歴史と思い出~Old or Memories~
アナザーストーリーNo.1
もこけね回です。
拙いながらも英語の副題まで投入してみました。
「…ただいま~」
あぁクソ、気が重い。
私がこんな目に合ってるのも元をたどれば全部あいつの所為だ。
何が「自分勝手な妖怪」だ。だがそれでも的を射た言葉だったからこそ私は手ぶらで帰ってきたのかもしれないな。
教室を横切って襖に手を掛けようとしてためらう。
…やはり気の進まないものはどうあがいても気が進まない。
私は意を決して襖を開けた。
「…妹紅か。」
慧音は振り返ることもなく書物に何か書き込んでいる。
私は思わず一瞬息を止めた。
少しばかり気まずくなって頭を掻く。
「…猫辰は私が再起不能にしちまった。後100年は地上に出てこれないだろうな。」
ちゃちゃっと報告して撤退するのが一番賢いだろう。
「…そうか。」
慧音は少しの沈黙の後そう答えた。
「なぁ慧音、お前の力を使えばあいつを地上に呼び戻すことだって…」
そこまで言った直後に私は後悔した。
ゆっくりと慧音は振り向く。
慧音が泣いていた。
嗚咽も漏らさずしとしと涙を流していた。
「妹紅、変えてはいけない歴史もある。それがどんなに辛くとも私は私情を挟んで仕事はできない。」
言葉が出なかった。
「竜人戦争は起こるべくして起こり、歴史に記録され終了した。その後の復興だって予定通りだ。」
慧音は淡々と語る。
「終わりを迎えたんだ。それでもお前は私に歴史を変えてまで引き止めろと?」
「でも…」
「でもじゃない。これが歴史だ。私がお前が蓬莱の薬を飲んだことをなかったことに出来ない様に。」
「――それじゃあ慧音があんまりじゃないか。」
私がポツリと漏らした言葉に慧音が目を見開く。
「…ふふっ、妹紅は優しいんだな。でも私は大丈夫。」
「本当に?」
「歴史は変えられなくても記憶には残るさ。」
そういって慧音は自分の頭を指先で軽く叩く。
その顔には張り付けた様な泣き笑いが浮かんでいた。
「慧音…」
「そうだ。今日はミスティアが良い酒を持ってきたんだ。一緒に飲まないか?」
「――そうだな。どうせなら頂こう。」
慧音は一升瓶と徳利、それからお猪口を用意した。
慎重な様子で慧音は一升瓶から徳利に注ぎ更にお猪口にも注ぎ込む。
どちらからともなく器を手に取ると互いにぶつけあう。
「――幻想郷に」
「…幻想郷に」
グイっと一息に呑み干すとまろやかな感触が喉を通り過ぎた。
一息ついて慧音を見るとその顔からはぼろぼろと涙が出ていた。
「…猫辰ぅ~」
思った通りだ。
少しでも酒が入ると慧音は本性が現れる。
「なんで地底なんか行ってしまったんだ。神でも妖怪でも私は…私は…」
そこまで来て慧音は嗚咽を漏らした。
黙って私は慧音の背中をさする。
「ごめんよ妹紅…勝手なお願いをした挙句…こんなことになってしまって…」
元はといえば酔いつぶれた慧音から猫辰を取り戻してほしいなんていう言葉が聞こえてしまったからこそ私が勝手に探しに行ってしまったのだが…
「気にするな…私が勝手にやったことだからな。」
まったくあの野郎、今度会ったら殴ってやる。
そして言ってやるんだ。
――目は覚めたかってな。




