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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヒデオの冒険

作者: IDEI

ごめんなさい すみません 謝ります お詫び申し上げます 申し訳ありません 陳謝


とりあえず 先に謝っておきます


ちょっと ストレスが溜まり くだらない話を書いて 脇道に逃げてみたかったんです

 その場所は小高い丘の上、草原と言っても良いぐらいに、なだらかで緑が豊かだった。

 少し離れた前方には穏やかで澄んだ湖が、鏡のように空を映している。

 その先には針葉樹の森。更に先は雪化粧を纏った鋭角的な山脈が連なっている。

 そこに、一人の異世界人が佇んでいる。

 「さて、神様が言っていたチート能力ってのを確認してみるか。

 えっと、ステータス!」

 目の前に空中投影されたような画面が現れる。

 「どれどれ、チートは? この場合スキルって事になるのか? ああ、あった」

 『スキル 目撃した野鳥の種類と数が正確に判る能力 日本野鳥の会垂涎のスキル! 良かったね』

 「わーい。凄いスキルもらっちゃった~。って、なんじゃこりゃ!」

 ヒデオの叫び声で、森の中の鳥たちが驚いて飛び立つ

 「お? オオルリかぁ。あっちはスズメ? いや、セッカかぁ。ああ、便利だねぇ。

 なんて事あるかー! やり直しを要求する!」

 更なる叫びが、絶景ポイントの景観の中にこだました。

 「なんじゃ。一体何が不満なんじゃ?」

 ヒデオの真後ろに、なんの前触れもなく一人の老人と思しき人物が立っていた。その容姿は、完全なる白髪、やや猫背で、真っ白いローブ風の服を着、手には木の瘤がしっかりと残る木の枝を杖にして握っている。

 「ジジイ! また、いきなり現れたな。まぁいい。とにかく、こんなスキルじゃなく、もっと異世界で生き残れるような強いスキルをくれ!」

 ジジイと呼ばれた老人は、しばらくなんの反応も示さなかった。そして、丸々一分ほど経った後に、気が付いたように耳の後ろに手を当てて顔を傾けてきた。

 「ボケたのは判っていたが、ついに耳まで遠くなったか」

 ヒデオは一度息を吐き出し、大きく吸い込むと先ほどの怒鳴り声よりも大きな声を出した。

 「使えるスキル、寄こせー!」

 再び、森から鳥が飛び立つが、老人は全く動じる事が無く、静かに佇んでいた。しかし、しばらくすると、某漫画家とアシスタント集団の様に驚き、ワナワナと脅えだした。

 「とんでもねぇ! あたしゃ、かみさ…」

 セリフは最後まで言えなかった。ヒデオが体重を乗せた右ストレートを老人の顔面向かって繰り出したせいで。

 しかし、その一撃は簡単に避けられてしまった。

 ヒデオは空ぶった右腕を左下方向に向け、上半身を左にねじり込む。そして、その反動を使って今度は左を繰り出した。

 その左も避けられた。が、ヒデオはその勢いを殺さず、右、左っと身体をねじって回していく。

 「なにぃ! デンプシーロールじゃと?」

 「残念。これは、チョムチョムだ!」

 「チョムチョムだと? ならば、血を見せてやろうぞ!」

 その瞬間、二人はピタッと停止する。

 その直ぐ後には姿勢を正した二人が向き合っていた。

 「ふむ、スキルの話しじゃったな」

 「ああ、戦いに役立つスキルか、生産に大きく役立つスキルをくれ」

 「ハーレム体質になるスキルやラッキースケベを誘発するスキルじゃないのか?」

 「当然、それも欲しい」

 「残念。そんなスキル、無いわい」

 「何故聞いた?」

 「悔しがると思ってのぉ。ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ」

 それから数分後。

 荒い息を整えている二人が居た。

 「あそこでパロスペシャルとは、なかなかやりおるわい」

 「ジジイのくせして、究極体に進化なんて無茶しやがって」

 いったい、何があったかは謎である。

 「さてじゃ、いい加減ネタをごり押しするのは止めておこうかの」

 「そうだな。ギャグは繰り返しが基本って言うけど、ネタの繰り返しはマンネリでしかないからな」

 なんの話しをしているのかも謎である。

 「スキルの話しじゃったな。どんなのがいいんじゃ?」

 「ああ、まず、基本的なのはステータス強化系か? 魔力増大と全魔法適正なんていうのも有名だな。生産系の取得や補助、無限収納のアイテムボックス、異世界通販なんてのもあるな」

