神主、降臨。
閑話です。
「猫辰君~遊びに来たよ~。」
神主、降臨。
え~…
神主ってそんな簡単に幻想郷に来れるのか…
そして頬が赤い…
酔ってるな?
さてはZUNさん酔ってるな!?
「よなよなエール頂戴。」
「そんなものありませんから。」
あってたまるか。
軽井沢に行って買ってきてとでも言いだしそうだ。
そんなもん近くの酒屋で探せばあるだろうが!
そういいだしそうになるのを何とかこらえる。
仮にも神主だ。
そんなことを言ったら全東方ファンから叩かれかねない。
俺は慧音さんに相談することにした。
「慧音さん、神主が降臨しました。」
「ビールだろ?」
俺は頷く。
「こういう時は幻想郷のビールでも出すのが一番いいんだがあいにく私はビールは飲まないんだよなぁ。」
たしかに慧音さんがビールを飲んでいるのを見たことがない。
そもそもこの人酒飲むのか…
まあ、以前見たけどさ。
いや待て。
幻想郷にビールあるのか。
あるのか!?
俺は少なからず衝撃を受けた。
あるのか…
「猫辰、ミスティアの店に行って『八ヶ岳ビール』をもらってきてくれ。神主の名前を出せばすぐに出してくれる。」
八ヶ岳ビール、ねぇ…
ZUNさん、幻想郷には地ビールしかないんですか?
そんなことを考えながら人里を駆け回ってミスティアの屋台を探す。
ミスティアの屋台は案外早く見つかった。
屋台の暖簾を掻き上げて顔を見せる。
「いらっしゃいませ~。あれ、猫辰先生じゃないですか。」
「ミスティア、ZUNさんが来たんだけど。」
それを聞いた途端ミスティアが慌てたように俺に布袋を渡す。
「それを持って行ってください! もう前回みたいなことはご免ですから! それで勘弁してください!」
「お、おう。ありがとう!」
俺はよく分からんままに寺子屋に戻ってきた。
「ビ~ル♪」
本当にこの人大丈夫かよ…
酒の呑み過ぎて
そのうち病気になっちまうぞ。
元々痩せている人だからなおさら心配だ。
そんなことを思いながらZUNさんにビール瓶を渡す。
神主はご機嫌な様子で胸ポケットから栓抜きを取り出すとそれでキャップを取った。
慧音さんの差し出したコップを受け取ると、とくとくと注いで一息に飲み干す。
それが様になっているんだから何とも言い難い。
「うまい! 信州のビールは世界一ィ!」
「そうか、よかったな。」
慧音さん、その顔は全然いいとは思ってませんね?
なぜ嘘を吐く。
慧音さんなりの心配の仕方なのだろうと無理矢理納得する。
「とりあえず、その布袋に入っている奴全部持って行っていいから今日は外の世界に帰ったらどうだ?」
「うん、そうだね。今日は大人しく帰るとするよ。嫁さんも最近怖くなってきたからなぁ。」
「貫禄の出てくる頃か。」
「そうそう。」
「それだけ神主のことを大切に思ってるってことだ。」
「そうか~。それじゃあまたね。」
そういうとZUNさんは麦の匂いをその場に残して消えた。
慧音さんがふうっと息をつく。
「よかったよかった。」
「良かったですね。」
俺が頷くと慧音さんは俺のことをじっと見てきた。
「お前がまだ来る前にも何回か神主はこの幻想郷にやってきたんだ。それで前回が少しな…」
「何があったんですか?」
「神主が暴走して人里にあったビールを全て持って行った。」
「…はい?」
俺は思わず聞き返す。
「だから、人里に会ったビールを全て持って行ったんだ。そのうちの4分の1はこの人里で、ほかはリュックにいれて持って帰ったんだ。ちなみに人里の4分の1のビールを置いてあったミスティアの屋台で神主はそこにあったビールを一滴も残さず飲み干したらしい。」
「えぇ~」
軽く異変だ。
霊夢が動けないからなおさら質が悪い。
「というかZUNさん、その4分の1を飲んでも潰れなかったんですね…」
「それ以来一種の化け物、あるいは神として扱われている。」
おいおい、神主が神になるとはこれ如何に。
ZUNさん、マジでか…
うちの家族のだれよりも酒のみじゃねえか…
東方儚月抄では「美味しくお酒を呑める程度の能力取得の修行中」って言ってたけど、さながら「酒を呑んでも潰れない程度の能力」だ。
鬼がうらやましがる能力だが、絶対に神主だけには渡しちゃいけない能力だ。
Oh My God...
なんて能力を神主は持ってるんだ。
「さて、そろそろ寝る時間だ。明日に備えて早く寝るぞ。」
「うい。」
「おやすみ、猫辰。」
「おやすみなさい、慧音先生。」
そういって俺は自分の部屋に戻り布団に入った。
その夜、無限にビールが出る樽を神主がぶがぶ呑んでいる夢を見た。
ZUNさん、本当に酒の呑み過ぎには注意してくれ…




