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キミになら、見られてもいいよ  作者: undervermillion
キミになら、見られてもいいよ
4/16

sideの使用方法について(例)

最近良く見かける「side使い」。

いろいろと非難されているようですが、これならば、使用しても問題ないかと思って作ってみました。

最初は三人称サイドではないで、あとはsideを使用しています。 

かなり、ボリュームが有ります(約13,600字)。

ご注意ください。

都内にある、とあるファミレス。

人気のない、店内の奥のテーブルには4人の少年少女たちが飲み物を口にしながら、静かに時間が来るのを待っていた。

4人のうち3人は、極度の緊張感を維持しているが、1人だけ余裕の表情をしていた。

余裕の表情をみせていた制服姿の少年ナンバは、他の人がしゃべらないのを確認してから、静かに口を開いた。

「エリオスの日は近い」


ナンバの言葉に他の3人が鋭い視線を向ける事で反応し、ナンバは視線のあまりの鋭さに思わず、手にしたグレープフルーツジュースをこぼしそうになる。


「無理数の闇はどうなっている?」

細いメガネを掛けた、痩身の少年ホクトは、ナンバの行動により、いち早く落ち着きを取り戻すと、ナンバを含めた全員に問いかける。


ホクトの問いかけに、ナンバ以外の2人が、先ほどの緊張感を思い出したように背筋を伸ばし表情を硬くするが、程なく金色に髪を染めた少女カサイが挑発的な返事をする。

「あれは、聖域の騎士たちの任務ではないのか?」


カサイの挑発的な態度に、ホクトともう1人の少年が驚きの表情を見せるが、ホクトは何も言わなかった。ホクトはもう1人の少年の方を見ていた。

ホクトからの視線に気がついた、巨体の少年アズマは、1人だけ注文していた丼をテーブルに置くと、どうでもいいような態度でカサイに答える。

「我々にはガースの盾がある。問題ない」


アズマの回答に、頷いたカサイとは対照的に、ホクトはメガネから出す冷たい視線でアズマに反論する。

「ガースの盾?旧世代の遺物ではないか。あれは信頼性に欠ける」


アズマはホクトとしばらくにらみ合いを続けていたが、カサイが小さくため息をつくと、長い金髪をかきあげながら、アズマを援護した。

「カノンの調べを使えばいいだろう。聖域の騎士たちは理解しているのか?」


しかし、カサイの回答に納得したのはホクトだけで、擁護されたはずのアズマは逆に不審の表情を見せる。

3人は他の2人の考えを吟味するため、それぞれの思考の奥に集中する。


沈黙を破ったのは、最初に言葉を発してから、3人の議論を静かに聞いていたナンバであった。

「エリオスの日は近い」


思考の海に漂っていた3人は、ナンバの言葉に我に返ると、コーラを飲み干したアズマが巨体をゆらしながら、カサイに質問する。

「カノンの調べは、ガースの盾との相性が悪かったはずだが?」


カサイは、アズマの質問を予想していたのか、艶やかな笑みで反論する。

「5人目の守護者が現れたのだ、多少の無理は想定の範囲内だろう」


アズマは、カサイの反論に対して首をひねりながら考えていたが、アズマが答えを出す前に、ホクトが先に言葉を発した。

「「槍の穂先」の動き次第だろう。不的確要素が多すぎるのは問題だ」


「奴らなら「彼岸の大陸」の情報を与えれば文句はでないはず」

アズマは素早く答えると、コーラのお代わりをするために、席を立った。

それに、つられてナンバを除いた2人も席を立った。

