始まりの髭面
とある国にて、
最強の将軍様がおられたとか。
その者は、冷静沈着でありながらお人好しだったと言われています。
その将軍様は、世界の全人口の4割しかおらぬと言われている魔術に長けた者であり、その中でもたった一握りの存在、2種の魔術を操る者だったそうです。
その者は皆に“紅蘭”と呼ばれていたそう。
〇●〇
凛美は父にならいいつも通り日課をこなしていた。
年は数え14。
しかし体つきは美しくしまった筋肉が女のようには見せない。
男さながらである。
「凛、食事の時間だよ。」
「すぐ参ります。」
凛美の名をそう呼ぶのは今となってはもうこのお婆くらいなもんだ。
このお婆には父が姿を消した時から世話になっている。
頭は上がらないが、下がるわけでもない。
「凛、おめェいつまでこんな所で修行してるつもりさ。」
お婆と共に粥を食べていた。
いつもより芋が多いなと思っていた時だった。
「知らんな。それより、.....」
凛美は粥の残りを胃に流し込み、木棒を2本両手に持った。
「お婆、この村にお客さんだよ。」
凛美の口はニタリと笑っていた。
〇●〇
「この村の者に申す。我が国が領土を増やす始めの拠点として、お前達の土地を我が国の領土とする。分かればそれ相応の対応を為せ。」
髭面のいかにも偉そうな男。
この村の西の森を進めば隣の国、つまり国境に近いこの村を拠点とし、内部へと攻め込むのは確かに正解である。
ただ、1人の小娘がこの村にいるのを見過ごしたのは大きなミスとなる。
村人は誰もひかない。
髭面はそれが気に食わないのか、顔をしかめる。
「おい、それ相応の対応をしろ、と言っているのだぞ?とっとと準備しろっ!!」
髭面は怒鳴り散らすが村人は退かない。
その理由は、すぐに分かる。
「じゃあ、私が最高のおもてなしをさせていただきます。」
村1番の大通りを堂々と歩いて、髭面の前に立つ。
一応異国のお偉いさんと見られるため、それなりに気を遣い小綺麗な紅い袴を履いた。
両手に花束ではなく、木棒を持っているのは触れてはならない話である。
普段は伏せ気味な凛美の深紅の瞳がギラギラとひらかれていた。
口はニヤリと笑っておりより一層不気味な感じを出している。
「ほう、なかなかの上玉。我の妃にしてやらんこともないぞ。」
髭面は愚かであった。
故に、自ら命を危険に晒すような物言いをしてしまった。
ここで引き下がっていればよかったものを。
「それには及びません。...貴殿らには退散いただこう。」
「はぁ?」
その瞬間、凛美は飛んだ。
常人にはありえないスピードで一歩を踏み出した。
気づけば髭面の後にあった軍隊が吹き飛んでいた。
大きな爆風によって。
爆発があったのではなく、爆風が起きた。
運が良かったものはそれで気絶し、運が悪かったものは強風によって息ができない苦しみを味わいながら何度も地面に叩きつけられる地獄を味わった。
体の至る所に擦り傷があり外傷も酷いが、あの地獄を受けたなら全身打撲ですめばいい方だ。
「さて、次は貴殿の番であるな。」
凛美は人を不殺よう痛みつけるのが好きな一面がある。
よって今は興奮が抑えられない。
所謂、戦闘狂という奴である。
その姿に恐怖を抱いた髭面は股間から生暖かいあれを漏らしていた。
「お国へお帰り。そんで...二度とこの地に足を踏み入れるでない。」
凛美は髭面の耳元まで近づき、そう囁いた。
髭面は大きくたくさん頷き、意識のない者達を起こしてお帰りになられた。
その姿を誰かに見られていることには気づけずに。
「さて、修行の続きでもするかね。」
まだやるの?と言わんばかりのお婆の顔は見なかったふりをした。