 「ふむ。それなら全部あるのぉ」

 「なに? それなら、全部くれ!」

 「わかった。目撃した野鳥の種類と数が正確に判る能力と引き替えでよいか?」

 「え? ちょっと待て。目撃した野鳥の種類と数が正確に判る能力と引き替えじゃないと拙いのか?」

 「当然じゃろう。そうじゃないとつり合わぬのでな」

 「そ、そうか。えっと、ちょっと考えさせてくれ」

 それから、たっぷりと十分が経った。

 「し、仕方ない。目撃した野鳥の種類と数が正確に判る能力は諦める。さっき言ったスキルを全部くれ」

 「判った。しかしじゃ。量が多いから、熟練度はレベル1から上げるんじゃぞ。こちらで熟練度を上げた状態で使うと、お主の身体が壊れるからの」

 「俺、能力は最高値で、って言ってなかったか。なら仕方ない」

 そして老人は、手に持った杖を掲げた。

 「ぴぴ○ま、ぴぴ○ま、ぱらり…」

 三度目の激戦が始まった。

 仕切り直し。

 「はぁ、はぁ。また、下らぬ時間をくってしまった。

 さて、とりあえず能力を確かめるか」

 ヒデオはステータスを開き、能力値とスキルを確認していく。

 「まぁ、言ってたとおりだな。今のレベルが1というのが気になるが、これからドンドン上がっていくだろう。

 お? インベントリーを確認してみるか」

 スキルで無限収納を確認した所、いくつかのアイテムがあるのが判った。

 「これは、地図か。あいつにしては手回しいいじゃないか。

 えっと、これは蕨市の市街地図。これは西川口の詳細店舗地図? 今も残るNK流店舗の極秘地図、ってなんだ?」

 ヒデオはしばらくの間、ボーっと辺りを眺めていた。

 「って、異世界で埼玉県の地図が、役に立つかー!」

 たつかー、たつかー、たつかー……、っと、こだまが返った。

 そして、ヒデオの前には城塞都市の高い石造りの壁と、大きく開け放たれた門があった。

 「意外と役に立つもんなんだな」

 埼玉、あなどりがたし。

 ヒデオは門の横にいる衛兵に話し掛けた。

 「こんちは。ここって、入るのに金がかかったりするのか?」

 「町に入るのに金なんかかからんぞ。ただ、犯罪者と魔獣が入らないように警戒しているだけだ」

 「おお、なら、俺も入れて貰おう」

 「待て。入る前に身分証を見せろ」

 「持ってないけど?」

 「ギルドカードでも良いぞ?」

 「それは、これから作りに行こうと思ってた所だ」

 「なら、この棒を両手で握れ」

 ヒデオは、衛兵の出した五十センチほどの棒を両手でバイクのハンドルのように握った。

 しかし、何も起きない。

 「なんだ?」

 「良し。犯罪者じゃないようだな」

 「これって、何?」

 「それは、犯罪者が握った時に、自動でその手を拘束する魔道具だ」

 「なかなか便利な道具だな」

 「ああ、だけど、数が減っているそうだ。ちゃんと、返せよ」

 ヒデオは衛兵に棒を返し、町の中へと入っていった。

 町は石造りの建物と、舗装していない地面剥き出しの道路が、馬車の轍の溝を作っていた。

 「町に入るのに金はかからなかったけど、ギルドカードはどうなんだ? それに、何をするにも金は必要だよな」

 無限収納を何度見ても、金らしきモノは入っていない。実際のポケットの中やステータス画面を出しても、金に関するモノは無かった。

 「これは、フィールドで何らかの獲物を狩って、金に換えるしかないか」

 ヒデオは門まで引き返し、門番の衛兵に金になりそうな獲物の種類を聞いた。

 「ウサギや鳥肉なんかは金になるな。山犬なんかは面倒の割には食う所が少ないらしい。後は猪とか鹿だが、こういう大型のは金にはなっても一人じゃ運べないだろうな」

