十波修①
『生徒会本部役員』
登場人物
十波修.七羽院輝春.京天智緑葉.鷹沢隆華
●サブストーリー
●恋愛話ナシ
本章には上記の要素が含まれますので苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
■高等科三年A組
■生徒会会長
■十波修
「いったいどういうことなの!?」
早朝の生徒会室に机をバンッと叩く音とヒステリックな女のわめき声がこだました。
「俺も昨晩知ったんだ。詳しい事情はまだわからない」
俺専用のデスクに手をついて鬼のようにこちらを睨んでいるのは、生徒会本部役員唯一の女子生徒であり経理担当の京天智緑葉。
整った美しい見た目とは裏腹にワガママでヒステリックな性格を持つ、大手企業のご令嬢。
今朝の生徒会室はいつもより荒れていた。
朝から緑葉がこんなふうに騒ぐのは初めてかもしれない。
「修、生徒達にはどう説明するんだ?」
「会長と呼べと言っているだろ。何度も言わせるな」
接客用の革張りのソファーに座ったまま、書記担当の七羽院輝春が質問を投げ掛けてきた。
輝春とは幼馴染みだが、俺は決して公私混合を許さない。
生徒会の仕事をしている時は会長と呼べと何度注意をしても輝春は辞めない。
輝春は聞き慣れたセリフに半ば飽きれた表情で「はいはい」と呟くとこちらに向き直った。
「今回の編入生についてですが、編入を認めるのは如何なものかと。会長のお考えはいかがですか?」
輝春は態度を改めて真面目に言い直した。
そう、朝から生徒会が荒れていた理由は「編入生」にあった。
俺は先週末、書記の輝春からある書類を受け取った。
編入生が使用する男子制服と3年の教材の発注書だ。
当然、高等部3学年に男子制服が一名加わるものだと思っていた。
しかし後日、編入生の詳細がファイリングされている生徒学簿を受け取って驚いた。
生徒氏名欄には『紅神愛繭』、
性別欄には『女』と書かれていた。
発注書はざっと目を通しただけだったが、『男子制服』と『高等部3学年教材』と書かれいたのは間違いない。
学簿に間違いがあるわけはないし、輝春の確認ミスだ。
俺は生徒会長として、謝罪と発注訂正をしに学園長のもとへ直接出向いた。
それだけ済めば特に大袈裟な問題になることもなかったのだが……。
学園長室に出向いた俺は更に驚かされる羽目になった。
こちらのミスで男子制服を発注してしまった。
申し訳ない。
俺はその旨を深々と頭を下げて学園長に申し出た。
すると学園長は苦笑を浮かべながら俺の頭を上げさせ口を開いた。
「十波君、私の説明が行き届いていなかったようで申し訳ない。その制服発注は間違っていないよ」
俺は数回瞬きをして黙ってしまったが、すぐに弁解する。
「いや、ですから、編入生は女子生徒だったにも関わらず男子の制服を……」
「男子の制服で間違いないんだよ」
必死にミスを弁解しようとする俺の言葉を遮って、学園長はまた苦笑した。
編入生は女子なのに男子制服で間違いないとはどういうことなのか。
俺は生徒会長としてではなく一人の人間としてその疑惑を学園長に追及した。
「編入生からどうしても男子制服を着用したいという要望があって、断り切れなかったんだよ」
男子制服着用の理由は、なぜ断り切れなかった、いったいどんな相手なのか。
一個人として学園長を問い詰めたが、笑って誤魔化されてしまった。
学園長は大概のことを俺達生徒会本部に任せているから、高等部の内容に関してはほとんど明らかにするのに、
こんなふうに誤魔化されるなんて初めてのことだった。
だが、言えない理由は簡単に想像がつく。
編入してくる生徒の親が、見合学園でも敵わない相当な権力者であるか、見合学園総取締役や学園長との事情が絡んでいて口止めされているかのどちらかだろう。
俺と対話している学園長は高等部の学園長であって、見合学園全体の鍵を握る人物ではない。
見合学園全体や幼等部から大学部、各学園長をまとめる『見合学園総取締役』という存在がある。
取締役の存在は話の上だけであって実際に会ったり見たりしたことはないが、学園長でも全く逆らえないのが実情らしい。
