元人間、現白狼天狗です。
遅くなりましたぁ!
人里に到着した。
念の為、俺はフードをかぶっている。
人ならざる者になったんだ。
どんな対応をされるか分かったもんじゃない。
大通りから細い道に入り、ハル姐の「鳳凰の巣」にたどり着いた。
「いらっしゃい。」
ハル姐はいつも通り、カウンターの前にある厨房に立っていた。
「あんた、人じゃないね。」
カウンター席に座るとハル姐に一瞬で正体を見破られた。
「初対面でこんなことを言うのもおこがましいかもしれませんがお願いがあるんです。」
ハル姐はがりがりとコーヒーミルでコーヒー豆を砕いている。
「なんだい。聞けることならお手伝いするよ。」
「助けていただけませんか?」
「助ける?」
俺はフードを取った。
「ほう、白狼天狗かい?」
「元人間、現白狼天狗です。」
ハル姐は手早くコーヒーを淹れるとマグカップに注ぎ、俺の前に置いた。
「それは一体どういうことだい?」
ハル姐はこちらをじっと見る。
夕焼け色の目がこちらの顔を映しそうだ。
俺はマグカップを傾けると語ることにした。
「実は…」
簡単に用件をかいつまんで説明する。
「なるほどねぇ。この子が襲ってきたときにそれを発症したと。」
「はい。もしかしたらあなたならどうにかできるんじゃないかと思いまして。」
ハル姐は少し考え込む様子を見せた。
「それ、もしかして能力じゃないか?」
「能力?」
あり得ない。
だって俺の能力は「物語を作る程度の能力」だ。
そう簡単に…
待て。
もし仮に、俺の能力が違うとしたら…
または、この能力が外でのみの能力だとしたら…
そうなると大体の辻褄が合う。
「能力、ですか。」
「驚いたかい?」
「まさか持つとは思わなかったので。」
嘘とも本当とも付かないことを言う。
「そうさね。恐らくだが『化ける程度の能力』じゃないか?」
「化ける?」
「そう。試しに人間の特徴を上げてごらん。その白狼天狗と比べてどこが違うか。」
俺は意識を集中させて思い出す。
当たり前のことほど以外と思い出しずらかったりもする。
人間の特徴を頭に思い浮かべて言う内に鋭い嗅覚が衰え、ハル姐の顔が少し遠くに見え、音の聞こえ方も少し変わった。
「完璧だ。あんたは今人間だよ。」
俺は自分の手をしげしげと眺める。
なんとなく竜の腕を想像してみる。
すると手が鱗に覆われ爪が伸びた。
「うぉ!」
「すっかり使いこなしているじゃないか。感心感心。」
ハル姐が笑う。
「ありがとうございました。」
「どういたしまして。ところでその子は誰だい? そちらさんも人間じゃないね。」
ハル姐はソファで寝ているルーミアを指す。
「その子に襲われまして。何とか気絶させたんですけど。」
「なるほど。じゃあ、その子はどうするつもりだい?」
「何とか説得して見せますよ。そこそこ手こずるかもしれませんが。」
「骨が折れない様に祈ってるよ。」
ハル姐の言葉遊びに俺は苦笑した。
「あともう一つあるんですがいいですか?」
「ん? なんだい。」
「雇っていただけませんか?」
流石に想定外だったのかハル姐が口を開ける。
「あんたを雇う?」
「はい。実は恩返ししたい人がいまして。」
「なるほど。その恩返しのためにお金が必要だと。」
「はい。」
「てことは、あんた今お金持ってないのか?」
あっ…
出されたからつい飲んだけどお金ないんだった…
「すいません。それも働いて返します。」
「いや、いいさ。これは私のおごりということで。」
「で、頼んでおいてなんですけどどうやって働く日を知ればいいですか?」
「あんた、どこに住んでるんだい?」
「この近くの人里です。」
その言葉だけでハル姐はうなずいた。
ここら辺に人里なんてここともう1つ、俺の住んでいる人里しかない。
「分かった。あんたは見たところしっかりしたガキっぽいし信用することにする。営業時間についてはこれで調べな。」
そういうと、ハル姐は羽を取り出した。
「その羽が赤く光ったら営業中だ。行ける時間帯に来てくれ。」
「もし来る途中で閉店したら?」
「その時はあんたの判断に任せるよ。閉店後に来たようならコーヒーの1杯はおごってやる。」
「ありがとうございます。」
こうして俺は妖怪化の原因を突き止め、ハル姐の店で雇ってもらえる事となったのである。
すいませんでしたぁ!




