたいな言い方だけど俺も作ったんだよねぇ。

いつもの様に正邪と会話しながら箸を進めるが小鈴があまり会話に入れていないことに気づいた。

「そういえば小鈴ちゃんはどうやってここまで来たんだ?」

正邪がたくあんを頬張りながら訊く。

「はい、妖怪の山では知り合いの天狗がいるのでその天狗さんに。地底に降りるときにその天狗さんからパルシィさんに引き渡されたんです。」

おい橋姫、しっかり仕事してくれよ。

俺はそういいたくなるのを堪えて続きを促す。

「旧地獄街道に来たら紅い角の鬼の方がここを案内してくれたんです。」

勇儀さぁーん!?

だめだこりゃ、地底の警備が笊すぎる…

俺は黙ったまま顔に手をやって頭を振った。

「猫辰さん、どうかしましたか?」

小鈴が不思議そうな顔でこちらを聞いてくる。

「いや…なんでもない。」

いや、大有りです。

コネが1つあるだけでそこまで優遇されるか普通!?

そう思ったところでふと思いなおす。

まてまてまて、小鈴のバックにはマミゾウさんがいたな。

マミゾウさんがいたという事は命蓮寺の伝手も多少ある。

つまり間接的にとはいえこの子は命蓮寺のバックを付けていることになる。

たしかに、一大勢力と敵対したくないよなぁ…

そうなれば勇儀さん達がしれっと俺のもとまで通すのも納得のいく話。

それに小鈴の社交性も関係してるだろうし。

うーん、早苗さんの言ってたことが分かってきそうだぞ。

「幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね…」

ぼそっと呟くと2人からすっごい怪訝な目で見られた。

まあ当たり前の話である。

俺はため息を吐くと溢れだしそうな愚痴を味噌汁と共に飲み込んだ。

飯が終わると俺は手紙をポケットに突っ込んだ。

「小鈴、地霊殿に行くぞ。」

「ほえ? 何故ですか?」

「あの手紙を届けてもらうからな。ついでにさとりさんに顔を覚えてもらうっつー作戦だ。」

「なるほど…ってえぇ!?さとりさんってあの心を読むさとりさんですか!?」

「そうだけど。」

「無理です!」

「なんで?」

「なんでってそれは…」

「確かに心を読むけど悪い人じゃないし。それをネタに揺するような人でもないけど?」

「でもさとり妖怪ですよね?」

「そうだな。」

「心を読むんですよね?」

「そういうことになるな。」

「じゃあ無理です。」

「なぜ?」

「さとり妖怪は心を読むからです!」

「それのどこに問題が?」

「……。」

小鈴は絶句する。

俺はグイと顔を近づけた。

「いいか小鈴、ここは地上とは違って助けてくれる博麗の巫女もいない。俺もお前の事を多少守ってはやるが絶対は保証できない。

 この地底で唯一の権力を持っているのは地霊殿だ。それを後ろ盾にすれば大抵の妖怪は襲ってこないってことだ。言わんとしてることは分かるな?」

小鈴は半分怯えたような顔をしながらも結局頷いてくれた。

「んじゃ、行こうか。乗せてやるよ。」

そういって俺は猫辰の姿に戻る。

その姿を見ると小鈴はぱっと顔を輝かせた。

「これが猫辰ですか! 本当に竜の前足に猫の後ろ脚なんですね!」

そういってあちこちを撫でまわす。

「あー…小鈴?」

「あ、すいません。」

存外あっさりと謝って小鈴は俺に跨った。

人を乗せるのは初めてだがまあ何とかなるか。

俺はゆっくりと走り出した。

「しっかり捕まってろよ。」

「了解です!」

頭の上から楽しそうな声が返ってきた。

この子に必要なのは危機感だな。

俺は苦笑しながらも地霊殿に向けてスピードを上げるのだった。

5分ほど走っていると目的地に到着した。

小鈴を降ろして人間の姿に戻ると地霊殿の扉をノックする。

しばらくすると中からお燐が顔を覗かせた。

「ここの主に少し用事がある。」

「ちょっと待ってくれよ。」

