七羽院輝春②
『邪魔者』
登場人物
七羽院輝春.十波修.京天智緑葉.小野原英
.紅神愛繭.加暮真魅.
●ノーマルラブ
本章には上記の要素が含まれますので苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
編入生を待ちぶせ捕獲するはずだった今日。
英の乱入によって失敗に終わった。
英と緑葉の喧嘩に割って入っている間に修はいなくなってるし、編入生の捕獲は失敗するし朝から災難続き。
ま、元々こちらから待ち伏せなくとも会えるのは確実だった。
なぜなら編入生はA組に加わるから。
俺も修も緑葉も、そして英もA組だからな。
朝のホームルーム。
担任が連絡事項を告げた後、そいつはついに姿を現した。
髪は金色、ポニーテールを腰辺りまで垂らした長髪。
容姿は悪くない。
そして話の通り見合学園独特の男子制服である赤い学ランを身にまとっている。
そいつが教室に入った瞬間、クラスがどよめいた。
案の定なみんなの反応に、緑葉は面白くなさそうな顔をしている。
緑葉の予定では、編入生を捕獲して正しく女子制服を着させてからクラスに投じるはずだったからな。
女好きの英はすぐに反応して、そいつをじろじろと観察していた。
「紅神愛繭です」
教室に入ると、女にしては少し低めの声で短く自己紹介をした。
紅神愛繭と名乗るそいつは編入初日だからか、元々なのか、無表情のまま新しい席についた。
よりによって修の隣り。
正直、面白くない。
昼休みになるとクラス中は愚か、他のクラスからも人が押し寄せてきた。
もちろん編入生を見に。
「前はどこの学校にいたの?」
「紅神さんの髪綺麗ね」
「お家はどこ?」
「背高いけどモデルとかやってるの?」
「どうして男子の制服を着ているの?」
「彼氏はいるの?」
珍しい編入生に質問の嵐。
だが紅神は一切口を開かない。
「貴女、この学園に結婚相手を探す為にわざわざ編入して来たの?そうだとしたらちゃんと女子制服を身に付けることね」
人並みを掻き分け紅神に歩み寄りながら皮肉を言うのはもちろん緑葉。
偉そうに腕を組みながら皮肉を言う緑葉に頭にきたのか、突然紅神が立ち上がった。
「うるさいんだけど。あんた何?」
「なっ……」
無表情で罵る紅神に黙る事を知らない緑葉が珍しく怯んだ。
そして紅神の一言でクラス中のギャラリーが一瞬で黙りそして固まった。
編入生、制服だけかと思ったら口調まで男っぽいんだな。
「わ……私は生徒会本部役員、京天寺緑葉!規則は守る為にあるのよ?貴女がどうしても女子制服を着ないのであれば何らかの処罰を……」
「鬱陶しいから私に構わないでくれ」
我に帰った緑葉はいつものようにガミガミ言い出したが、すぐに紅神に遮られた。
そして紅神はすっと席を立つと静かに髪を靡かせながら教室から出ていった。
紅神がいなくなった途端、黙りこくっていた生徒達は個々に騒ぎ始めた。
生徒会本部役員である緑葉を罵倒したんだ。
平穏な学園生活はまず送れないだろう。
ふと、修が教室から出て行くのが見えた。
まさか、紅神を追いに行ったのか?
