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敵の視点・ザードとシュナイダー

ブラッククロスの討伐軍は余裕であった。

特に最高指揮官である『トルエル・ザード』将軍は既に勝ったつもりでいた。

そもそも、本国の総合特別作戦課発案のこの作戦は、敵側のお粗末な情報管理でより確実なものになっていると報告を受けている。しかも、勝利をより確固たるものにするために国王から総勢1000人の前線配備騎士を借りている。それに加え、ザード直属の騎士1200人を同時に動かすことで万全を期した。負ける可能性は限りなくゼロであった。


「将軍、ご機嫌ですな。」

「当然であろう。この戦いは剣を交える前に既に勝利が確定している。そもそも、数が違い過ぎるのだ。」

「なるほど。『勝利か敗北か』ではなく、『勝利かより圧倒的な勝利か』ですか。」


将軍自身だけでなく、将軍の取り巻きたちにも同様の認識が広まっているようであった。

彼らにとってこの戦いは『反乱民討伐』ということ以外に別の意味も持っている。

ザード将軍は、ブラッククロス本国内での『後継者』付き軍事顧問官のイスを手に入れるためにも勝利という事実を欲していたのだ。


『後継者』は、ブラッククロスの現国王『モルダン一世』が国を乗っ取った際に国内を蹂躙するために定めた騎士四家の事である。モルダンはいまだに、王位継承権を持つ男子を得る事ができていない。しかも、彼は近年、病床に伏せている。

結果、現在のブラッククロスは国内統治を『後継者』達が分割している状態であり、派閥争いの様相を呈しているのである。もっとも、国外侵略・大陸支配のスローガンで辛うじて纏まっているので他国への侵攻・防衛には問題を与えていないが。

とは言え、それぞれの『後継者』にとって将軍や兵士はいくら居ても足りないのは自明の理である。特に第一継承者である『ロマレス家』当主に気に入られれば、次期政権の出世頭になることも夢ではない。


(さっさとこのくだらない戦いを終わらせて、国での地位固めを始めねば)


そう勝利後の事を夢想しだしたザード将軍に別の騎士が声をかけてきた。


「ザード将軍。兵士たちの前であからさまな言動は控えるべきです。」


ザード旗下の騎士の中では比較的若いために、普段から敬遠されている男であった。

名前は『エール・シュナイダー』、次期将軍候補の一人でもある将軍補佐官で通称『将軍補』とも呼ばれる騎士の一人である。だが、それ故にザード旗下の他の将軍補たちからも受けが悪かった。それは、ザード自身も同様である。


「勝利が約束されている戦いに士気もなにも無かろう。物量が違うのだ。」

「確かにその通りですが、兵士全体の士気が下がればいらぬ犠牲を生む事になりかねません。」

「シュナイダー!この部隊の最高指揮官は誰だ?!」

「・・ザード将軍閣下であります。」

「その私が、問題なしと言っているのだ。余計な事を言う前に、部隊内の物資や戦果の確認を誤らぬように努めたまえ。」

「しかし、私は補佐として軍行動に関連する作戦への進言を行う義務があります。」

「それが余計なのだよ。私は、将軍になってから八年間、各地で実戦を積んできたのだ。お前のような若造が歴戦の猛者である私に進言など、無用なのだよ。むしろ、見て学ぶとよい。お前に戦場がなんたるかを今日しっかり教えてやる。」

「・・判りました。それではご命令通り、閣下の戦いを学ばせていただきます。」


長い押し問答がようやく終わったところに、先行させていた部下から報告が来た。

その報告内容は、当初はあり得ないと思える内容であった。


≪予定地点に敵影無し。同時に、前線より緊急連絡。

 我、敵に前後を挟撃され、至急救援を請う。≫


という内容であったからだ。

当初は、敵の欺瞞情報かとも思われたが、念のために放った偵察からの報告で予定地点に敵がいないことが確認された。それと前後して、今度は前線からの伝令が直接ザードたちのもとに馬を走らせてきた。内容は、最初と同じであったが伝令の甲冑が泥まみれであったことから事態が切迫していると感じられた。


「ザード将軍。このままでは陛下からお借りしていた兵士達が無為に失われてしまいます。」

「だが、敵はいかにして友軍を挟撃したのだ。前線から敵の予定地点までには伏兵を隠せるような森林や岩場は存在しないはずだ。」

「だが、現に予定地点に敵はいないのだ。挟撃のために前線方向の友軍と相対していると考えれば、辻褄は合う。」


ザードの取り巻きたちはやみくもに騒ぐだけであったが、ザード自身は彼らより深刻な混乱状態に陥っていた。

そもそも、敵を挟撃するために前線と後方から同速度で進軍していたのだ。なのに、現実は友軍が挟撃されている。混乱から、立ち直るきっかけは取り巻きの次の一言がきっかけであった。


「反乱分子たちが隣国クロウリアと組んだ可能性はないでしょうか?」

「なに?」

「我々が、クロウリア攻略のために戦力を整えている事を知ったクロウリアが、不穏分子共と組んだのでは無いかと」


意見している当人は、自身がなさそうであるが周りは先ほどまでの狼狽ぶりが嘘のように静かになっている。十分にあり得る事だと思い至ったからだ。

ブラッククロスは、昨年まで隣国クロウリアへの侵攻を進め半年前に期限付きの停戦協定を締結している。表向きは、大陸西方の大飢饉であり食料問題を解決するために向こう一年は侵攻しないというものであった。ただし、実態は大きく異なるものである。

ブラッククロスの侵攻により、国土の約30%と半数の戦力を失ったクロウリア。

侵略したクロウリア領土を併合し、戦力再編を図りたいブラッククロス。

双方の状況が一時的に交戦を中断させているに過ぎないというのが他の周辺国全体の一般認識となっていた。

とは言え、両国ともにいつ寝首をかくか判らない状態であるために十分に考えられた。


「それではなおの事、友軍の救援に向かわなくては。」

「危機に瀕している友軍を救援し、逆に敵の後背を突きましょう。」

「うむ、貴官たちのいう通りだ。直ちに味方の救援に向かうぞ!」

「・・お待ち下さい。」


方針が決定しようとしたところに割りこむ声があった。その騎士の顔を見たとき、ザードはあからさまに嫌そうな顔になった。相手はそれを理解していたが、それに構わずに自身の意見を口にしはじめた。シュナイダーである。


「これは明らかに罠です。ここは今少し慎重に行動するべきかと」

「罠?」

「はい、敵は我々を焦らせて行軍速度を意図的に速めようとしているのではないかと私は考えています。」

「そんな事をして敵になんの得がある?敵の立場であればこちらの行軍速度を遅くして逃走する時間を稼ごうとするのが普通ではないか?だが、敵は予定地点に存在せず、なおかつ友軍からの救援要請が来ているのだ。この状況を見れば反乱民は隣国の軍と組んで友軍を挟撃していると考えれば説明がつく。」

「その救援要請も敵の欺瞞だと考えれば」

「シュナイダー!貴様には全ての事が罠に見えるようだな。だが、そんな事はあり得ない。これ以上、くだらない事を言うならその首をこの場でソッ切るぞ!!」


シュナイダーはさらに言い募ろうとしたが、ザードが腰の剣に手を添えたのを見てこれ以上の発言を押しとどめた。そして、ザードとその部下である1200名は行軍速度を速めた。ある男の思惑通りに。


久しぶりに投稿しました。でも、まだ誰も見てない様子。

見てくれた人はこれからも見続けてほしいです。

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