 そして、獲物が狩れるという森にやって来た。

 「しまった。獲物を狩りに来たのに得物を買って無かった」

 しばらくそのまま待っていた。

 「あれ? 上手い事言ったんだからなんかくれよ」

 ピロリン ヒデオの意識内で電子音が鳴った。そこで無限収納を覗いてみる。

 「………無限収納に座布団が一枚増えている…」

 しかし、再びピロリンという音がした瞬間に、その座布団は消えていた。

 「座布団が消える一瞬に、赤い着物の人物が通り過ぎたような……」

 ヒデオはヤ○ダくんの苦労を思って、そっと瞑目した。

 「さて、得物は適当に見繕うか」

 そう言って、木々の枝を眺めたり、地面に落ちている物を散策し、一つの瘤が付いた木の枝を手に取った。

 「あのジジイの杖に似ているのはともかく、これならバットのように振り回せるから、頭蓋骨ぐらいはかち割れるか」

 そして、剣道のように上段から振り下ろしたり、野球のようにスイングしたり、ゴルフの様にショットしてみる。

 ちなみに、剣道の時は「月の牙は天を衝く」とか言ったり、野球の時は「ジャコビニ流星群は十月十日前後!」とか、ゴルフの時は「ジャー、ジャー、メーン!」などと叫んだりしていた。

 「武器が買えるまでは、これでやり繰りするしかないな」

 そこに、ガサガサと葉が擦れる音が聞こえてくる。

 ヒデオが振り向くと、そこには白い毛のウサギのシルエットが浮かんだ。但し、頭に角が生えている。

 「さっそく、『有り得ない』という意味で有名な、ヒポグリフと双璧を成すツノウサギの登場か。兎に角、角兎よ、掛かってこい!」

 ガサガサガサっと、ワザと大きな音を立てて一体の魔獣が目の前に現れる。

 「って、デカー!」

 ヒデオの目の前には、二本足で立った時に高さ二メートル前後になるウサギが居た。頭には鋭い尖端を持つ、ドリル形状の角が五十センチほどの長さに伸びている。

 そして、ヒデオを敵と認め、背後から剣と盾を取りだして構えた。

 「なんで剣と盾なんだよ! 野生だろ! その立派な角で、体当たりとかで戦うんじゃないのかよ!」

 そのヒデオの言葉を聞き、ウサギは恐ろしいモノを見たように脅えつつ、剣を持つ手を顔と同じ高さに上げると、左右に細かく振った。同時に首も左右に同じ間隔で振る。

 さらに、ヒデオの手に持つ枝を見ると、文字通りの上から目線で、蔑むように見つめ、鼻から息を軽く吹き出すと、肩をすくめて脱力した。

 「この世界に来て、初っぱなの、角兎に上から目線で馬鹿にされただと~……」

 ヒデオの血圧は上がり、こめかみの血管が浮き上がる。

 十五分後。

 「はぁ、はぁ。と、兎に角、これで剣と盾は手に入ったな」

 ボロボロになったヒデオは落ちていた剣と盾を手に取り、巨大な兎を無限収納へと放り込んだ。

 「一度、町に戻って、換金してから装備を調えるか…」

 そう呟いた時に、背後から近づく重い気配に気が付いた。

 ヒデオが振り向くと、そこには、二本足で立つ羊が居た。その高さは二メートル弱。首元の一部が、まるで蝶ネクタイのように毛の色が黒く変わっている。そして、羊はヒデオに向かって両手を突き出した。

 「ニバイ、ニバーイ」

 「いきなりの出落ちかよ!」

 そして、兎の二倍の時間を掛けて、ようやく倒す事が出来た。

 ドロップアイテムは焼き鳥パック。

 「国技館の地下には焼き鳥帝国の焼き鳥工場があるらしいからなぁ……」

 ヒデオは、既に突っ込みを諦めていた。

 しかし、その後も、酔拳を使う真っ白い鹿、「ガウッ」ではなく、「クゥーン」と鳴く白と黒の熊、金色に光り輝くコウモリなどと遭遇。時には戦い、時には逃げ、時にはお祈りを捧げて、なんとか町にまで辿り着いた。

