ちゃんと扉は手で開けて、ね?
お久しぶりです。
気が向いたので一気に執筆してみました。
結果的に和平交渉は地霊殿で行うことになった。
円形のテーブルを向かい合う形で俺と妹紅さんは座っている。
紅茶の入ったティーカップがあるがとてもじゃないけど手を付ける気にはなれない。
「猫辰、なぜ地上に戻ろうとしない?」
「妹紅さん、俺妖怪なんですよ?」
「妖怪でも地上で暮らしている奴もいる。」
「普通の妖怪ならいいかもしれませんが、俺はちょっと特殊な立ち位置にいますから。神格化するのが嫌なんです。」
それを聞いた妹紅さんは難しそうに腕を組んでいた。
もう一押し必要かな。
「神格化することがどういう事か知ってますか? 確かに妖怪は神になれます。しかし、恐れられていた存在からあがめられる存在。
――それは幻想郷では禁忌ですよね?」
「…そもそも、それはここにいても同じじゃないか? お前のことを神だと崇めだす奴はどうしても出てくる。」
「確かに出てくるかもしれませんね。では、外の世界にいた神様がなぜ幻想郷に流れ着いたか知ってますか?」
「それは信仰がなくなったからで…お前まさか――」
妹紅さんは俺が何を狙っているのか察しがついたようだった。
「そう、外の世界では神様は目に見えなかったから信仰が薄れた。つまり、一時的に私が神格化してもご加護も姿も無ければただの妖怪に逆戻り出来るってことです。」
「……。」
妹紅さんは驚きで言葉を失っている。
「つまり、いつかはこの地下から出てきてくれるってことだよな?」
「えぇ、それまで寿命が続けば100年程地下で引きこもってようと思ってますよ。」
「100年…。」
「無論、思った以上に信仰されている様であれば120年、150年と増えていきます。」
「待てよ、慧音はどうするつもりだ! まさか100年も待たせるつもりで――」
「ですからそういってるんですよ。」
「お前ッ――!」
妹紅さんはカッとなったのか俺の胸倉を片手で掴み上げる。
「そういうところがガキだって言ってるのが分かんないのか…」
堪えたような口調で妹紅さんは言葉を絞り出す。
「えぇ、分かりません。私は自分勝手な妖怪ですから。」
妹紅さんから炎が吹きあがる。
じりじりと首のない不死鳥を象っていく様は怖かったけどそれ以上に綺麗だった。
「……。」
しばらく妹紅さんは俺の胸倉を掴み上げたままだったがやがて放り出すようにして俺から手を離した。
「…慧音には言っておく。私が誤ってお前を再起不能にまで傷つけたから今後100年は出てこないだろうってな。」
不死鳥はふっと姿を消し、妹紅さんもどこかへ消えていった。
「――はぁぁぁ~~~~~!!」
安堵と疲れから思わず机に突っ伏す。
「どうやら納得してもらえたようですね。」
いつの間にかさとりさんが目の前に座って妹紅さんが口を付けなかった紅茶を飲んでいる。
「そりゃ疲れますよ…」
「らしいですね。私も彼女の心中を読ませてもらいましたが下手をすればこちらが火傷するのではと思いましたよ。」
「人の思考で火傷ってするんですか?」
「言葉の綾です。」
「というか焦って気付いてなかったけどさとりさんそんなキャラ――じゃないや、性格じゃないですよね…」
そういうとさとりさんはふっと微笑んだ。
「そんなことを言ったらあなたも私に敬語を使うような妖怪ではないでしょ?」
「どうだか…ひょっとしたら敵から守るために敬語を使っているのかもしれない…ですね。」
「あなたが根っからの優しい人であることは良く知ってるわ。気が向いたらまたいらっしゃい。ちゃんと扉は手で開けて、ね?」
「あぁ~…うん、面目ない…」
そういって俺は苦笑しながら紅茶を口に含んだ。
「おっ、その様子だとあの危ない蓬莱人は帰ったんだね。」
お燐さんが腕を包帯で吊りながら現れた。
「お燐さん!?それ大丈夫ですか!?」
「あぁ、問題ないよ。ちょっと外されたっぽくってね。」
よかった、脱臼程度で済んだのか…
地霊殿の皆さんには随分迷惑をかけたなぁ…
今度何かお詫びの品でも送らないと…
「それじゃあケーキでももらおうかしら。紅魔館特製のね。」
「不定期で心を読んでこないでくださいよ…」
「ケーキ!?」
無意識ちゃんがさとりの後ろから飛び出してきた。
ほんとにいつからいたのか気付かないなぁ…
「お兄さんケーキ持ってきてくれるの!?」
あう、こいしちゃんのキラキラした目が痛い……
「う~ん、出来る限り要望には添えるようにするよ。」
そういうのが精一杯だった。
「おつかれ~、交渉は成功したんだね~」
お空さんがひょいっと顔を出す。
「原子炉の管理はいいんですか?」
そういうとお空さんは照れたように頭を掻いた。
「あぁっとね…少し本気出しすぎちゃった所為でね…ちょっと今原子炉が蒸発しちゃってんだよ~」
何故か照れたようにいうお空さん、あんたが一番恐ろしいわ…
本気を出せば鉄すら気体に変えるお空さんの能力に戦慄しているとさとりさんが何やら持ってきた。
「ほんとはゆっくり時間をかけて食べるつもりだったけど特別にどうぞ。あなたたちも一緒に食べましょう。」
銀の覆いを開けるとそこにあったのは真っ白なショートケーキ。
紅魔館のケーキってのはさすがに冗談だったみたいだ。
冗談…だよね?
そんなこんなで、気が付けばお茶会になだれ込んでいた。
いうて随分楽しかったけどね。
ちなみに会話の一部を抜粋するとこんな感じ。
「ケーキおいし~!」
「こらお燐! 片手が使えないからって手づかみでケーキを食べるんじゃないの!」
「さとり様~ミルクケーキはないんですか~?」
「全く騒がしいったらありゃしない…」
地霊殿の皆様は随分と楽し気な方たちが溢れているご様子。
こんないいアットホームな雰囲気が漂っているのなら地底も地上もあまり変わりはないのかも。
そんなことを考えているのがバレたのかさとりさんはこちらを見てくすくすと笑った。
「地底だってそこまで家庭的ではないわ。これは仮初の平和。薄氷の上にできた平和よ。」
「薄氷の上でも平和は平和です。」
「そうなのかも…しれないわね。」
そういうとさとりさんは紅茶を啜った。
いやぁ、へいわっていいことだなぁ…
そんなことを思いながら俺は妹紅さんから逃れ切ったことを改めて実感するのでした、チャンチャン♪