ただ1人、テーブルに残されたナンバはゆっくりとつぶやいた。

「エリオスの日が近い」



再び、全員がテーブルにそろうと、ホクトがメガネを外して自分の考えを述べた。

ちなみに、ホクトがメガネを外したのは、ドリンクバーから新たに選んだ飲み物が、ホットティーであるせいだ。

「あの情報は機密レベル8だ。「迷い人の楽園」まで知られる危険性がある」


ホクトから「迷い人の楽園」という言葉が出されたことにより、カサイとアズマの表情が最初の状態にリセットされた。


しばらくの静寂ののち、カサイは、ウーロン茶を口に含ませると、ため息をついて、

「さすがに、問題があるな。やはり聖域の騎士達が十分動いていないということか」

と、同意を求めるために、全員の顔を眺める。


ナンバの表情は最初と変わらなかったが、ホクトとアズマは、頷いていた。

カサイの表情は、少しだけ落ち着きを取り戻したが、アズマはカサイの期待していた答えとは別の事を告げた。

「だから、ガースの盾を使うべきだといっている。旧世代の遺物だが問題ないはずだ」


その言葉に、いち早く反論したのはホクトだった。

「その前に「槍の穂先」対策が最優先だろう」


ホクトの言葉に、アズマとカサイは強い反応を示し、3人のにらみ合いが始まった。

ナンバだけは、最初から変わらない表情であったが、3人をとめることはしなかった。

この緊迫した状況を打ち破ったのは、5人目の来訪者だった。




-----------------------------


ホクトside


俺は、時間にルーズな奴は嫌いだ。

一度失った時間は、二度と取り戻すことができないからだ。

とはいっても、5人そろわなければ、会議を始めることができない。

いや、会議を始めてもいいが、途中から加わったら、最初からの議論の流れを説明する必要があるし、遅れた相手によっては、議論が振り出しに戻る可能性がある。

そうなれば、定時にあつまった人の時間を奪うことになる。

遅れる奴は、何故そのことを重要視しないのか。


まあ、今回、遅れる奴は1人だけなので、そいつは無視して会議を始めよう。

そう思い、他の3人を見回すと1人を除いて緊張しているようだ。

正直、俺も緊張している。

なぜならば、幹部全員が顔を合わせるのが初めてだからだ。




俺たちは、高校のテストでカンニングをするためのグループを統括している。

俺たちのグループは、クラスで赤点を出させないようにするのが目的で結成された。

きっかけは、全国大会に出場したラグビーチームの1人が、赤点による追試の為、実力が有るにもかかわらず花園に出場するメンバーから外されたことだ。


確かに、高校生の本分は学業である。

それならば、生徒に赤点が出ないように適切に指導するのが教師の本分ではなかろうか。

教師の本分を果たさずに、生徒の本分だけを追及するから問題が生じる。

それならば、俺たちがサポート出来ないかと考え、グループを結成した。


それぞれの科目で優秀な人材を確保し、科目ごとに下部組織を構成する。

それとは別に、答案伝達グループを作成し、情報を伝達させる。

このことにより、グループから赤点をとる生徒はいなくなった。

そして、学校内でグループの勢力は拡大していった。


勢力が拡大する一方で、グループとは別の考えを持つ組織が誕生したりした。

今日は、まもなく行われる期末テストの対策と、グループとは別の考えを持つ組織への対策会議を行うため、これまでメールだけのやりとりをしていたが、はじめて顔を合わせることにした。


