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病室にて

病室にて -恋に国境はない-



「あーめっちゃ彼女欲しいわ」

本条が言う



「唐突やな」



「いや、ずっと言ってたよ」



「いや、ずっとは言ってないよ。間違いなく」



「俺の発言をある規則で並び替えたら、全部"彼女欲しい"になるようになってるねん」



「それはちょっと嘘すぎるやろ。もう意味が分からへんもん」



「まあ、ちょっとだけ嘘ついてしもたな」



「いや、もう全部嘘やん」



「まあ、とにかく彼女が欲しいってことよ」



「ふーん。」


僕は手の中のルービックキューブをこね回す作業に集中する




「...なんや。お前は彼女要らへんのか?」



「うーん。まあ俺は病人やからな。あんまりよう分からへんな」



「いや、それは間違えてるよ。病人やからとか関係ないやん。」




僕は手を止めて、本条を見た。珍しく真剣な表情をしていた。




「恋に病気とか国籍とか、年齢とか一切関係ないからな」



「なんで、急にそんなに熱いねん」



「お前、2組の田中さんって知ってるやろ」



「ああ。あのちょっとやんちゃそうな娘やろ?」



「そや。あのめっちゃ可愛い田中さんや」




どうやら本条は田中さんが好きらしい



「そんで?その田中さんがどうしたんや?」



「今、2組の久保田(クボタ)と付き合ってるんや」



「えっ...。あーあのよく皆にいじられてた奴や。」



「そうや。あの全然顔が冴えへん眼鏡の出っ歯や」



「ちょっと言い過ぎやろ」



「そうや。ちょっと俺は言い過ぎてる」



「めっちゃ素直やな」



「そう。めっちゃ素直」



僕は本条の頭を一回ぺしっと叩いた。



「はぁぁ。」


本条はため息をつく



「...田中さんのこと好きやったんやな。お前」



「いやー。どうやろ。」



「えっ。どういうこと?そこは全然素直じゃないやん」



「いや、勿論田中さんは可愛いし好きなんやけどさ。それよりも久保田に彼女が出来たことに凹んでるねん」



「ああ。なるほどな」



「俺は容姿的には久保田より全然上やと思うねん」



「うーん。まあな」



「性格も俺めっちゃええやんか?」



「...」



「性格も俺めっちゃええやんか?」



「.......」



「性格も俺めっちゃええやんか?」



「いやいや、心強すぎるやろ。なんで3回目いけんねん」



「いや、聞こえてへんのかなあと思って」



「聞こえてるけど敢えて無視してたんや。察してくれ」



「で?どうなんや?俺ええ奴やろ?」



「まだ聞くやん。わかったわかった。お前はええ奴や。俺が保証する」



「おーそうやんな。よかったよかった」


本条はニコニコと笑っている




僕はルービックキューブの一面が完成した。


「ほら、一面出来た。」



「うわ、凄いなお前。世界レベルやん」



「それは世界舐めすぎや」



僕は次の工程に取り掛かった。




ふと、久保田の事を思い出した。



「...まあでも久保田も結構ええ奴や」

僕は呟くように言った。



「え?なんや。お前も久保田派なんか」



「そんな派閥ないやろ」



「いや、これがあるのよ。この話を滝本にもしたら、滝本も"久保田はええ奴やから"って言いよるのよ」



「それで派閥どうこう言われても」



本条は腕を組む。


「まあええわ。それで?なんで久保田がええ奴なんよ?」



「一年の時、数学のクラスが1.2組合同で成績で別れてたやん」



「うん。俺は一番下のCやったわ」



「まあ俺と久保田はAクラスやったんやけど」



「久保田とお前めっちゃ頭ええやん」



「まあお前が悪すぎるとも言えるな。この場合。」



「数学は苦手やねん。XとかYとか英語が出てくるからさ」



「それは英語が苦手なんやろ。というかただのアルファベットやんか」



「まあ、それはええから。続けて」



僕は本条を睨みつけたが、本条は僕の話の続きを待っているようだった。




「...ほんでたまたま席が久保田の隣になったときに、俺ノート持ってくるの忘れたんよ」



「おー。やらかしたな。お前にしては珍しいな」



「まあな。それで、久保田にノート一枚ちぎってくれへん?って頼んだんや」



「ほー」



「そしたら、久保田のノートはあと1ページしか使ってへんところがないねん」



「うわ。それは貰われへんな」



「うん。俺もそれやったら他の人に借りようかなと思ったら、久保田がそれを半分に破いて俺にくれたんや」



「えー」



「それで、俺はこいつは優しい奴やなぁって思ったよ」



「俺は今の話聞いて、ちょっと引いたな」



「なんでやねん」