 「うん。この世界がふざけているのはよーく判った」

 荒れる息を整えながら、吐き捨てるように言った。そして、その言葉のあとに、重大な事に気付いて驚愕する。

 「そう言えば、俺はこの異世界で何をすればいいんだ?」

 その言葉が終わらぬうちに、ヒデオの目の前にテーブルとテープレコーダーが現れた。

 「もう、いきなりなのは、しょうがない事なのかなぁ。

 しかし、今時、オープンリールのテープレコーダーとは……」

 仕方なくヒデオはテープの再生スイッチを入れる。

 『おはようフェ○プスくん…』

 「そうか、そう来たか…」

 『君の使命だが、この世界に君臨する魔王を倒し、世界制覇を阻止する事にある』

 「最近は聞かなくなった異世界モノの王道だな」

 『なお、このテープは…』

 そのセリフが聞こえると同時に、ヒデオはその場から全速力で逃げ出した。

 『…自動追尾する』

 最後のセリフと共に、オープンリールのテープレコーダーは爆炎を吐き出し、ミサイルのようにヒデオに向かって飛んで行った。

 しばらくの後、遙か彼方で爆発音が轟き、煙が上がって、涙を流したドクロの様なキノコ雲を立ち上らせた。

 その後、ボロボロになった服を身体に貼り付けた状態で、全身ススまみれになったヒデオが、煙を立ち上らせながら歩いてきた。

 「ちくしょう~。こんな古典的なお約束にかかるなんて…」

 その次の瞬間には、破れた服も汚れも綺麗に直っていた。

 「さて、魔王討伐かぁ。まずはフィールドとダンジョンでレベル上げして、伝説級の武器を手に入れ、頼りになる仲間と共に敵地に向かう、ってのが本筋だよなぁ」

 そのヒデオの目の前に、一軒の屋台があった。

 名を『二八そば 魔王城』。そばを茹でる店主の胸には『魔王』の名の名札が安全ピンで括りつけられていた。

 ヒデオは無言で無限収納から先ほど倒した魔獣を取り出すと、『魔王』に向かって投げつけた。

 当然、店主は屋台と共に押しつぶされる。全長数十キロに及ぶ巨体を持つベヒーモスに押しつぶされたんだから当然ではある。

 しかし店主は、ヒョイっとベヒーモスを持ち上げると、簡単に投げ捨てた。

 「危ないじゃないか。怪我でもしたらどうするんだ?」

 「まぁ、いろいろ突っ込みどころはあるんだが、まずは聞きたい。

 お前! 世界制覇を企む悪の魔王、って事でいいのか?」

 「な、なぜ、それを? むむむ…、貴様、ただ者じゃないな」

 「うるさい! 異世界に来て初めの屋台が、肉の串焼きじゃなく、そばって所で頭に来て居るんだ!」

 「なにぃ! すると貴様は、この私に、きつねうどんを作れといいたいのか?!」

 「俺の今の気分は、カレーだ。トッピングは全部乗せで辛さは2辛で頼む。ライスは四百グラムでな」

 「はい、まいど! 大きさ大、麺硬め少なめ、油少なめ、味薄目!」

 「ラーメンに変わってるじゃねーかー!」

 ヒデオはそう叫んで、今度はリヴァイアサンを投げつけた。

 しかし、魔王はそれも簡単に投げ捨てる。

 「ふふ、なかなかやるな。どうだ? 私の部下にならんか? そうなれば、世界の半分をくれてやろう」

 「ここに来て、この王道か…。さて、なんと答えるべきか…」

 そう考えていた矢先。

 「なにやってんだい! あんた!」

 突然、恰幅のいいご婦人が現れ、魔王に向かって怒鳴りつけている。

 「ごめん、かーちゃん。でも、ほら、俺って魔王だろ? だから…」

 「そんな言い訳なんかいいんだよ! あーあー、商売モノの屋台をこんなにしちまって~…」

 どうやら魔王の奥さんらしい。

 そして、ヒデオに両手を合わせて、本気ですまない、という顔を見せながら、奥さんに首根っこをつかまれたまま引きずられて行った。

 ピロリン

 『魔王を討伐した。ヒデオは経験値を5獲得した。レベルが1上がった。

 火魔法、水魔法が解放された。ステータスが上がった……』

 ヒデオの脳内に、無駄なインフォメーションが流れ続けた。

 「さて、神を殺しに行くか…」

 その後、ヒデオの姿を見た者はいなかった、という話しじゃった。

 めでたし、めでたし。

 「そこに居たかー! 神! 覚悟しろー!」

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