会場についても、細心の注意を払い、人のすくないファミレスを集合場所にした。

人が少ないとはいえ、何処に聞き耳があるか解らない。

そのため、隠語により他の人間には内容が理解出来ないようにしている。


今回の暗号を用意したのは、最近幹部に昇格した5人目なのだが、未だに現れない。

後で、時間の重要性についてしっかり説教をしようと考えていると、参加者の1人が口を開いた。

「エリオスの日が近い」


俺は、テストの時期がせまっているという当たり前のことを指摘する少年を睨んだが、話を進めるために進捗状況を確認する。

「無理数の闇はどうなっている?」



俺が今回の期末テストで最も気にしているのは、数学に置ける、自然対数の問題であった。

俺は、メンバーの多くが、自然対数の考え方が理解できないことを知っていた。

常用対数への理解は以前の小テストで問題ないことを把握していたので、当初は問題視していなかったが、前回行ったテストでは正答率が非常に低かった。

赤点を取らないようにさせるためには、大がかりな対策が必要だろう。


「あれは、聖域の騎士たちの任務ではないのか?」

長い金髪の少女が挑発的な声を出す。

確かに、俺たちが「聖域の騎士」と呼ぶ、数学担当が準備すれば済むのだが、そもそも数学のカンニングは難しいのだ。


カンニングが果たす役割とは、暗記の補助が中心となるため、数学とは相性が良くない。

俺のように、解法自体を丸暗記できればいいのだが、万人に期待できる方法ではない。

そのために、赤点を取らないよう、カンニングがばれないよう、解法を厳選する必要がある。

これは、「聖域の騎士」だけで解決可能な問題ではないのだ。

そう考えながら、俺はもう1人の巨体の少年を見ていた。


満足そうに、丼を平らげた少年は、

「我々にはガースの盾がある。問題ない」

と、何が問題なのかわからないという表情で答える。



「ガースの盾」は、俺の先輩達が代々残している、中間及び期末テストの問題及び回答集の事である。

これがなければ、俺もグループを設立する事をあきらめていた。

しかし、ガースの盾は完璧ではない。

「ガースの盾?旧世代の遺物ではないか。あれは信頼性に欠ける」

俺は、巨体の少年に問題点を指摘する。


俺の発言に反対したのは、長い金髪の少女だった。

「カノンの調べを使えばいいだろう。聖域の騎士たちは理解しているのか?」

少女の指摘に俺は初めてこの会議の意義を見いだした。


「カノンの調べ」とは、最近の全国のテストを投稿解析するサイトを指し示す隠語であり、グループ内でも活用について議論を開始していた。

素材の多さを考えれば、少なくとも、ツールとしては役に立つだろう。

膨大なツールの取捨選択作業をどのように効率化していくべきかが、問題解決の鍵となる。

まあ、この問題なら、最近昇格した5人目の幹部に任せればいい。

奴の得意分野だからだ。


俺が深い思考の海に溺れていたのを引き戻してくれたのは、制服を着た少年の言葉だった。

「エリオスの日は近い」


そうだ。期末テストが迫っている。

自分だけ考えに浸るのではなく、議論により方向を決めなければならない。

そうでなければ、貴重な会議の時間が無駄になる。


少年は巨体をゆらしながら隣の少女に質問する。

「カノンの調べは、ガースの盾との相性が悪かったはずだが?」

俺は、巨体の少年の質問に失望した。

大枠の問題解決の道筋がついたのだ、次の議題に移った方がいい。

俺の考えに同調したのか、金髪の少女が反論する。

「5人目の守護者が現れたのだ、多少の無理は想定の範囲内だろう」


巨体の男は、首をひねっていたが、これ以上議論を続けさせるつもりはない。

俺はすばやく、次の議題を提起する。

「「槍の穂先」の動き次第だろう。不的確要素が多すぎるのは問題だ」

槍の穂先とは、俺のグループとは考え方を異にする組織の隠語だ。



俺と同様に、赤点を出させないようにするという目的は一緒の組織だが、手段は「放課後や早朝に勉強会を開催する」という内容であった。

確かに手段は正しいだろう。俺たちのグループより正しいやり方ではある。

しかしながら、手段は受け入れることはできない。

なぜならば、その手段は、毎日早朝や放課後に部活動を行う生徒には効果がないからだ。

部活を休んで勉強に専念した結果、全国大会に出場できなければ意味がない。


俺たちのグループと相手の組織とは、いろいろ議論し、最終的には「生徒に赤点を出させないという目的で、協力できるところだけ協力する」という協定を結んだ。

俺たちは、部活動に熱心な生徒を中心にグループを形成し、組織は、帰宅部や同好会のメンバーを中心に組織を拡大していった。

そこまでは、なんとか相互不可侵で活動を行っていたのだが、最近組織の動きが問題となっていた。



それは、最近加入した5人目の幹部、雨晴あまはらしについてである。

5人目の幹部は、もともと帰宅部で組織側の一員であった。

雨晴は組織に加入したころは、成績も普通で、教える側でも教わる側でもない状態であった。


ところが、組織側が教える側の人員を増やすため指導者養成講座を開設したところ、講座に参加した雨晴はみるみる成績を伸ばし、指導者側の立場に立つほどの人材に成長した。

しかし、雨晴は、組織から脱退し、俺たちのグループに加入し、5人目の幹部となったのだ。

このことが、現在、我々のグループと相手の組織との間で微妙な緊張を生じさせた。


我々のグループや相手の組織は、基本的に重複して加入するものではない。

目的は一緒でも、手段は異なるからだ。

以前も、組織に加入していても成績が伸びなかったため、こちらのグループに加入した者や、退部により時間にゆとりが生じたことにより、グループから脱退し、組織に加入して勉学に励む生徒もいる。

