嘘つけ、ばっちり目ぇ逸らしてんじゃねえか。
完結までまた一歩遠のいた…
PCのファイルからアイデアが出てきたのが悪いんだもん…
「なぁ正邪、最近俺の所有物に触ったりしたか?」
俺は夕食の席で正邪にこんな事を訊いた。
「いや。お前の物には手を出してないぞ。何かあったか?」
「最近どうも変な輩が入ってきたような形跡があってな。」
正直言って不気味なんだよなぁ…
十中八九面倒な奴だ。
「具体的には?」
「パソコンを弄られた跡がある。物理的ではないんだけどね。」
「お前が前に言ってたな。『システム』とかいう奴か。」
「そうそう。」
何回かログインしようと試みた跡がある。
誰かが侵入してきてるのは間違いない。
「ここ随分と入り組んでるのに酔狂な奴もいたもんだな。」
正邪が苦笑する。
「まぁそうだよな。こうなってくると『誰が』じゃなくて『どうやって』って感じになってきそうだ。」
「ここ窓もないしな。出入口はあそこの一か所だけ。」
「な、怪しいだろ?」
ここは地底の中層部に位置する洞窟の迷路のようなところだし。
市場が近いから気に入ってるんだけどなぁ。
「引っ越すのか?」
「いや、上手く捕まえられないかなって思って。」
「そういうところお前っぽいよな。」
「…誉め言葉として受け取っとこうかな。」
「褒めてるんだから気にするなって。で、どうするつもりだ?」
「竜人戦争であの罠作ったじゃん? あれをまた作ろうかなって。」
無論、殺傷能力を抑えてだけど。
「なるほど、どうせなら侵入者の顔を拝んでやろうってことだな。」
「そういうこと。」
「んじゃ、今日は早めに寝るか。」
「いつも早めに寝ないと駄目だろ。」
「ケチ。」
「何日も夜更かししてたら俺が干乾びるわ。」
「ちぇー。」
「何か言った?」
「なんでもないって!」
睨みを効かせると正邪は慌てたように答えた。
俺は食器を片付けると罠を作り出した。
扉が開いたら檻が降ってくるようにしとくか。
我ながらかなり慣れた手つきで檻を作り上げた。
とはいっても丸太と紐を組み合わせただけだけど。
あれ、この台詞もしかして2回目?
「こんなもんか。」
「上手くできてるな。」
「あんとさん。」
「私が天邪鬼って知って言ってる?」
「最近の正邪はあまり嘘つかないからな。」
「…馬鹿。」
そういって正邪は顔を赤くすると寝室に入っていった。
簡単に最終調整をして俺もそのあとを追う。
「んじゃ。おやすみ、正邪。」
「おやすみ、猫辰。」
俺と正邪は背中を合わせると目を閉じた。
しばらくしない内にすやすやという寝息が聞こえてきた。
寝つきが良いからなぁ。
変なところだけいい子だ。
俺も心地よいぬくもりの中うとうとと眠りに落ちていった…
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」
すっかり眠っていた俺は随分と高い悲鳴で目を覚ました。
隣に目をやると正邪も起きたようだ。
ふたりして顔を見合わせる。
「こうもあっさり引っかかるとはな。」
俺は猫辰の姿に戻ると玄関に向かう。
さてさて、侵入者さんの姿を拝むとしましょう。
2人で玄関に顔を覗かせると檻の中に何かいるのが分かった。
「ひっ!」
侵入者が息を呑む。
そこには珍しい奴がかかっていた。
「人間?」
正邪が驚いたように呟く。
判読眼のビブロフィリアは恐怖の目で俺を見ている。
「ここに何の用だ?」
俺が訊ねると小鈴は檻の奥の方にまで後退ってしまった。
「ひぃぃ…」
こりゃ駄目だ。
怯えるばっかで答えらしい答えは返ってこない。
俺はため息を吐くと竜の手で檻を破壊した。
「え?」
小鈴は呆然と目の前の状況を確認しようとする。
