温かい日常
ネタがなく本当に正邪といちゃいちゃするのを書きたかっただけなのでタイトルはそのまんまになりました。
目を覚ますと正邪が俺の顔を見上げながら静かに笑っていた。
「今まで寝てたんだな。」
「…おはよ。」
寝ぼけた頭で何とか返事を返す。
「おはようさん。」
正邪はそういって俺に抱き着く。
最初は驚いたけど今となっては毎朝の習慣になりつつある。
俺もそっと正邪を抱きしめる。
「もうちょい強く…」
正邪がそういって更に俺に抱き着く。
「はいはい。」
俺はそういってぎゅっと腕を締める。
こんな感じで正邪の気が済むまで充電してようやく俺達はベッドから起き上がる。
顔を洗い終えた俺達が次にするのは朝食づくり。
「何食べる?」
「そうだな…お前の作った物ならなんでも。」
ご飯と味噌汁は正邪が、主菜は俺が分担して作る。
「それが一番困るって知ってるか?」
「それでもお前の作るものなら私は何でも嬉しいぞ?」
「おだてりゃいいってもんじゃない。」
そういいつつも俺はフライパンに油を注ぐ。
こうしてしばらくの間黙々と料理を作る。
「んじゃ、頂きます。」
「おう、召し上がれ。」
「俺からも召し上がれ。」
簡単ながら朝食を机に並べた俺らがするのは無論食事だ。
「正邪は今日何するんだ?」
「私か? 私はなぁ――内緒。」
「何だよそれ。」
そういって団欒を楽しみながら正邪と向かい合って食事する。
飯が終われば片付け、歯磨きの後はしばらくの間自由だ。
その間、正邪は俺にひたすら甘えてくる。
「びょ~うったつ!」
「ん? どうした?」
パソコンを弄っていると正邪は俺にもたれかかってきた。
「小説書いてるのか?」
「そうだな。」
「今は何かいてるんだ?」
「そうだな、最近忙しくて書けなかったから短編集を書いてるんだ。」
「へぇ。私も登場するのか?」
「今はまだだな。書こうか?」
「ん~、お前に任せるよ。」
「そう。」
そういうと正邪は俺に頬擦りしてきた。
「んにゃ。」
「ぷっ! 何だよその声?」
「正邪の所為だ。」
「にしし~だ!」
そういって正邪は俺の首に腕を回す。
完全甘えモードになった正邪を止める手段はない。
俺はため息を吐くと小説を書くのを諦めてパソコンを閉じた。
それを好機とばかりに正邪は俺の膝の上に乗ってくる。
「構え。」
「もう構ってるだろ。」
「じゃあもっと構え。」
「はいはい。」
俺は正邪の頭を撫でる。
「もっと撫でろ。」
正邪は上目遣いで俺に要求してきた。
俺は黙ってわしゃわしゃと正邪の髪を弄り続ける。
毎日のようによく飽きないもんだ。
そんなことを言いながら俺も飽きてはいないんだけどね。
正邪は満足したのか俺の胸に顔を押し付けた。
軽く正邪の背中をポンポンと叩いてやる。
正邪は満足そうに唸ると目を閉じた。
「あったかい。」
「そうか?」
「お前の態度は冷たいけどな。」
そういって正邪は鳥のようにクルクルと笑った。
「どうしたら変わるもんかねぇ。」
「変わんなくていい。」
「どうして?」
「それをいうのは野暮だろ?」
まあ、最初にこの会話をした時よりもマシか。
最初に言ったときは無言で胸を叩かれたからなぁ。
しかも結構本気で。
そんな感じで成すがままにされていると時計が野暮な音を立てた。
なんやかんやもう7時か。
正邪は名残惜しそうな表情をしながらも俺の上から退いてくれた。
「それじゃ。」
「おう、行ってら。」
地底の事務所の仕事は勇儀さんの所為でまだまだ溜まってるからな。
仕事がないなら別にいいけどしばらくの目標は勇儀さんの仕事を終わらせることだな。
俺はため息を吐くと事務所に向かって足を進めた。
それから日中はトラブルを処理して帰宅する。
最近は毎日がこんな日課だ。
「ただいま。」
「おかえり、大丈夫か? 随分とぐったりしてるけど。」
「ん。まあ、厄介ごとをいくつか解決してきた。」
「お疲れ様。」
そういって正邪は俺の額にキスした。
「あんとさん。」
俺は正邪の頭を撫でると正邪はむっとした表情をして俺に抱き着いてきた。
「ちゃんと返せよ。」
「俺が下手なの知ってるだろ。」
「へたれ。」
「なんとでも言え。」
俺はそういって正邪を連れたまま居間に戻った。
丁度夕飯の時間か。
さて、何を作ろうか…
考えた末に俺はシンプルな物を作ることにした。
お裾分けでもらった鮎を手早く処理して山椒をすり込み、串に突き刺す。
ここでは塩は高級品だからな。
そしたら、囲炉裏でゆっくりと焼いていく。
正邪はその間に何か鍋を作っている。
覗き込もうとしたらシニカルに笑って鍋に蓋をした。
「なんで見せてくれないんだよ?」
「してくれたら見せてもいいんだぜ?」
「グルルルル…」
「そんな風に唸っても駄目だっての。」
正邪はけらけら笑うと立ち上がって近くの棚から酒を取り出した。
「そんな鮎を持ってくるんだ。どうせなら呑もうぜ、猫辰。」
「ったく。」
そう呟きながらも俺は盃を2つ取り出した。
「俺も呑む。」
「珍しいな、お前も呑みたいなんて。」
「べっつに~?」
「なんだよその言い方?」
「何でもありませんよ~だ。」
「さては拗ねてるな?」
ったく、全部図星か。
俺はため息を吐くと一升瓶を奪い取った。
「あっ! 何すんだよ!」
「お酌。」
そういって俺は正邪に盃を持たせて酒を注いだ。
ちなみにお酒は勇儀さんの盃通しだ。
元々お酒だったので純粋にお酒の濃度だけ上がってる…筈。
一升瓶を渡すと正邪は俺の様子を笑いながらもお酒を注いでくれた。
「お疲れ様、猫辰。」
「そちらこそお疲れ様。」
そういって俺たちは盃をコツンとぶつけた。
2人そろって一気に酒を煽る。
「そういえば今日は何してたんだ?」
「ん、そうだなぁ…少し買い物に行ってたよ。」
「大丈夫だったか?」
「大丈夫だよ。地底は嫌われ者の集まり、私の様な天邪鬼でも受け入れてくれてる。」
「そうか。」
「お前は過保護だな。」
「それでも心配なもんは心配だよ。」
「そうか、ありがとな。」
そんな感じで俺達は鍋をつつき、鮎を齧りながら夕食を食べた。
やがて鍋も魚も腹の中に納め、お酒だけを片手に満腹感を感じる。
しばらく語るともなしにしゃべっていると正邪が俺の傍に近寄ってきた。
「私の事、嫌いか?」
「…それをいうのは野暮ってもんだろ?」
俺はニヤリと笑って答えた。
正邪はふくれっ面をすると俺の膝の上に乗ってきた。
「お前のそういうところ、嫌い。」
「そうか? お互い様だと思うがな。」
「…馬鹿。」
「元より頭は単純だけど。」
「…そういうことじゃない。」
「じゃあどういう――」
そこまで言ったところで俺は強引に唇をふさがれた。
正邪の指が俺の鎖骨を伝う。
今夜は長くなりそうだ。
俺はそう思いながら着ていたパーカーに手をやる正邪を抱え上げるのだった…




