オラホビール買って帰る
まだ未成年…なのにビールネタなんてやってもいいのか?
神主のみぞ知る。
神主に連れられて俺は人里の前に来ていた。
「ここが慧音のいる人里だ。」
ここではまず見かけない出で立ちに人々の視線が集まる。
「ここだね。」
好奇の視線に晒されながら俺たちは寺子屋の前まで来た。
「慧音、いるかい?」
ZUNさんが慣れた様子で寺子屋の扉を開ける。
中はやっぱり俺の想像通りだった。
寺子に授業する教室。
奥に位置する黒板から見て左のには木ばりの廊下がある。
これも俺の想像通りなら、黒板の裏にある部屋に慧音さんの部屋がある筈だ。
「誰だこんな時間に…」
慧音さんが腕を上に伸ばしながら教室にやって来た。
「なんだ、神主か。久しぶりだな。」
「うん。久しぶり。」
2人は軽く挨拶を交わした。
「ところでこの子をここに住ませてくれないかな?」
「神主、隠し子か? 感心しないな。女房に素直に言いなさい。」
「違いますって…この子は猫辰。新しく幻想入りした子だ。本人は帰りたくないって言ってね。」
「ZUNさん!?」
予想外すぎるプロフィールに俺は驚く。
いやいやいやいや!
聞いてない…
「ははは、可愛いな。」
そう言って慧音さんは俺の頬をつつく。
なんだろう…慧音さんのつつき加減がすっげー絶妙で幸せなんだけど、この踊らされた感は…
「この子は他の寺子よりかは勉強が出来ているから助教師にするも個人授業をするも慧音次第だ。」
「そうだな…最近少し忙しかったんだ。時と場合によって変えるさ。」
慧音さんは今度は俺の頬を軽くつまんで遊んでいる。
いじり具合が半端じゃない。
「半端者ですがよろしくお願いします。」
俺は慧音さんの手を少し無理矢理離すと頭を下げた。
「できた子だな。」
慧音さんが感心した様に俺に言った。
「意外と本性は酷かったりするかもよ?」
ZUNさん、いくら神主といえど好き勝手しすぎじゃないですかね…
「私はこの子を信じるよ。」
慧音さんはそう言うと俺の頭を上げさせた。
慧音さん天使か…
「それじゃ、僕はこの辺で。あぁ猫辰くん。君に渡す物があったよ。」
そういうとZUNさんは俺にノートPCを渡した。
表面には「Believe You(信じているよ)」と書かれた文字がある。
「幻想郷産のパソコンだ。名前は『KAPPA 3rd』っていうらしい。それじゃあ今度こそ。」
そういうとZUNさんはふわっと麦の匂いを残してその場から消えた。
立っていた跡には紙切れが落ちている。
拾い上げて見てみると、ワザととしか思えない程汚い字で「オラホビール買って帰る」と書かれている。
あの人、最後の最後まで楽しそうな人だったなぁ。
パソコンは何故か単体でインターネットに接続できた。
試しに「オラホビール」と検索をかけてみると長野県の東御市と言うところの郷土ビールであることが分かった。
…まあ、知ってた。
あの人も地元愛すごいな、神奈川に確か住んでたはずだっけ。
「その鉄の箱はどうやって使うんだ?」
慧音さんが聞いてくる。
「えっと…今度教えます。」
慧音さんは少し残念そうだ。
罪悪感がすごい…
「じゃあ、改めてよろしく、猫辰。」
「こちらこそよろしくお願いします、慧音先生。」
そう言って手を差し出すと慧音さんはやや顔を赤らめて握手した。
なにこの…子(?)、超かわいい。
「子供達にはよく言われているがなんか照れるな。」
…新任教師みたいだな。