だが、雨晴のケースは、組織にとって裏切りにしか映らなかった。


俺は、雨晴に事実を確認すると、

「私はもともと、勉強はできたのです。これまでは、手をぬいていました。

いろいろと、目をつけられて、「グローリークロニクル」で遊ぶ時間を奪われたくなかったので」

と、平然と最近人気のゲームの話を持ち出した。


俺は思わず、雨晴を睨み付けたが、彼は手元にあった、大学入試問題集をすらすらと答えて見せることで、実力を証明した。

「何故、グループに入ることにした?」

俺の質問に、

「勉強会で束縛されるのが、嫌になりました。

グループなら、そこまで縛られないでしょうから」

と平然と答えた。


結局、俺たちは雨晴の加入と幹部への昇任を認めた。

その代わりに、組織に対して何らかの譲歩を見せる必要があった。

組織の一部から、グループに対して批判的な動きをしようとする声も上がっているのだ。

早急に解決すべき課題であった。


「奴らなら「彼岸の大陸」の情報を与えれば文句はでないはず」

巨体の少年は答えると、空のグラスを手に取り、席を外した。

俺が飲んでいた、乳酸飲料のグラスも空いていたので、俺も席を立つ。

同じ事を考えていたのか、金髪の少女も一緒についてきた。


誰もいなくなることを危惧したが、制服を着た少年は

「エリオスの日が近い」

と、つぶやくと、俺たちを見送った。




「あの情報は機密レベル8だ。「迷い人の楽園」まで知られる危険性がある」

俺は、メガネを外して話を切り出す。

メガネを外すと、周囲の状況が解らなくなるが、ホットティーでメガネが曇れば一緒のことである。

全員が席に戻るまでに考えていたことを告げた。


「彼岸の大陸」とは、生徒のテスト成績表のことである。

グループが管理するデータの重要項目である。

確かに、このデータを組織に提供すれば、組織は得られたデータを今後のカリキュラムに生かすことが出来るだろう。

だが、それ以上の問題がある。

グループの最大秘匿事項「迷い人の楽園」の存在が、漏洩することだ。


グループには、俺たちの考えに賛同した教師たちがいる。

運動部の顧問だ。

教師たちも、カンニングは問題であることを理解はしている。

それでも、部活動と勉強の両立の為と俺たちが説得したのだ。

そのおかげで、グループは成長した。


だからこそ、その情報だけは絶対に漏洩させてはならない。

俺たちは、最悪退学ですむが、彼らは解雇されるのだ。

教師たちも覚悟はしていると思うが、それでも他人の人生を狂わせたくはない。

俺の考えに同意したのか、制服を着ている少年を除く全員が緊張する。


しばらくの静寂ののち、金髪の少女がウーロン茶を口に含めると、ため息をつきながら、

「さすがに、問題があるな。やはり聖域の騎士達が十分動いていないということか」

と、答えてくれた。


しかし、少女の後半の発言は適切だとは思わない。

確かに、雨晴は聖域の騎士に所属しているが、そこの連中に任せればいいという話しでも無いはずだ。

だからこそ、今日の議論に載せたのだ。

下手に手を打って、組織と全面抗争するのは絶対に避けるべきなのだ。


「だから、ガースの盾を使うべきだといっている。旧世代の遺物だが問題ないはずだ」

巨体の少年は、聖域の騎士の言葉に反応して、最初の議論に再び戻ろうとしている。

そんなことでは、いつまでたっても議論が終わらない。

少女も、巨体の少年をにらんでいた。


俺はすぐに、議論を戻すため、

