居眠り勇者
授業中に寝てる人、いませんか?もしかしたら勇者になって世界を冒険していたり・・・?
キーン コーン カーン コーン
さて、一時間目のはじまりのチャイムが鳴り響いた。
冒険のはじまりだ!
僕の名前は勇太。都内公立小学校に通う4年生。僕には人には言えないちょっぴりの秘密があるんだ。
実は僕、授業中に居眠りをしている時だけ勇者になって不思議な世界を冒険しているんだ!
それに気がついたのは2ヶ月前の算数の授業の時だった。つまらない算数の授業中、僕はいつも通りウトウトしていたんだ。すると女の人の声がして
「助けて・・・助けて・・・。」
って僕にお願いしてたんだ。でもおわりのチャイムが聞こえたと思ったら終わっちゃってたんだ。
それでだんだんわかってきたんだ、僕は居眠り中の時だけ勇者なんだ。ってね。
他にも分かったことがある。うちでお昼寝しても勇者になれないこと。先生に起こされたらそこで冒険は中断される。ってこともね。
それと僕の直感だとあの声の女の人を助けたらきっと冒険は終わっちゃうんだと思う。あとこのことは誰にも喋っちゃいけないって僕の直感が言ってる。
そんな訳でつまらない算数の授業と楽しい勇者の冒険がはじまりのチャイムで今日もスタートしたってわけさ。
この2ヶ月僕はひたすらレベル上げをしてきた。最初はれべりんぐ?が大事ってにーちゃんがよく言ってたからね。安全まーじん?までひたすらレベルを上げろって教えてもらったんだ。
たぶん女の人の声はお姫様なんだと思う。
遠い遠いところに魔王城があるって武器屋のおじちゃんが教えてくれた。きっとそこで閉じ込められて嫌なことされてるに違いない!
だから今日からは魔王城を攻略するんだ!装備は昨日の理科の時間に一通り揃えておいた。剣と盾と苦い薬草。それと硬いウロコでできたかっこいいアーマーも買ったんだ!
道中のザコは簡単に蹴散らせるくらい僕は強くなっていた。僕が剣を一振りすれば竜巻が起きるし敵の攻撃なんて盾を使わなくたって虫が止まったみたいな攻撃だった。
さぁて、魔王城の前に着いたぞ。ここから先は一筋縄じゃいかないだろうな。気を引き締めて、大きな鉄門に手をかけたその時。
…うた…ゆうた……勇太!!この問題を解いてみなさい。
ゲゲッ。起こされた上に当てられてるじゃんか・・・。僕のエンピツ一振りじゃあこの問題は解けなさそうだ。素直に分からないと白状しよう・・・。
キーン コーン カーン コーン
あっ!・・・終わっちゃった。魔王城はまた明日だな、仕方ないや。
ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー
キーン コーン カーン コーン
待ってたぞこの時を。さぁ、勇者勇太。冒険の世界へ!
ギギギィィ~。錆び付いた鉄門を押し開けた。
待ちわびていたかのように飛びかかってくるアンデッド達。しかしレベル上げしまくった僕に敵う相手じゃあなかった。
あっという間にスケルトンはバキバキに折れて、ゾンビは地べたでモゾモゾするだけになった。
進んでいくうちに広間に辿り着いた。僕はそこで初めて魔王と顔を合わせたのだ。尖った目尻、骨ばったほっぺた、厚いくちびる。算数の先生に心なしか似ているのが気に食わなかった。
魔王が何が言っていたが僕は構わず切りかかる。挨拶なんてそんな礼儀正しくしたところで結局殺し合うんだ、なら剣で僕は挨拶してやるつもりだった。
流石は魔王という名だけあってなかなか手強い。僕が剣を振るってもカスリもしないし、攻撃を盾で受けると左腕がビリビリと痺れた。
だが決着は着いた。魔王の胸に僕の剣が届いた。ズブリという嫌な感触と共に魔王は膝から崩れ落ちた。
やった!勝ったんだ!早く姫を解いてあげなくっちゃ!檻は・・・こっちだな!
檻の方へ走ってゆくとそこには美しい女の人が座り込んで泣いていた。
もう大丈夫だよお姫様!僕が助けにきたんだ!僕に助けを求めたでしょう?
「感謝します。勇者様。檻から早く解いてくださいませ。」
任せてよ!うーん鍵穴は無いみたいだなぁ。あ、パズルみたいな物があるな。なんか書いてある!なになに?
【横幅35.5mの魔王の間に幅3.8mのガーゴイルが6匹並んでいます。残り何匹置けて、何m余るでしょうか】
えっ。解けないよ。こんなの・・・。だって今までずっとあなたを助ける為に頑張ってきたのに・・・。
きっと先生に答えを聞いたらこの冒険は終わっちゃう。けど解けないとお姫様はずっと閉じ込められたままだ。
僕は・・・。僕は・・・!
「先生!この問題がわかりません!!」
キーン コーン カーン コーン……。
Thank you for reading!!!
この作品は少し前からあっためていたもので長編にしようかと思っていましたが、短編で読み切って頂こうと思いました。
私自身数学は好きではありません^^;