『銀狼の恋の物語』 ①
ひとつ前の記事にて、小学校時代の『戦物語』の む っ ち ゃ く ち ゃ な構想をお届けいたしましたが、今度は、その『戦物語』からのスピンオフ作品のご紹介です。
いやおまえ、本編があれでスピンオフって、正気かよ??? という感じですが、スピンオフのほうが圧倒的にまともな話です。
なぜなら、スピンオフのほうは、中学生になってから考えたストーリーだから!
比べて読むと、小→中にかけての私の頭脳の成長ぶりがよく分かります。
自分で読み直しても、
「ああ……こんなに大きくなって……おかーさんは嬉しいわっ!!」
というくらいの成長ぶりですよ。
まあ、昔の話がちょっとあまりにも お か し す ぎ た からな!!
タイトルは『銀狼の恋の物語』。
人質をとられ、敵国ジェノヴァに捕らわれたスフォルツァの将軍が、ある少女と淡い恋に落ちる……というストーリーです。
正統派ロマンスの気配!
間違っても、大砲を引っ張ってくる女王陛下や、マントで空を飛ぶ騎士は登場しません。
しかし……主人公である将軍の名前は「チェーザレ」。
その名の出所は、かの名高きボルジア家のチェーザレ殿!
昔の私よ……本当に、名前は、ちゃんと自分でつけろ……
そのへんは大いに気になりますが、まあ見なかったことにするとして、このストーリーは、ある程度のところまで、きちんとしたデータで文章が残っています。
以下に、本文を紹介して参りましょう……
※『ゴラン高原に吹く風』に関しては「他者の創作物」から名称をとっていたので本文の展示はアウトと判断しましたが、こちらは「歴史上の人物」「実在の地名」から名称をとっているので、セーフと判断して展示します!
※念のため申し上げますと、歴史上の出来事とは、何のつながりもありません。
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『銀狼の恋の物語』
昔々、スフォルツァとジェノヴァという、ふたつの都市国家がありました。
スフォルツァとジェノヴァは長年の敵対関係にあり、国境付近ではたびたび戦端が開かれてきました。
スフォルツァの現国王は女性で、レーテ女王。
軍事の才に長け、『スフォルツァの毒蛇』と呼ばれる冷徹な切れ者の女性です。
ジェノヴァの現国王は、兄たちを謀殺し至高の座をもぎ取ったジョルジーノ。
若くして『老狐』の異名を奉られる策士です。
さて。スフォルツァに、チェーザレという名の、ひとりの少年がおりました。
スフォルツァの人々は、金髪碧眼――しかし、この少年は異国の生まれで、銀の髪に、金色の目をしておりました。
共に出稼ぎに来ていた両親を流行り病で失った彼は、街の宿屋の馬番として働き、人々の奇異の視線を避けるためにマントとフードをかぶり、ほとんど誰とも交わることなく暮らしておりました。
*
やがて、チェーザレは逞しい少年に成長いたしました。
しかし異貌のゆえに友人はできず、日々の楽しみはといえば、宿屋の裏で、剣術の練習のまねごとをすることだけ。
そう、チェーザレは、この年頃の男子ならば誰でもそうであるように、騎士にあこがれていたのです。
たまに暇をもらうと、チェーザレは街のそばの誰も来ない丘の上にのぼり、そこから城を眺めました。
そして、そこに暮らす人々のきらびやかな暮らしや、騎士たちの武勇に思いを馳せるのでした。
そんなある日のこと、チェーザレがいつものように丘にいると、見たことのない子供たちがぞろぞろとやってきて彼を取り囲みました。
彼らは、城詰めの使用人の子どもたちで、かわった姿をした子供がいるという噂を聞きつけ、チェーザレの姿を一目見ようとしてやってきたのでした。
「俺は、見世物じゃない」
相手にせずにその場を立ち去ろうとするチェーザレに、子供たちは、
「生意気だ」
「やっちまえ!」
と一斉にかかってきます。
しかし、自己流とはいえ日々鍛えているチェーザレには、誰も歯がたたず、たちまち全員が地面に転がされてしまいます。
チェーザレは黙ってその場を去ろうとしますが、
「待て!」
そんな声とともに、ひとりの少年が猛然と丘を駆け上ってきます――
*
丘を駆け上ってきたのは、いかにも貴族の子弟らしい服を着た、気の強そうな少年でした。
チェーザレよりも少し、年下でしょうか。
少年は、倒れて泣いている子供たちを見ると、
「おまえの仕業か!? よくも!」
とチェーザレに飛び掛かってきます。
気のない様子で応戦するチェーザレですが、この少年、小柄なくせに素早く粘りがあり、顔面にまともに拳をもらったチェーザレは、カッとなって相手を地面に叩き付けます。