「その前に「槍の穂先」対策が最優先だろう」

と指摘する。


俺の言葉に、巨体の少年と金髪の少女はこちらをにらんでいた。

俺も思わずにらみ返す。

こいつらには、冷静な議論は向いていないかも知れない。

メールなどのやりとりであれば、推敲する時間があるので、多少は冷静になれたかもしれない。

だが、今日はそうではなかった。

にらんでも、ため息をついてもしかたがない。

もう一度論点を整理しようと、提案しようとしたところで、ようやく雨晴がやってきた。

まったく、先ほどのやりとりをもう一度繰り返すのか。

俺は、心の中で毒づいた。




-----------------------------


アズマside


僕は久しぶりに外出した。


理由は、僕が参加しているMMORPG「グローリークロニクル」の隔月大規模対戦「エリオスの日」に備えて、ゼムルール出身の五大ギルドで戦略会議を開催するためだ。

これまでは、チャットなどで対策を協議していたが、最近のし上がったギルド「マヨラーとは、マヨネーズラーメンの略」のリーダーからオフ会の開催を打診されたからだ。

正直外出は面倒ではあったが、他のリーダー全員が、賛成したので、仕方なくここにきた。


せっかくなので、ここの人気メニュー「どどん丼」(鰹のタタキを丼のご飯のうえに敷き詰めた海鮮丼のようなもの。樽のような丼の形状と、鰹のタタキを敷き詰めた姿、そしてバチに見立てた箸から、名前が付けられた)を食べていた。

うん、上手い。実に上手いよ、「どどん丼」。

思わず、五七五調にしてしまうくらいおいしいよ。

この味なら、たまには外出してもいいかなと思ってしまう。恐るべき、魅惑の誘い。


「エリオスの日は近い」

制服の少年がしゃべっている。

いつの間にか、議論が始まったらしい。


「無理数の闇はどうなっている?」

メガネを掛けた少年も、議論に参加している。

あんなクエストどうでもいいのに。

どうせ、来月になれば状況が一変するのに。


「あれは、聖域の騎士たちの任務ではないのか?」

隣に座る金髪の少女が、質問に答えている。

気になるのか、あんなクエストでも。



「我々にはガースの盾がある。問題ない」

僕は、「どどん丼」を食い終わると、議論を終わらせる為に口を開く。

食べながら話して、ご飯を飛ばすのは失礼だよね、やっぱり。


隣の少女は頷いたようだけど、メガネの少年は納得していないようで、

「ガースの盾?旧世代の遺物ではないか。あれは信頼性に欠ける」

と返事をする。


バカにしているのかな、ガースの盾の力を。

グランドクエストで我がギルドが獲得したレアアイテムを。

我がギルドが誇る、最強の戦略防御兵器ガースの盾を。

使ったら、絶対に全滅できない最終兵器を。


まあ、欠点は無いわけではない。

うちのギルドは負けないが、他のギルドが全滅しては意味がないし。

「カノンの調べを使えばいいだろう。聖域の騎士たちは理解しているのか?」

その点に気がついたのか、金髪の少女が妥協案を出してきた。


カノンの調べも、戦略兵器のひとつだ。

あれは、広域散布兵器で使用方法が限定されるが、効果が高い。

確かに、今回の戦いにおいて、ちゃんとした作戦を立てれば、勝利出来るだろう。

後は、作戦を誰が立案するかだが、遅れて来るあいつに頼めば問題ないか。


「エリオスの日は近い」

制服の少年が、僕たちの沈黙に対して思うことがあるのか、発言した。

他の問題がないか、考えろということか?

