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第6話 眠り姫

 Z2に良いようにもてあそばれ、何の収穫もなく戻ったサカキは、管理省の幹部らに冷たく迎えられた。


 報告だけは求められたが、誰もサカキを見るものはいない。それも当たり前の話で、その内容は、すでに本部に送付済みだった。この報告は、自らの失敗を幹部の前で口にする懲罰に他ならない。


 サカキは表面上は神妙にしてみせるだけの分別を備えているが、腹の内では幹部連中を馬鹿にしていた。自分たちがZ2を追い詰められない責任を俺に被せているだけだ。デコイを本物と間違えたのは本部の連中だろうに。Z2を捕らえられるのは俺だけだ。


 管理省を出て宿舎へ向かった。


 地下都市の一等地である。霊柩車ハースを降りたサカキが自室へ向かおうと歩き出したところ、同じ管理官のヘレが通用門に立っていた。制服越しにも、すらりとした体型が伺える。


「あんた、またへまをしたそうね」


 ちらりとヘレを見て通り過ぎようとしたサカキの前に回って言葉を続ける。


「Z2は電子網の魔女なんて呼ばれてアイドル扱い。偶像崇拝もいいところだわ。さっさとあんたを降格して、あたしと代えてくれればいいのに」


「余計なお世話だ。Z1、Z2は肉体がない。Z3以下とはモノが違うんだ。文句はZ3を捕まえてから言うんだな」


「肉体が無いなんて嘘でしょう? そんなのは狂ったZ1だけよ」


「さあな。自分で調べろよ」


 ヘレに取り合わず、先へ進みながら、Z2担当を命じられたその日に見た光景を思い出していた。


 管理省の最下層、異常にセキュリティーがきつく、都市評議員の滞在フロアに程近い場所にそれはあった。入り口では何度も身分証を確認され、生体認証まで受けたが、招聘理由も明かされないままだった。


 厳重な扉を、ひとつ抜け、ふたつ抜け、次々と通り抜けていく。通路左右のドアにも床面にも、場所や目的地を示す表示は全くない。なんらかの研究施設という雰囲気だけは感じられたが、それ以上のことは何も分からなかった。


 やがて案内人が立ち止まり、サカキのみ先へ進むように促した。扉の奥にあったのは巨大な水槽だ。その中に、一人の少女が浮かんでいた。


 生気の感じられない静かな身体。しかし無機物のようでもなく、生命の宿る物がそこにあった。


 年の頃は17歳くらいか。水槽の少女は胎児のように眠っていた。髪は薄い金色で、閉じたまぶたは夢を見ることもないのか、ただ静かに閉じられていた。惜しみなく晒されている肌は白く、日の光を知らないように思える。


 時折、水槽に満たされた特殊な液体が呼吸と鼓動に応じて動くほかには、その部屋の時間は止まっているかのようだった。室内には厳粛という言葉が相応しい雰囲気が充満していた。


 時間にして十秒、あるいはもっと長く、サカキは少女に目を奪われていた。機器を無言で操作している数人の職員の存在にさえ気がつかず、取りとめもなく、かつて世界中にあった神域というものはこういうものだったのではないかと考えていた。


 やがて部屋の責任者に声をかけられ、水槽の少女こそがZ2だと知った。その肉体である。


 サカキはビーとの騙し合いをどこか楽しんでいる自分に気がついていた。ビーの身体を見てからは特に。ビーを捕まえたら俺はどうするだろう。いや、いつも通り裁くだけだ。そう考えながら、自分の思いに嘘を感じ、また迷いと疑問を感じていた。


 Z2を捕らえるだけなら肉体を餌におびき出せばよい。場合によっては無償で肉体を返し、それから捕らえても良い。Z1、Z2の恐ろしさは補足すべき肉体がないことだからだ。

 それなのに、餌にも使わず、取引の材料にも使わず、ただ厳重に保管されていること自体、何か裏があるように感じさせる。


 サカキは思考を中断し、首を振った。


 余計なことは詮索しない。与えられたルールを受け入れる。あの時、そう誓ったじゃないか。


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