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題名未定・通称『エザグくんのやつ』

 こちらは、小学校時代、友人・Oさんを「萌え」により悶絶させた思い出の一作です。


 というか、当時の私……

 題名つけろよ。

 なぜか、物語のメインキャラクターの通称が、タイトルがわりに使われていました。


 この物語も、文章として書いたのは一部だけで、後は「語り」で済ませたという、『ゴラン高原に吹く風』と同じような発表方法でした。 

 家で妹に「おはなし」を語り聞かせたように、学校で友人たちに自作の物語を語るという、まるで吟遊詩人のような生活を、当時の私は毎日送っていたのです。


 そんな真似をして、恥ずかしくなかったのか!? と疑問に思われそうですが、物語を語ることは、私にとってごく自然な日常の一コマであり、恥ずかしいという感覚はありませんでした。

 むしろ「おもろいやん!」「カッコいい~」「続きはどうなる!?」と、聴衆が反応してくれることが嬉しくて、いつも、張り切って語っておりましたよ…… 


 さて。この物語の主人公であるところの、エザグという男。

 彼は記念すべき、私の「不幸キャラ」第一号でした。


「不幸キャラ」というのは、小学校から中学校時代にかけて、私や周囲の友人たちの中で存在していた「何か事が起こると、なぜだか知らんが、常にその人が一番ひどい目にあってしまう」という気の毒な人のことです。


 フルネームはエルハザーグ・ブレーンバスター。


脳を破壊する者ブレーンバスター』って何!? それプロレスの技だよね!? という疑問が抑えがたく湧き上がりますが、当時の私のネーミングセンスは完全に 終 わ っ て い た ので、そこはスルーするとして――


 エザグは、とある王国の騎士です。

 性格は、真面目で頑固で忠義一徹。

 国王の信頼厚く、騎士団長をつとめるほどの実力の主です。


 そんな彼の不幸の始まりは、彼が任務で王城を離れているあいだにクーデターが勃発し、野心家の宰相によって国が乗っ取られてしまったことでした。

 宰相は、邪魔な王族一同を牢獄の塔に幽閉し、年若い王子を傀儡にして、王国を支配しようと企みます。

 ちなみに、王は病死したということになっていますが、実際は宰相たちに殺されたのでした。


 宰相は、騎士団を掌握するため、団長であるエザグが自分に従うようにと迫るのですが、なにぶん高潔な人柄のエザグは「死んでも嫌。」とにべもない返答。(本当はもっと重々しい喋りですが)

 しかも彼は城に赴く前に、勝手に騎士団を解散させ、騎士たちには、市井にひそみ、再起のときを待つようにと言い残していたのです。


 宰相に逆らったために投獄されたエザグは、連日の責め苦にも不撓不屈の根性で耐え抜き(ほらこのへんが不幸)、先王への忠誠を貫き通します。


 その根性に恐れをなした……もとい、感服した宰相は、今度はソフト路線に切り替えて、彼を城に招き、地位やら女やらでどうにか懐柔しようと試みます。

 今、冷静に考えると、小学生の書く話じゃないよなコレ……

 

 しかし、このことが、事態の変化を招きます。

 なぜなら……城で、エザグは出会ったのです!

 彼の運命の人、ナーガ王子に!


 今にして思えば、この世界観で、王子様にこの名前はどうかと思いますが、まあ、それはいいとして――


 このナーガ王子、ヘラヘラしててなーんも考えてない、丸っきりの「バカ殿」で、そこを宰相に見込まれて傀儡にされたのですが、しかし! 