それとも、先ほどの提案に問題が有るというのか。


「カノンの調べは、ガースの盾との相性が悪かったはずだが?」

僕は、気がついた点を指摘する。

まあ、僕が考える必要はない。

なぜなら、

「5人目の守護者が現れたのだ、多少の無理は想定の範囲内だろう」

そう、金髪の少女が指摘したように、「マヨラーとは、マヨネーズラーメンの略」のリーダーに任せればいい。


あいつは、前回の戦いで、ギルドメンバーを敵陣に中央突破させ、混乱を生じたところを他のギルドに各個撃破させた。

そして、リーダーを含めてギルドメンバー全員が戦闘不能に陥ることはなかった。

他のギルドリーダーとの会話で、彼の使用した作戦を聞いて、全員の血の気が引いたのは今でも忘れない。

「あの作戦は封印しよう」

奴の話を聞いた、全員の結論だった。

実際、運営側もすぐに対応した。


それを聞いたあいつは、

「あれは、派手さを基本に選んだ作戦だ。

他に準備して使用しなかった42の作戦と違って、どのみち、一度しか使えない」

と言って、平気な顔をしていたのは、今でも思い出したくない。


「「槍の穂先」の動き次第だろう。不的確要素が多すぎるのは問題だ」

現実に帰ると、メガネの男は別の事を指摘した。

僕も、その点は考えていた。

だけど、あらかじめ対応策を用意していた。

「奴らなら「彼岸の大陸」の情報を与えれば文句はでないはず」

僕は、言い終わるとコーラのお代わりをするため、席を立った。

しばらく、他のギルドマスターに思案させる為だったが、制服姿の少年を除いて、全員僕についてきた。


残された少年は、

「エリオスの日が近い」

とつぶやいていたが、気にしない事にする。

エリオスの日よりも、今はコーラのお代わりが優先だ。




「あの情報は機密レベル8だ。「迷い人の楽園」まで知られる危険性がある」

メガネの少年はメガネを外しながら、僕の出した対応策について、危険性を指摘した。

確かにそうだ。

僕は、元メガネの少年に視線を移す。

「彼岸の大陸」とは、来月行われるメジャーアップデートにより登場するメインシナリオの事だ。

すでに、いくつか情報が伝わっているが、最大の特徴はマップの追加であると言われている。

4年ぶりのマップの追加は、楽しい要素のはずであるが、「勢力図が大幅に変化することで、あの男が加入した勢いがそがれる」と、我が陣営に属するギルドリーダー達は落胆していた。