それでも目の前にやべえ奴がいることを思い出したのかとんでもない速さでその場に正座する。
その手際の良さに俺はため息を吐くほかなかった。
「はぁ…」
俺は人間の姿に戻る。
その様子に小鈴は今度は驚いたように目を見張る。
「こっちこい。」
とりあえず居間に連行することにした。
居間の囲炉裏にまでくると俺は消えかけていた火を起こす。
正邪も手慣れたものでお茶を3杯用意していた。
「ほれ。」
「ありがと。」
「あっ、ありがとうございます!」
俺と小鈴にお茶を渡すと正邪は座布団に座った。
「そこで立ってるのもあれだからとりあえず座れよ。」
小鈴は怯えながらも丁度俺の向かいの座布団に腰かけた。
しばらくの間無言でお茶を啜る。
やがて沈黙に耐え切れなくなったのか小鈴が口を開く。
「あなたは猫辰さんでいいですか?」
「うんにゃ、いかにも。俺が猫辰だ。何か御用か?」
不機嫌そうな表情で俺が応じると隣に座っていた正邪はニヤリと笑った。
(お前も悪い奴だな。)
そんな幻聴を聴くのは幻想郷に来てから2回目だ。
反対に小鈴の顔は分かりやすくひきつった。
この様子だとパソコンを弄ったのも小鈴だな。
魔理沙という事も考えたけどあの魔法使いなら多分パソコンごと持ってく。
そういう点でも俺は結構疑問だったんだよな。
その点小鈴なら納得がいく。
こいつは馬鹿じゃないからな。
盗めば気付くことを知ってたんだろうな。
残念なことにパソコンの解錠に成功しないとログインした経過を見れないから侵入者に気づいていたことに気づかなかったって感じかな。
「俺は名乗った。お前の名前も聞かせてもらおうか。」
「はい! 本居 小鈴といいます! 地上の人里にある貸本屋、『鈴奈庵』の娘です!」
服装からそんなところだろうとは思っていたけどな。
「私は鬼人 正邪。よろしくな。小鈴ちゃん。」
ちゃっかり正邪も挨拶して顔を売り込む。
「で、どうして俺らの家に侵入したんだ?
人里でも他人の家に勝手に入り込んではいけませんって慧音さんに習わなかったか?」
「ホントにすみません…」
小鈴はしょぼんとした表情で反省している。
正邪はその様子を見て肩をすくめた。
「別に反省は求めてないさ。なんで侵入したかだけ聞かしてほしい。」
「えっとですね…あなたの存在が気になりまして。」
その声に正邪がピクリと反応する。
正邪、どー。
その声が届いたかどうかは定かではないが、俺の目線を見て正邪は立ち上がりかけていた腰を座布団に落ちつけた。
「ふうん、まあ人間からしたら色々謎な存在ではあるだろうな。」
「はい、人間に害を及ぼすはずの妖怪がどうして人間を守ったのかなって疑問で…」
「多くの妖怪はあの戦争で同じことした。天狗はそのいい例だろうな。その中でどうして俺を?」
「そうですね…少し失礼ですが新米の妖怪が里を守れるだけの力を持っていたからでしょうか。それにお尋ね者の正邪さんと一緒に里を守ったからです。」
なんかだんだん面接試験の面接官をしているような気分になってきた。
「なるほどね。それで力があるのになぜ地底に隠居したのか気になって調査に来たと。」
「はい。…いや、なんとなく理由は分かる気がするんですけど。どうにも他の妖怪とは違う雰囲気があると思いまして。」
お茶の所為か俺の態度に慣れてきたのかは知らないが小鈴は段々饒舌になってきた。
つらつらと俺が他の妖怪と如何に違うかを話し始めた。
正邪も色々なところで共感する物があったのか時折同意を示す。
「――という訳であなたを調査したいんですがいいですか?」
そんな感じで小鈴は締めくくった。
「別に俺は構わんが…正邪はどう?」
同居人である正邪に訊いてみる。
「いいんじゃないか? 迷惑にならない範囲でなら私は構わないぞ。」