「いや、そこは素直に"あと1ページやからあげられへん"って言うた方が、お互いの為になるよ」



「そうかな?」



「そうや。なら、お前はその半分しかない紙で黒板を写し取れたんか?」





「...いや、結局授業終わってから滝本にノート借りて、映したわ。」



「ほら、見てみぃ。久保田が"ただただ損をしただけの話"やんか」



「まあ、半ページでは限界があったな。ただ久保田はミジンコみたいな字でノート書いてたわ」



「久保田はお前のせいでめっちゃ大変やんか」



「そうそう。大変そうやから俺のノート貸してやろうかと思ったわ」



「ちゃうがな。それは元々お前が久保田からはぎ取ったノートの切れ端やん。めっちゃ本末転倒やわ」



「まあそんなこんなで、」



僕はルービックキューブの側面の下2段の色を揃え終えた。



「久保田はええ奴ってことや」


僕は話を無理くり纏めた。



「いや、久保田がええ奴より、可哀想が強いわ。お前のその話」



「まあ、そうなるか」



「はぁぁ」

本条がため息をつく



「彼女が欲しいなぁ」



「...話が戻ってきたな」



「久保田に出来たなら俺にも出来るはずなんや...」



「まあ、それはよく分からんけど」



「くそー...久保田になりたい」



「なんでやねん。」



「いや、田中さんと付き合う前の久保田じゃなくて、付き合った後の久保田やで」



「いや、それはもう単純に田中さんと付き合いたいだけやんか」



「そうやねん」



「さっきから、めっちゃ素直やん」




本条の女々しい愚痴はその後も続いた。


その間に、僕はルービックキューブを完成させた



「ほら、見て。本条」



「おお。出来とるなぁ。すごい」



「やり方教えたろか?」



「いや、ええわ」



「え、なんで拒否やねん」



「それを覚えても彼女出来なさそうやし」



「もう物事の基準が"彼女できるか否か"になってるやん」





本条が僕の顔をまじまじと見つめている




「なんや、気持ち悪いな。めっちゃ見てくるやん」



「いや...お前が女やったらよかったのにと思って」



「うわぁ...引くわ」



「いや、お前顔がええやろ。そんで体の線も細い。しかも俺とほぼ毎日会ってて、一緒にいて面白い」


「お前が女やったら完璧や」



「......」



「ちょっと女になってもろてええか?」



「そんな気軽に性転換できるか。」



「そうか。無理か。」



「無理や。というかお前の彼女は絶対嫌や」



「なんでやねん。さっき"こんなええ奴はおらん"って言い切ってたやん」



「言い切ってるか。あほ。お前に言わされたんや」



「いやいや、あれは言い切ってたよ。めっちゃ真剣な顔で俺の方見てたもん」



「嘘つけ。ずっとルービックキューブ見てたもん」



「なんでや。俺よりルービックキューブが大事ってことか?」



「...まあ、現状は"その通り"と言わざるをええへんな。今、本条とは距離を空けたい」



「どうしてそうなるんや」



「お前が気持ち悪いこと言うからや。」






そこからも下らない話を20分ほど続けた。







本条が席を立った。



「ほな、そろそろ帰るわ」



「おう、そうか」





「今日は俺が晩飯作る当番やからな」

本条がグッと背伸びをしながら言う。



「大変やな。お前も」



「まあ、お前に比べたら大したことないわ」



本条が学生鞄を床から拾い上げると、肩に掛けた。




「そういえば、俺の妹にお前の写メ見せたらさ」



「なんで見せるんや」



「いや、妹が見たいって言いよるから」



「ふーん」



「日頃から妹には、"俺は毎日放課後にイケメンと会話をしに病院に通ってる"って言ってるねん」



「...お前ちょっとこっち来い」



僕は本条の頭を叩く為に、本条を手招きしたが全然近づいてくる様子はなかった。



「いや、でも写メ見せたら妹がめっちゃお前のこと気にいったみたいやで」



「...まじか。それはちょっと嬉しいけど」



「そやろ。だから、明日は妹がここに来るから」



「...」



僕は本条の言ったことがすぐに理解出来なかった。



「俺ちょっと明日は用事があって来られへんねん」


「だから、明日は妹がお前んとこ来るから」


「ほな!」



本条が手をあげて病室から出て行った。



「おい。ちょっと待て。」



僕はやっと本条を呼び止めるべきだということを理解して、声を荒げたが、本条はもういなかった。


僕は静かになってしまった病室で、これは面倒なことになったなぁと気を落とした。










病室にて -恋に国境はない- - 終-























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