しかし、あいつの一言が、全てを変えた。

「ああ、「彼岸の大陸」の情報なら、ほとんど知っている」


あいつの話では、兄がゲーム会社で、「彼岸の大陸」のテストプレーをしており、その情報をハッキングしているという事だった。

そして、「迷い人の楽園」の情報はさらなる驚愕を受けた。

サブイベント「迷い人の楽園」には、バランスを壊すほどのアイテムが用意されているということだった。

最初に、そのサブイベントを独占すれば当面、自分の陣営が優勢になる。

だが、他の陣営も手をこまねいているはずはなかった。

だから、情報の提供は最小限にすべきだろう。


「さすがに、問題があるな。やはり聖域の騎士達が十分動いていないということか」

少女がウーロン茶を口に含ませると、ため息をついて、周囲に同意を求めた。


「だから、ガースの盾を使うべきだといっている。旧世代の遺物だが問題ないはずだ」

僕は速やかに反論する。

これまでの作戦を踏襲すればいい。

あとは、あいつの判断を仰ごう。


「その前に「槍の穂先」対策が最優先だろう」

元メガネの少年が、再度「槍の穂先」のことを口にする。

確かに、急に敵対すればやっかいな相手だが、始めから敵対勢力として牽制すれば問題ないはずだ。

下手に懐柔策を利用して、「彼岸の大陸」等の情報を知られた方が問題だ。

そのことを、指摘しようと思ったが、急に頭が重くなった。


片手剣斬撃派生スキル「パイスラッシュ」の修練で徹夜した影響が現れたようだ。

結論はこれから来るであろう、アマハラシから聞けばいい。

帰りに、「どどん丼」の持ち帰りを頼もうかと考えているうちに、僕の意識はうすれていった。




-----------------------------


カサイside


私は極度に緊張していた。

今日の会議の内容で、革命の正否が決まるから。

最高幹部が一同に会するのは、最初で最後だろう。

失敗すればもちろん、成功しても被害は避けられない。


それにしても、私が連絡役にしていたエージェント雨晴が、5人目の最高幹部だとは思わなかった。

彼の能力を疑った事は一度も無かったが、最高幹部が誰かの部下をしかも、自分の、とは想像すら出来なかった。

彼は、にっこりと微笑みながら、

「素性を隠すには、このような方法もあることだけは覚えておいたほうがいいですよ」

と答えてくれた。


私はかなり頭に来たけど、怒ると彼の思うつぼなので、怒りを抑えた。

今に見てなさい、革命が成功したら、本当にしもべにしてやるのだから。

そう思うと、少しだけ緊張がやわらいだ。

緊張してもかまわない、今日の会議が成功するのなら。

私は、初めて見る他の3人の最高幹部を眺めながら、今日の議題をどのように解決するべきか考えていた。


「エリオスの日は近い」

制服を着た少年は静かな口調ではあったが、何の気負いも感じられない。

私は今日の会議の重要性を認識しているの?

と、問いただすような視線で制服姿の少年を睨み付けたわ。


「無理数の闇はどうなっている?」

細いメガネを掛けた痩身の少年は、早く本題に入りたいのか、説明を求めてきた。

革命が成功するための、最大の障壁「無理数の闇」についてだった。

自分が所属するテロ組織にとって、最も脅威なのは、見えない組織。

見える組織については、こちらが行動を監視したり、潜入したりすることで動向を把握できるわ。

「無理数の闇」は、私たちの行動を監視し、革命を阻止しようとしていた。

もし、事前に雨晴が気付かなければ、実行直後に私たちの組織は壊滅したでしょう。


対抗するには、それなりの手段が必要なことは知っていた。

私は、事前に雨晴と議論した結果の、結論だけを口にした。

「あれは、聖域の騎士たちの任務ではないのか?」

普段使い慣れていない口調ですが、この場はこの口調で通すつもりよ。


私が口にしたのは、結論だけ。

敵対組織を潰すためには、私たちの組織が持っている武装組織を運用すれば問題ないわ。

でも、聖域の騎士の力だけでは、不十分。

そのことに、私と雨晴以外に気付く人がいるのかしら?


「我々にはガースの盾がある。問題ない」

巨体に似合う丼を平らげた少年は、なげやりな表情で答える。

この少年、本当に幹部なの?

口に出すことを抑えることは出来たけど、巨体の少年に対する評価を落とした。

革命はゲームじゃないのよ、現実なのよ!


「ガースの盾?旧世代の遺物ではないか。あれは信頼性に欠ける」

メガネの少年の答えが、巨体の少年に対する答え。

ガースの盾は、組織成立直後に作られた、武闘派部隊、これまで何度も組織を守ってきた。ただ、守るのには適していても、攻勢には向かないため、革命を起こすためには聖域の騎士を始めとする様々な部隊を設立しなければならなかった。

