一話
まだ世界は回っているだろうか。
まだ私は、世界に居てるのか・・・
雨音が鳴り響く中、少女の周りには雨に混じった血潮が広がっていた。トラックはすぐ脇に止まると中から運転士が出てきて少女に駆け寄る。心配そうに声を掛けたり救急車を呼んだりしているけど、・・・間に合わないだろうな。
ああ、私・・・死んじゃうのか。こんなに雨が降っているのに、体が暖かくなってきた・・・。もう少しだけ、生きていたかったな・・・。
ある夏の雨の日の事・・・
人録 第一話 「悲しみのプレゼント」
「お母さん!」
小さな男の子がリビングにいる母にしがみつく。よしよしと母は男の子の頭を撫でる。
「お誕生日おめでとう!もうたーくんは6歳になるね」
たーくんと呼ばれた少年は本名は達也
今日12月15日は達哉の6歳になる誕生日。その為達也自身、うれしそうにしている。その理由は・・・
「ねえ!今日お父さん帰ってきてくれるんでしょ!?」
と達也が母に聞く。母は笑顔で「ええ、達也の為に仕事休んで帰ってきてくれるよ」と達也に言う。
達也の父は達哉が4歳の頃、会社の転勤が原因で達也と共に過ごせなくなってしまう。ずっと会えないのは達也も父も寂しいので達也の誕生日から正月の数日までは達也の為にこっちに戻ってくるのだ。
「プレゼント何くれるかな!?」
「さぁなんだろうね」
「楽しみだな〜早くお父さん帰ってこないかな〜」
達也はワクワクしてジッとはしてられなかった。
外はもう冬景色、雪が深い所は膝まで積もっている程降っていた。
達也は母と共に今日の豪華な夕食を買出しに行こうとしていた。家を出た時に「達也くん!」と可愛らしい女の子の声が聞える。向こうの道から達也と同じくらいの年頃の女の子が長靴にしっかりとした冬の服をしっかりと着て達也の元に駆け寄った。
「今日誕生日だよね!おめでとう!」
少女が達也に言う。
「ありがとう花梨ちゃん!」
花梨と呼ばれた少女はいかにもプレゼントっという感じの箱を達也に渡した。
「はい!プレゼント!」
「わあ、ありがとう花梨ちゃん」
「じゃあ私これからお兄ちゃんと出かけるから行くね!バイバイ」
花梨は手を振って言う。それに応えて達也も手を振って「バイバイ!」
と返す。
花梨から貰ったプレゼントを後で開けようといかにも子供用といった感じの鞄にしまう。
その日の夜7時頃。予定ならもうそろそろ父親が帰ってきてもいいくらいの時間、達也ははやくかえってこないかな〜とワクワクしていた。1年ぶりにあう父に何を話そうか、そんなことを考えながらじっと待つ。
7時半になり少し眠気が襲ってきた。確認するように
「お母さん、お父さんまだかな?」
と母に聞く。母は窓の外を見て
「そうねぇ、雪がたくさん降ってきているからちょっと遅れているのかもしれないね」
と言う。仕方がないので晩御飯は先に食べてしまう。腹をいっぱいにさせてしまった所為か本格的に眠気が襲う。
・・・ふと目が覚める、薄めに開いた目から微かに見えた時計の指す時刻は9時。達也の母はキッチンで食器を洗っている。その時。
プルルルル
と電話が鳴る。
「はいはーい」と母が急いで布巾で軽く手についた水滴を拭い、電話にでる。達也は薄っすらと意識がある。そして母の話し声が聞える。
「もしもし、はい、そうですけど・・・。えっ!!」
いきなり母の声が張り上がる。どうしたんだろうとのそのそと達也は布団から出て電話があるリビングの方へと行ってみる。
「・・・はい、・・・はい。わかりました・・・」
受話器を置いた母は次の瞬間その場に崩れ落ち泣き出した。
「どうしたのお母さん!」
驚いた達也が母に聞いてみる。
享年36歳 若すぎる父親の死。 死因は交通事故だった。
その日達也も母も泣き崩れていた。人生に流す涙の大半を使い切るほどに。
3日後御通夜も葬式も終え家に帰った達也。しかしその心はまだ不安定な状態だった。ある用事で母が出かけていて家で留守番をしている達也はいろいろ家で考え込んでいた。
「何で・・・なんで死んじゃったんだよ・・・お父さん・・・」
悲しみの挙句1人で呟く。
その時。少年の目の前に光る何かが通った。不思議に思った少年は顔を上げそれが何かを見てみる。そこには星の形をしたきらきらしたものを体の周りに纏わせた15歳ほどの少女だ。少女は黒いローブを身に纏う。
「お姉ちゃん・・・だれ?」
初めて会ったはずの達也だが、この少女は何処かで見た事があるような気がした。
『あなたの心の中の悲しみを取り払おう』
そういった瞬間達也の視界が歪んだ。黒い視界にかわり何かが周りを巡る。
「何これ?」
映像?これは・・・思い出?
今までの父とのふれあいがよりいっそう悲しみが膨らむ、そして2,3日前に流しきったはずの涙が再び溢れる。その時。
達也の背後から達也の肩に誰かが手を置いた。
振り返るとそこには。父の姿があった。
「お父さん!?なんで、死んじゃったはずじゃ・・・」
『達也、6歳の誕生日おめでとう。大きくなったな』
「うん・・・」
達也はなきながら頷く。
『・・・ごめんな、父さんしんじゃったんだ。プレゼントも手渡せない』
達也は手で涙を拭う。
「ううん、もういいんだ。お父さんとまた会えたんだから。これがプレゼントだよ!」
『達也、ありがとう。俺は天国でいつまでも俺を見守ってるからな』
そういい残すと父の姿は少しずつ消えていった。
目が覚めると元の部屋だった。だけど達也の横にはある物が転がっている。それは光る星の欠片のようなものだった。
「あのお姉ちゃんがお父さんと会わしてくれたのかな」
黒のローブの少女は空をかける。人々の悲しみを払うため。
第一話 完