俺は修にバレないように密かに後をつけた。
今朝、修に「編入生はどんな女の子だった?」と尋ねた時。
修は『美しかった』と答えた。
僻みや嫉妬ではなく、正直そうは思えなかった。
確かに綺麗な顔はしていたが、無愛想で態度も悪いし、修があんな風に言うなんて信じられない。
無意識に眉間皺を寄せながら修の後を追って行くと、学園の中庭に出た。
紅神が立ち止まると、修はゆっくり歩み寄って何か話しかけている。
俺は遠くで二人を見ていたから会話の内容はわからないが、しばらくの間話し込んでいた。
話しが終わったのか、紅神は踵を返して中庭から出て行ってしまった。
中庭の真ん中に取り残された修は、一人物哀しい表情をして空を見上げている。
あんなに切なげな修の表情を初めて見た。
自分の胸に手を当てながら、空を見上げる修はとても美しい。
けれど、あの美しさが紅神によるものだとしたら……。
俺はいつの間にか走り出して、紅神の行方を探していた。
紅神が中庭から消えてそう時間はたっていないからまだ近くにいるはずだ。
中庭に近い2年生の校舎の外れの廊下。
長い金髪の女は背を向け立っていた。
「紅神……」
少しずつ歩み寄り声をかけよとした瞬間、紅神の目の前に誰かいることに気がついた。
俺は咄嗟に壁に身を寄せ、隠れながら様子を伺った。
「どうだった?」
「いや、まだわからない」
「そっか…。でもさ、学園に来たばっかりだし焦ることないよ」
「あぁ、ありがとう」
紅神と会話しているのは声からして男子だ。
それに会話から親密な仲だと伺える。
教室では誰とも口を聞きたくないと言うような態度だったのに、この相手とはどうも様子が違う。
編入初日なのに、なぜそんな相手がいるんだ?
俺はこっそりその二人を覗き見た。
紅神の向かいにいる男子。
俺はそいつを知っていた。
高等部2年A組、首席。
同時に生徒会執行部役員でもある加暮真魅だ。
学年も性別も違う彼らがなぜ……。
「必ず見つける」
「うん、大丈夫。きっと見つかるよ」
「そろそろ昼休みが終わる……」
「それじゃ、僕教室戻るよ。またね!」
そう言うなり加暮は廊下を走り去って行った。
それにしても、今の会話は……。
紅神は探し物をしているようだが、一体何を?
そしてなぜ加暮と会話を?
壁に凭れながら考えこんでいると、誰かに肩を掴まれた。
「盗み聞きなんて、悪趣味だぞ」
声のする方へ顔を上げると、そこにはいつの間に来たのか紅神が立っていた。
俺がここにいたことを知っていたようで、面白くなさそうな表情で俺を睨んでいる。
「さぁ、なんのことかな?俺は偶然ここにいただけだよ」
「さっき十波とかいう奴が追ってきた時も話を聞いていたはずだ」
知らない振りをしてみたけど彼女には通用しなかった。
修との会話しながら俺の存在に気づいていたのか……。
その強気な態度に思わずフッと笑ってしまった。
「紅神愛繭、この学園に来た目的はなんだ?」
「何もない」
「そんなわけないだろう?進学の為に編入してくるには時期が外れすぎているし、君の行動はどうも怪しい」
俺の推測話にウンザリと言いたそうな表情をしながら溜め息をつく紅神。
肩に置いた手を下げ、両手の拳を握り締めながら再び睨んできた。
「あんた、誰?」
「生徒会本部役員書記、七羽院輝春。君とはクラスメートだ」
「また生徒会か……。」
また、と言ったのは修、緑葉、俺と立て続けに会っていたからだろう。
「探し物をしているみたいだけど、手を貸そうか?」
「余計な世話だ」
軽く誘うように言ってみたがやはり拒むな。
協力すると言えば何かボロを出すきっかけを作れると思ったんだけど。
そして紅神は俺の胸倉を掴んで睨み上げてきた。
女のくせに凶暴な奴だ。
俺は黙って紅神に視線を返す。
「もう私の後をついてくるな。あんたら生徒会に何を思われようと私はもう学園の生徒だ。好きにやらせてもらう」
視線で殺されそうな凄みだった。
そのくせ一人称は『私』。
まったく、不思議な女だ。
掴んでいた俺の服を離すと、紅神は背を向けて颯爽と俺の前から姿を消した。
修を脅かす可能性のある、謎の編入生の一部を垣間見た気がした。
怪しい行動。
怪しい接点。
あいつが何をしにこの学園にやってきたのか。
真相を掴んで、この学園から追い出してやりたい。
修に近付けさせない為に、紅神愛繭を必ず陥れてやる。
■next
輝春が修を思うあまりどんどん悪どくなっている気がする…。
でも彼はそれでいいのです。
修を思いすぎて溺れていくのが輝春なんです。
輝春と愛繭と修、いったいどうなるんでしょうねー?