 なんとそれは演技で、実のところはたいへんに聡明な少年なのです。

 ちなみに十歳!(十歳のバカ殿って、イヤだな……)


 とにかく、王子の本質を見抜いたエザグは、宰相に対し

「まぁ条件によっては話に応じてもいいかなーっ」

 的な態度で時間をかせぎ、そのあいだにこっそりナーガ王子と連絡を取り合って、なんとか宰相を抹殺できないか、虎視眈々と隙を狙います。


 さて。

 その頃、エザグの配下である「元・騎士団」の人々も、ボーッとしていたわけではありません。

 どうにかして、団長や王族たちを救出できないものか!? とみんなで頭をひねった末に、


「よし。いっちょ、城を燃やそう! そして塔が手薄になった隙に皆を助け出すのだ!」


 という計画をまとめます。

 それはちょっと、いくら何でも乱暴過ぎるんじゃないかなー!? という気がヒシヒシとしますが、まあ、そこはそれ。

 というか、この計画を立てたハノンという男、「騎士団随一の切れ者」だというから泣けてきます。

「切れ者」って……もしかして、キレてる奴のことなのか?


 ともあれ、様々な紆余曲折を経つつ、計画実行の日がやってきます。

 騎士たちは、派手に一斉蜂起し、城に火をかけます。

 やや時間をずらして、別働隊が牢獄の塔を急襲!

 いくらか味方に被害も出しつつ、何とか王族たちを救い出すことができました。


 大成功に終わるかに見えた、今回の作戦!

 しかし、騎士たちがまったく想定していなかった「実は団長は城のほうにいる」という事実が発覚し、一同は思わず真っ白になるのでした。


 さて、その頃、エザグとナーガ王子はどうしていたのか?

 城に軟禁状態だった彼らは、騎士たちの動きをつかむことができませんでした。

 しかし計画の当日、城の騒がしさに気付いたエザグは、いち早く見張りを張り倒し――常識人だが、いざとなると行動に迷いがない男です――、バルコニーからカーテンをつたって脱出!

 そして、やっぱり見張りをなぎ倒し、ナーガ王子の身柄を確保!

 王子自身も、エザグを援護して敵を後ろから刺す(……)など大活躍!


 ちなみにこの時点で、さりげなく宰相が煙に巻かれて死んでいたりするのですが、誰も気付いておりませんでした。

 考えようによっては、こいつもなかなか不幸な奴です。


 それはさておき、調子よく脱出まで漕ぎつけるかと思われたエザグ&王子ですが、炎に脱出路を塞がれ、しかも宰相の親衛隊長に追いつかれて大ピンチ。


「殿下は決して傷つけさせん!」


 と、ボロボロになりつつも頑張る(このへんが不幸)エザグですが、奮戦空しく、二人はバルコニーに追い詰められます。

 遥か眼下は濠。


 その頃、濠の縁には騎士団の仲間たちが駆けつけており、


「ああっ、団長があそこに!」


「おお、殿下も御一緒だ!」


 などと騒いでいます。


 その声援に力を得てか、エザグは文字通り火事場の馬鹿力で敵を絞め殺し、バルコニーから、二人そろって決死のダイブを敢行!

 見事、二人そろって生還するのでした。


 その後、ナーガ王子は新王として即位。

 エザグ率いる騎士団が、若き王の右腕として活躍してゆくこととなるのでした。

 めでたしめでたし!



 ――という話だったのですが、当時の聴衆たち(仲良し六人組の、私の他の五人)の中でも、特にOさんという子が騎士団長エザグをものすごく気に入ってくれ、彼の奮戦に「素敵やー!」と毎回狂喜してくれたことが、嬉しい思い出として印象に残っています。


 私自身、「騎士の忠誠」というものに――当時『アーサー王物語』などを読み過ぎたためか――ものすごく「萌える」たちだったので、この物語はまさしく当時の「自分の好み」を具現化したものだったと言えるでしょう。

 それが友人の好みとぴったり一致したのは、幸いでした!


 自分がいいと思って作ったものを、自分以外の誰かが熱烈に気に入ってくれるという、創作者として冥利に尽きる経験をしたのは、身内をのぞけば、これが最初でした。

 そのときの鮮やかな喜びは、今でもはっきりと思い出せます。


 Oさん、あなたの感想は、当時の私にとって最強のエネルギー源でした。

 私の物語を気に入ってくれて、本当にありがとう!



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