――やりすぎたか、と思ったチェーザレですが、
「やったなぁっ!」
跳ね起きた少年がチェーザレにつかみかかって、二人はごろごろと斜面を転がり、共に木に激突して「ぐえ!」……ようやく止まります。
「あ」
少年が目を見開きます。
激しいつかみ合いで、被っていたフードがずれ、チェーザレの銀の髪と金の目があらわになっていました。
はっとして隠そうとするチェーザレに、
「うわぁ、君、なんて目をしてるんだ!」
少年は、青い目を輝かせて言いました。
「綺麗だなぁ! まるで、磨きぬいた金みたいだ。それに、その髪の色! まるで、銀の狼みたいだ。人間の髪や目に、こんな素晴らしい色があるなんて……」
チェーザレは、驚いて少年を見つめます。
その時、丘の下から、ぜいぜいと息を切らしながら、何人もの男たちが駆けつけてきました。
彼らはこう叫びました。
「姫さま!」
と。
*
駆けつけてきた男たちは、一斉に少年の前に膝をつきます。
ことのなりゆきを見守っていた子供たちも、慌てて膝をつきました。
男たちのひとりが、あきれたように言います。
「今日も城を抜け出して、どこへ行かれたかと思ったら……またケンカでございますか、姫さま!?」
「いやぁ、これはちょっと、そこで滑って転んだのだ」
「嘘をおっしゃい!」
ははは、と悪びれず頭をかく少年(?)に、
「お前……」
チェーザレは驚いて呟きます。
「女、か?」
「控えろ」
男たちのひとりが、重々しく告げます。
「こちらの姫君はルカシュ・デ・スフォルツァ、女王レーテ陛下の御息女にして、スフォルツァの世継ぎ姫にあらせられるぞ」
ルカシュ姫といえば、長女であるカテリーナ姫が足が不自由であったために、次女でありながら世継ぎ姫となり、女王に似て勇猛果敢、ちまたでも「獅子姫」とあだ名される有名な娘でした。
チェーザレは、驚きのあまり物もいえません。
するとルカシュが言いました。
「皆、彼は凄いのだぞ。この私と戦って、ひけを取らなかった。彼さえよければ、城に迎えたい!」
はっとして彼女を見たチェーザレに、ルカシュは真剣な顔で、
「君と組み合ったときに、君の手にあるタコに気付いたんだ。そのタコは、毎日、剣術の練習をしなくてはできないものだ。君、騎士になりたいんだろう?」
「ああ」
突然のことにぼうっとしながら、チェーザレは呟きました。
「俺は、ずっと、騎士になりたかった。でも、俺はこの国の生まれじゃない。それに、こんな髪じゃ……」
「騎士の値打ちは生まれや姿で決まるものではないと、母上は常々仰っているぞ」
ルカシュは言い、チェーザレの手を取ります。
「君ならばきっと、素晴らしい騎士になれる」
こうして、チェーザレは運命に導かれ、城に上がることとなったのです――
*****
うん、正統派! 大砲やマントの騒動が嘘のようです。
主人公チェーザレ殿は、当時、作品を読んでくれる友人のあいだで人気が高かったので、彼を主役にしたスピンオフを書こうと思い立ったのですね。
しかし彼は『エザグくんのやつ』で紹介した「不幸キャラ」という位置付けだったので、これから様々な苦難に見舞われます……
がんばれチェーザレ殿。
そして、友人たちのあいだでさらに人気――もとい、悪名高かったのが、『戦物語』でもスフォルツァの最大の敵として立ちはだかるジェノヴァの王、ジョルジーノ陛下でした。(当時の私は「王」と「領主」を混同していたので、称号がナゾな感じですが、そこはスルーしてやって下さい……)
彼は『銀狼の恋の物語』にも大いに登場するのですが、今のキュノスーラの作品でいうと『スパルタの獅子たち』のクレオンさんにも通じるような「人を人とも思わず」「自分の野望を実現するためには手段を選ばず」「相手の誇りを平然と踏みにじる」タイプの男で、そのやり口は毎回、読者である友人たちからの大ブーイングを受けていました。
友人Dさんが怒りを込めて「ジョォルッジイイィィイーノ!」と巻き舌で叫んでいたのが、今でも印象に残っています……
私はけっこう彼が好きで、活躍させていたのですが、その結果、ついたあだ名が「邪悪好きのキュノスーラ」。
何者だよ。
「不幸キャラ」と並んで「邪悪」というのが、当時の私および友人たちの中で流行っていた用語でした。
あまりにもナゾな青春時代ですが、すごく楽しかったので、結果オーライということにしておきましょう。
ともあれ『銀狼の恋の物語』は、まだまだ続くので、以下、連載形式でお届けいたします……