回答を誤魔化された後、学園長には「十波君、よろしく頼む」とだけ言われてしまった。
俺は編入生について起こった全ての不祥事を、朝早く生徒会本部のメンバーを集めて報告した。
そして今、生徒会室内が荒れている訳だ。
「学園長が認めているんだ。異論はないだろう」
輝春の質問に対してさらりと返答してやった。
俺の一言によりメンバーは一時黙り込んだ。
しかし、緑葉は同じ女子生徒という立場にして面白くないようで、俺のデスクに手を突いたまま難しい表情をする。
「学園長様に歯向かうなんてことしないわ。けれど、それでは生徒側が納得するはずないじゃない。女子なのに男子制服を着用よるなんて、学園風紀を乱す原因になる恐れもあるわ」
緑葉はすらすらと問題点を取り上げては俺に訴えるように告げて来る。
緑葉のいうことにも一理あるし、文句を言いたくなる気持ちもわからなくない。
生徒会長である以上、高等部内の運営についての決定権はあるが、編入を拒否できる権限はない。
俺にできることは編入してきたその生徒に相応しい対処方を考え実行することのみだ。
「編入生に直接話を聞く。相手の出方次第で対処について考える」
俺がそう言うと緑葉は納得したのか、やっと俺のデスクから手を離した。
その生徒にも何か理由があるのだろう。
性同一性障害という可能性もある。
「早朝の会議はこれで終了。俺、教室に行きます」
結論が出た途端にもう一人の生徒会本部役員が口を開いた。
一年生にして生徒会副会長に抜擢された『鷹沢隆華』だ。
鷹沢は生徒会の活動に消極的……と言うよりも興味がないようで、
正直学園側がなぜ鷹沢を生徒会本部役員、しかも副会長に抜擢したのかわからない。
生徒会本部役員は代々、財力のある家柄の成績優秀な御曹司や御令嬢が選ばれる。
事実、十波家、七羽院家、京天智家は世界にもその名を通用させることのできる企業に携わっている。
成績も常に俺が首席。
輝春と緑葉が度々2位争い、といった感じだ。
しかし鷹沢の場合、失礼ながら家柄がいいと言う訳ではなさそうだ。
以前学簿を拝見したが、鷹沢の家や親のことについては記されていなかった。
それに彼は幼等部から在学せず、高等部から編入してきた。
成績は優秀みたいだが、編入してきたばかりの一般生徒が生徒会本部に入るのは前代未聞だ。
鷹沢が本部役員入りした時にも学園長に尋ねてみたがそれも誤魔化されてしまった記憶がある。
鷹沢は自分の鞄を手にするとすぐに生徒会から出ていってしまった。
「感じ悪い子!そんなことより、編入生が来るのは明日。紅神愛繭さんとやらを発見次第捕獲!生徒会室に連行。以上!」
緑葉は寡黙で愛想のない鷹沢を毛嫌いしているため罵倒したが、すぐに俺に向かってそう言い捨てた。
しかもそれは生徒会長の俺が言うセリフなんだが……。
編入生捕獲に熱の入った緑葉も鞄を手にして生徒会室を後にした。
生徒会室に残されたのが俺と輝春だけだと気付くと、肩の力を抜いて小さく息を吐いた。
デスクの上においてある編入生の学簿を遠目で眺めながらつい独り言を呟いてしまった。
「男子制服を着た女子生徒か………」
俺の独り言を輝春は聞き逃す訳もなく、ぴくりと反応すると普段のクールな態度で俺に視線を向ける。
「編入生が気になるのか?3年なんて中途半端な時期に編入してくるくらいだ、何か裏があるはずだ」
輝春が不敵な笑みを零してそう言うと、朝の予鈴が壁付けのスピーカーから鳴り響いた。
編入生の学簿を保管棚にしまい鍵をかけて、俺と輝春も生徒会室を後にした。
輝春やメンバーの前では言うつもりもなかったが、俺は編入生のことが気になって仕方なかった。
どんな事情を抱えて、どんな女子生徒がやってくるのか。
そして何故男子制服を選んだのか。
鷹沢同様、学簿に家柄や過去の履歴は詳しく記載されていなかった。
謎に包まれた『紅神愛繭』という名の存在が、少しずつ俺を支配しているのは確かだった。
■next
今作から一気に登場人物が増えました。
生徒会メンバー揃いました。
修は冷静な割に何か抜けているような気がする(笑
鷹沢隆華出番めちゃくちゃ少なかったけど、後々出て来るかと。
割りと大事な役割持ってますので。