その1・ベタな始まり
よく漫画やらアニメで運命的な出会いとか、普通ならない大恋愛なんてものはある
が普通の現実でそんなことはそうそう起こらない。
無論、自分自身にそんなことが今まであったことがない人間が普通だからである。
「はぁ~~~ぁぁ~ぁ~・・・・・かったる・・・・」
この少年、『愛沢 与太郎』はどこにでもいる普通の高校生。
「・・・・まぁ、ベタな展開だとここで」
そういって一歩前に踏み出すといた場所に何かが飛んできてそれを掴むと同時に身
体を回転させてそのまま元きた方向へ投げ返すと悶絶の声と黄色い声が聞こえた。
「あっ」
気づいた時には時すでに遅く先ほど投げた鞄が直撃した男子生徒が女子生徒を押し
たおして顔面やかんで沸騰しそうという何ともベタな展開になっていた。
「何すんのよ、このバカぁあああああああああああ!?」
「まて、お前がいきなり鞄を離すからで俺は無じ・・・・ごぼあ!?」
「・・・・・・ベタ過ぎてかったる・・・・・」
そんな言葉を吐きつつまた歩き出すがしばらくして目の前に見知った人物がいた。
前に上級生に絡まれていたのを助けた下級生で何やら挙動不審である。
「・・・・・・・・」
徐に落ちていた空缶に近づくと足を振り上げて目の前にいる対処へ蹴り飛ばした。
「痛ッ!?」
「!?」
いきなりの衝撃に驚いて振り返るとその少女もいきなり振り返られたので驚いて尻
餅をついてしまい、慌ててその先輩に手を差し伸べられて起き上がる。
「・・・・・・ベタだな」
そういってその隣を何食わぬ顔で通り過ぎていたのだが視線を感じて振り返る。
「(ありがとう、先輩)」
口が動いていたがそんなことを言っていたようである。
「・・・・・くそかったる・・・・・」
最早、気怠さしか残らない爽やかな通学路をやる気なく欠伸をして歩いて行った。
「にしても君って本当にお人好しの与太郎よねぇ~?」
「やかましい、近くで大声だすな。ド阿呆が」
今は、お昼休み。1人でいたいので大体はこのあまり人が寄り付かない屋上の給水
塔の天辺に上って昼食を取り、寝転がっているのだが毎度、毎度それを邪魔する
人物がいた。
「てかここは俺の場所だ、勝手に上ってくるな」
「いいじゃん、別に君の邪魔してないでしょ?わたしもお昼食べてるだけだもの」
「いる事、事態が邪魔なんだよ」
「先輩に対する礼儀がなってないわね~?そんなんじゃすぐ喧嘩になるわよ~?」
いつの間にかこうやって人の場所に居座ってきた一学年上の先輩の女子生徒。興味
もないので名前すら少年は聞いて居ないが実を隠そう『学園のアイドル』である。
そんな人物と一緒に昼食などベタな恋愛展開なのだが少年の性格と言動というのは
そちらに向かないようで本気で邪魔とは思わないが多少は鬱陶しいと感じている。
「・・・・・・ん?」
ドアが開いて一人の男子が入ってきて辺りを見回して何か探しているようだった。
「・・・・・あいつが言ってたのか・・・・」
「あいつ?」
そういってポケットをまさぐるとそれを下に捨てた。
「んっ?あっ、おーい!あったぞ~!お前のハンカチ」
「あっ、ありがと。どこで落としちゃったんだろって思ったよ(汗。」
「本当にボケボケしてるんだからほら、ちゃんとお礼言う」
「ありがとうね」
「お、おう」
「そんじゃお昼行こうよ、休み時間なくなっちゃうしね。あっ、電話来たみたいだ
から先行ってて電話したらすぐに行くから」
「うん、先行ってるね」
「んじゃ、いくか」
先に2人は行ってしまい、残った女子生徒は徐にこちらを向いて声を上げた。
「ありがとうございまーす!先輩!これ報酬の特製カツサンドです、ほいっと!」
「毎度あり」
「んじゃ、わたしも彼氏に呼ばれたんで、これで~!」
「(モシャ・・・モシャ)・・・・美味いけどかったる・・・・」
「本当にお人好しの与太郎さんだねぇ~?」
「黙れ、ド阿呆が」
そんなこんなでお人好しな少年の昼休みは過ぎていくのだった。
「・・・・今日も・・・・何事もなく普通に終わったな・・・・」
朝同様に気怠い足取りで岐路についていたのだが見なくていい光景が目に入った。
「やめろって言ってんだろッ!」
「お前、彼しかー?ウラッ!!」
「うぐっ!」
「弱いくせに出しゃばんなよ、余計弱くみえる、ぜ!おいッ!」
「ごほっ!」
「い、いやぁーーー!??」
ベタ過ぎる不良共に絡まれたベタなカップルと展開にさらにはそれを見て見ぬふ
りの通行人と野次馬達。
そして彼女と思われる女子生徒と目が合ってしまった少年は後悔しかなかった。
「せ、先輩!助けてください、彼が、彼がーー!?」
「(ガクッ!?)おい、おい、待て。俺を巻き込むな、あのド阿呆が・・・ッ」
「なんだ、なんだ~?今度は優しい先輩のご登場か~?なんだ、それなりに
いいつらだな」
そういって肩に腕を置いて馴れ馴れしく下劣極まりない笑みを浮かべている。
どうやら最早、逃げ場はないらしい。すでに女子生徒の方は安堵を浮かべて彼氏
の方はどうにか立ち上がって構えて与太郎の横に並んだ。
「お、俺も手伝います、先輩」
「はぁ・・・・邪魔だ、寝てろ」
しかし下手に立ち回れると余計面倒だと判断したのか腹に蹴り一発を食らわせて
彼女の方まで吹っ飛ばすと慌てて彼女の方が駆け寄って心配そうにしている。
「先輩、いきなり何をするんですか!?」
「腕っぷしも喧嘩も知らない癖に下手にヒーローぶるな、ド阿呆が。そういう盾
になるベタな展開ってのはちゃんとそういう『作法』ってのを知ってる奴がや
るんだよ」
「あぁ~ん?なんだ、喧嘩に作法なんてあるのかよ?教えてほしいもん―――」
喧嘩の作法その1・発言は必要なし。
「てめぇ、唯で済むと――わぷっ!?め、目が!?てめぇ、卑怯、ぐぼ!?」
喧嘩の作法その2・喧嘩にルール、卑怯などなし。
「こ、この―――ぐぼ!?げば!?ぐべぇ?!」
喧嘩の作法その3・接近戦の基本は頭突き、膝蹴り、肘内。
「・・・・・・・・」
「「「ま、まて――――うぎゃあああああああああ?!?」」」
「(まぁ、この看板でも頭に叩き付けてやれば戦意も折れるだろう)」
喧嘩の作法その4・使えるものは使う。非情・冷酷・残忍。
「今度は鉄パイプの滝でも喰らうか、丁度、そこに並んでるからよぉ~・・」
「「「ひぃいいいい!?覚えてやがれぇぇえええ?!」」」
お決まりなベタ台詞を吐いて逃げていく不良達を一瞥して持っていた看板を元
の位置に戻して捨てた鞄を持ち、埃をはたいてカップルを見て一言。
「気を付けて帰んな、・・・それとこの絆創膏でも傷にはっとけ、じゃぁな」
「「は・・はい」」
そういって唖然とする2人と衆人観衆を置いて何事もなく家路を歩く少年。
余談ではあるがこの騒ぎは見ていた証人が多かったのもあってかお咎めはなか
ったようで少年はその後も何事もなく学園に通っている。