時、叢雲の如く…
ねこさん視点ではないのであしからず。
かなーリ違和感を感じると思います。
「おばあちゃん。遊びに来たよ!」
「おぉ、よく来たねぇ。」
駆け寄ってきた孫の髪に老婆はそっと触れる。
「こ~ら、悠多。おばあちゃんを困らせちゃだめよ?」
「は~い。」
悠多と呼ばれた老婆の孫は反省する様子もなく祖母に抱き着く。
「まだやることがあるんだから手伝いなさい。」
老婆は孫に言うと悠多はおとなしく母について行った。
「終わったら一緒に遊ぼうね!」
「はいはい。」
老婆は穏やかな笑みと共に答える。
その日、老婆と孫は日が暮れるまで話し合ったり、一緒に遊んだりと平和な一日を過ごした。
その夜。
老婆が揺り椅子に腰かけ孫がその前に行儀よく座っていた。
「おばあちゃん、また話してくれよ。あのお話!」
「以前話したろう?」
「それでも聞きたいんだよ!」
「それじゃあ、話すとするかねぇ…」
そういうと老婆はゆっくりと語りだした。
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昔々、あるところに不思議な男の子がいましたとさ。
その男の子はあるとき謎の男に連れられて慧音さんの寺子屋に現れたんだ。
そこで何を話したのかはだあれも知らない。
でも、その日からその男の子は慧音さんの寺子屋でお手伝いをすることになったんだ。
謎の男はそれ以来現れることはなかったんだとさ。
ある時その男の子が町を歩いていると1人の少女が路地裏に連れ込まれているのを発見したんだと。
最初、男の子は見て見ぬふりをすることに決めたみたいだが何か思うところがあったんだろうねぇ。
少女が連れ込まれた路地裏に入っていって連れ込んだ奴を鬼のような強さであっという間に倒してしまったのさ。
その少女は里長の娘だった。
里長はその男の子を探したみたいだけど結局見つからずじまいに終わったんだとさ。
そしてある時、外の世界から大勢の兵隊さんが攻め込んできたんだ。
村の人々は逃げるか、戦うかで大きく対立した。
その時に現れたのがその男の子だ。
男の子は慌てふためく人々に向かってこう言い放ったのさ。
今でもこの言葉は耳によく残ってるよ。
「この里を守るために戦いたい奴は俺のところに来い。ただし、武器は持参だ。」
ってねえ。
勢い込んで言った男の子に里長は笑ってこう言ったんだ。
「ついて行くものなぞ誰もおりませんぞ。」
そしたら男の子はこういったんだ。
「こんな鬼でもついてくる奴がいるならそいつは修羅だ。」
その言葉にその場に居合わせた里長の娘は笑ったものさ。
男の子は扉を破壊して去っていった。
残念だけど男の子の言葉で里の意見は決まった。
侵略者から逃げるために里を捨てることにしたのさ。
里を逃げた人々は妖怪の山に逃げたんだ。
男の子は親友の天邪鬼と2人きりで里を守ることになったんだと。
兵隊さんたちがどんどんと里に近づいてくる。
それを男の子は最初はよく守っていたのさ。
でも、親友の天邪鬼が外の世界の武器で死んでしまった。
そのとき、男の子は天邪鬼になって親友を救ったんだ。
そして生き返ったとはいえ親友の死にひどく心を痛めた男の子はある生き物に化けたんだ。
麒麟の様な胴体に細身の竜の前足。
豹の後ろ脚にとがった猫の耳を生やし、金色の猫の目で相手を睨みつけ、虎、または竜の様な頭を持つ化け物。
美しくも恐ろしく、儚くも力強い獣。
その化け物は多くの兵隊さんたちを食べてしまった。
人々はそれに「猫辰」という名前を付けた。
天狗たちの助けもあって男の子はなんとか兵隊さんたちに勝った。
そして、その侵略は「竜人戦争」と呼ばれるようになった。
「竜人戦争」に勝った男の子は博麗神社の宴会に出席した。
しかし、それ以来「猫辰」を見た者はいないんだとさ。
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「ーーおしまい。」
「その『猫辰』はそのあとどうなったの!?」
悠多は前のめりになりながら聞く。
「どうなったんだろうねえ。おばあちゃんにもそれは分からないわ。」
「そっかぁ…会ってみたいなぁ。その猫辰って奴。」
「そうね…悠多なら会えるんじゃないかしら?」
老婆はそっと微笑む。
「さ、もう寝なさい。明日は帰らないといけないんでしょう?」
「は~い。おやすみ、おばあちゃん。」
「おやすみなさい。」
老婆はそっと孫の髪の毛を撫でると床に着いた。
次の日。
「またね~! おばあちゃん!」
「またね~。」
祖母に見送られながら悠多は帰っていった。
「素敵なお孫さんですね。」
その時、老婆に声をかける影があった。
黒髪に金色の目をした15~17の青年だ。
「ありがとう、自慢の孫なの。」
「きっといい子になる。」
「そうかしらね?」
「約束するよ、ソラ。」
「えっ…?」
その時風が吹いた。
隣に立っているのは青年。
しかし、少女には伝説の妖怪の姿が重ねて見えた。
「会いに来てくれたのね…猫辰。」
「あぁ。遅くなってごめんよ。」
「…遅すぎよ。」
ソラは涙を流しながら猫辰に抱き着く。
「ソラ…待たせてごめん。」
「ほんとに遅過ぎよ。」
猫辰はそっとソラの背中に手を回す。
「ねえ、猫辰。」
「ん? どうした?」
ソラは首を横に振ると服の袖で涙を拭き、70年抱えてきた想いを伝える。
「…大好き。」
「…ありがとう。」
猫辰はやさしくソラを抱き返した。
ソラの時間がゆっくりと現実に戻っていくのを感じた。
「猫辰…悠多によろしくね。」
「分かった。でも、まだまだソラは長生きするよ。」
老婆は優しいまなざしで猫辰を見つめる。
「そうね。またあなたに会えるまでは死ねないわ。」
「ふふふっ、じゃあ100年後にでも会いに来るか。ソラにはまだ生きていて欲しい。」
「あなたにしわしわの顔では会えないわ。」
「ソラは今でも100年後でも綺麗だよ。」
「お世辞が上手くなったのね…それに」
ソラが続けようとすると猫辰はソラの頬に唇を当てた。
「それ以上は…ね? また会いに来るよ、ソラ。」
「……ええまたね、猫辰。」
猫辰はポケットに手を入れると去っていった。
時は戻り、ソラは首に何かがかかっているのを感じて首元を見る。
そこには爪だけが通された皮のネックレスが光っていた。
「まあ、悪戯好きね。」
ソラは猫辰の去っていった方に目をやる。
しかし、そこに猫辰と思しき影は何処にもなかった。
「ふふふ。ありがとう、猫辰。100年後、楽しみにしているわ。」
ソラは微笑むと陽が差す中、家に入っていった。