そういって扉を閉める。

それから1分もしない内に再び扉が開いた。

「どうぞ。」

「あんとさん。」

俺はそういって扉を潜った。

後ろを振り返ると小鈴が足を震わせている。

余程心を読まれるのが怖いんだな。

俺はため息を吐くと小鈴を担ぎ上げた。

「自分で歩けます!」

「足震えてたぞ。」

「武者震いです!」

「んな訳ないだろ。家であんなに嫌がってたくせに何を言うか。」

小鈴の声を一切無視して俺はお燐についていった。

執務室の前でお燐は立ち止まる。

「さとり様、猫辰と妙な人間をお連れしました。」

「どうぞ。」

俺はドアノブを掴むと扉を開ける。

「邪魔して悪いな。」

そういって小鈴を近くの椅子に降ろす。

「お燐、お茶を入れてくれるかしら?」

さとりが執務机から立ち上がって俺の下にやってくる。

「紅魔館のケーキは持ってきてくれたのかしら?」

「冗談?」

「いいえ、冗談よ。」

答えと解説があってない。

「本当に冗談だから落ち着いて頂戴。」

生憎紅魔館はまだ訪れたことがない。

地上にいればいつか行ってみたいとは思ってたけど。

しばらく雑談を交わしているとお燐が紅茶を持ってきた。

「ありがとうお燐、そこで待っててくれるかしら。」

そういってさとりが指したのは小鈴の隣。

お燐は特に気にすることもなく小鈴の横に座った。

「で、本題を教えてもらいましょうか?」

「分かってお燐を置いてるくせによく言う。」

俺は苦笑しながらポケットから手紙を取り出す。

「用件を話す前に少し紹介しようかな。そこにいるのは本居 小鈴。俺の調査をしたいと押しかけてきた地上の人間だ。」

「それで安否を地上にいるその子のご両親にお伝えしようと手紙を持ってるわけね。」

俺が続けようとするとさとりは先手をとって言った。

「まぁそういうこと。」

「そして、その手紙の運送にお燐を使おうと。」

「おっしゃる通り。」

「なんであたい!?」

「という訳でお燐、妖怪であることを見抜かれずにその手紙を鈴奈庵という貸本屋にまで届けなさい。」

お燐はぶつぶつ言いながらも俺から手紙を受け取ると口にくわえて猫になった。

「気を付けてね。」

さとりの言葉に物申しそうな顔をしながらお燐は去っていった。

「…相も変わらずどこまで看破してるのやら。」

「そうねぇ、あなたがその子を無理矢理ここに連れてきたことくらい。」

「思った以上に看破されてなくて安心した。」

「後は…お尋ね者の天邪鬼と恋仲になったこととか?」

俺は飲みかけていた紅茶を派手に吹きそうになった。

必死に呑み込んで胸を叩く。

「タイミングが…悪い…」

「ごめんなさい。」

さとりは小首をかしげながら素直に謝罪してくれた。

「でも…あまりしゃべらないのね、小鈴ちゃん。」

名前を呼ばれたと思ったのか小鈴がビクッと反応する。

「はいっ! 何でしょうか!?」

若干上ずった声で小鈴が言葉を発した。

「あなたは貸本屋の娘さんだったわね。良かったら私の書いている小説も置いてくれないかしら? 自分で読み返すのも最近は飽きてしまって。」

「是非!」

小鈴が目を輝かせる。

「でもあなたの思う妖魔本は書いてないわ。」

「多分普通の小説だと思うぞ。」

俺とさとりの声が重なる。

容赦ない口撃に小鈴は分かりやすく肩を落とした。

「でも、内容は気になるので読んでもいいですか?」

再び小鈴は顔を上げて問い掛ける。

「えぇ、いつでも来ると良いわ。気に入った本があったら持っていっても構わないわ。」

「ありがとうございます!」

嬉しそうに小鈴は頭を下げる。

多少苦手意識を払拭してくれたようで何より。

俺は紅茶を飲みながら段々と打ち解けていく2人に目をやっていたのであった。

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