「その正邪の迷惑にならない範囲が広そうだから訊いたんだけど。」
「まあ、そこら辺は追々説明すればいいだろ。」
「それを説明する前にお前は怒りだしそうだがな。」
「ほっとけ。それよりもお前の方が大丈夫か?」
俺は小首をかしげる。
「何が?」
「大方お前の生態を調べるために来たんだろうけどこいつはお前の情報を売り捌いたりしないのか。それから博麗の巫女が状況を知ったらどういう行動をするかって話だ。」
「…あ。」
「お前の方が結構ハイリスクなんだぜ?」
「うーん、そうきたか。」
俺は頭を掻きながら天井を見上げていたが小鈴に顔を向けて問い掛けた。
「なあ小鈴ちゃん、俺の情報を売り捌いたりしないか? 特に天狗とか。」
「はい! 絶対に売りません! これは私の個人的な興味ですから!」
「それから小鈴ちゃん、そのために家出とかしてないよね?」
「…してないです。」
「嘘つけ、ばっちり目ぇ逸らしてんじゃねえか。正直に答えなさい。」
「…はい! 家出してきました!」
素直でよろしい。
俺は改めてため息を吐いた。
…さとりさんのお燐を借りて事情を説明した手紙を運搬してもらうか。
囲炉裏から立ち上がると俺は筆と紙を持ってきた。
「小鈴ちゃん、ここにあなたの現状といつまで地底に滞在するのかを示す手紙を書きなさい。半分くらい書けばいい。残りの半分は俺が手紙を書くから。」
持っていたものを小鈴に渡す。
小鈴は小さな手でそれを受け取ると文字を書き始めた。
やがて書き終えたのか紙を返却する。
俺はさらに書き加えるとサインを書き込んだ。
「正邪も書いてくれない?」
「わーったよ。」
書きあがった書面を見て俺は訂正箇所がないか見直した。
―――――
お父さん、お母さんへ
こんにちは、小鈴です。
今、私は里を救った妖怪、猫辰さんの生態を調べるために猫辰さんの家に居候することになりました。
期限は1か月を考えています。
それまでに猫辰さんは地上に帰してくることを保証してくれました。
貸本の手伝いが出来なくてごめんね。
でもどうしても知りたかったので猫辰さんの勧めで手紙を書くことになりました。
1か月を楽しみにしててね!
小鈴より
本居ご夫妻様
春色の候、いかがお過ごしでしょうか。
前述の娘様のお手紙にてご紹介にあずかりました猫辰と申します。
このように文面のみの挨拶となりまことに心苦しく思っております。
こちらも突然娘様がいらっしゃったことに驚きを隠せません。
行動力のある素敵な娘様を持っているのですね。
前述の手紙の通り地底にいる間の娘様の身の安全を保証することとなりました。
面識のない私が命を預かることをお許しください。
共にいる間はこの猫辰と鬼人 正邪が出来る限り警備をさせて頂きます。
心細いかと思いますが以上、宜しくお願い致します。
敬具
・この手紙は地底にいる間、猫辰と鬼人正邪が本居小鈴の身の安全を保障することを契約する物である。
猫辰
鬼人正邪
―――――
さて、こんなもんか。
俺は手紙が乾いたことを確認すると横長の手紙を縦に4回折って封筒にしまう。
これで明日お燐にお願いすればいいか。
俺は大きく伸びをすると小鈴に向き直った。
「とりあえず、まだ夜は続いてるし寝ようぜ。」
「そうだな。」
横から正邪が顔を出す。
なにか言うよりも先に正邪は俺にぎゅっと抱き着いた。
「小鈴ちゃん、猫辰に色目使うことだけは許さないからな?」
「そんなことしません!」
「正邪、必要以上に脅さないの。」
俺は正邪の頭を撫でながら諫める。
「ま、そんな訳でよろしくな、小鈴。」
「はい! よろしくお願いします!」
かくして俺の地底生活に1人の人間が加わったのであった…