メガネの少年は、その事実をただ指摘した。


私は、メガネの少年が続きを話すことを期待していた。

雨晴のように、何らかの打開策が口から出ることを期待していた。

しかし、メガネの少年から、続きの言葉は聞こえない。


反論なら誰にも出来るわ。

私は、目の前の存在が幹部として役に立たないと決めつけて、答えをしめす。

「カノンの調べを使えばいいだろう。聖域の騎士たちは理解しているのか?」

と。


カノンの調べ、これは雨晴が提案した内容だった。

私ははなから、雨晴の提案をバカにして即座に否定した。

だって、「カノンの調べ」はただの狙撃部隊。

どのように活用しても、無理数の闇を殲滅することなど出来やしない。


しかし、雨晴の本当の狙いを知ったとき、私は自分の愚かさを知ってしまった。

だからこそ、私はここにいる。

他の人の考えを取り入れて、すこしでも革命の成功率を高めるために。


「エリオスの日は近い」

制服姿の少年が、静かに私たちに注意した。

私たちに残された日は、非常に少ない。


「カノンの調べは、ガースの盾との相性が悪かったはずだが?」

巨体の少年が、問題点を指摘した。

私も、最初に雨晴に質問した内容と一緒ね。

だから、すぐに反論する。

「5人目の守護者が現れたのだ、多少の無理は想定の範囲内だろう」

と。

詳細な説明を、雨晴にさせようかしら。

遅れてきた罰として。

そう考えていると、

「「槍の穂先」の動き次第だろう。不的確要素が多すぎるのは問題だ」

メガネを掛けた少年が別の問題点を指摘する。


私も、「槍の穂先」と呼んでいる勢力のことが気がかりだった。

私たちの動きを知りながら、敵対もせず、協力もしない組織。

あやしいけど、下手に手を出せない。

本当に、やっかいな相手ね。


巨体の少年は、

「奴らなら「彼岸の大陸」の情報を与えれば文句はでないはず」

と、答えると素早く、ドリンクのお代わりするため席を立った。


「途中で席を立たないで」

そう思いながらも、自分のアイスティも無くなったので、合わせて席を立つ。

メガネの少年も、私と一緒に立ち上がったが、制服の少年は、

「エリオスの日が近い」

と答えると、そのまま席にいた。




「あの情報は機密レベル8だ。「迷い人の楽園」まで知られる危険性がある」

メガネの少年は、ホットティを飲むためにメガネを外すと、思ったことを口にした。

「彼岸の大陸」は、私たちが革命の日に発表する声明文のこと。

すでに、内容は固まっていた。

しかし、今の段階で情報が漏れると、革命の目的である「迷い人の楽園」の内容が推測されかねない。

これまでの「槍の穂先」の動きからすると、全ての情報を入手してから、私たちの存在を潰す可能性だってある。


だから、私は、

「さすがに、問題があるな。やはり聖域の騎士達が十分動いていないということか」

強い口調で周囲の同意を求めた。


「だから、ガースの盾を使うべきだといっている。旧世代の遺物だが問題ないはずだ」

巨体の少年は、最初と同じ答えを繰り返す。

考えが、堅いのよ。

やっぱり、幹部には向いていないようね。


「その前に「槍の穂先」対策が最優先だろう」

メガネを外した少年が続けて答える。

だから、今は「槍の穂先」は、無視した方がいいの。

下手に動いて、計画がご破算になったらどうするの!


私は、口を強く結んで3人を睨んだ。

雨晴、早く来なさい!

この3人を早く相手しなさいよ!




-----------------------------


ナンバside


僕は、後悔していた。

僕は、グレープフルーツジュースをちびちびと飲みながら考えていた。

場違いなところにいた。

みんなの議論に、全くついていくことが出来なかった。

僕は、ここにいる原因を思い出していた。




友人の雨晴君の成績が良くなったことを知り、勉強方法を教えてくれないかと相談したのがきっかけだ。

彼は快く引き受けたのだが、一つだけ条件を言った。

それが、「今日とあるファミレスに集まって適当に話を聞いて欲しい」という内容だった。


「見知らぬ連中と話しするなんて出来ないよ」

僕は、雨晴君ほど社交的ではない。

雨晴君の交友関係は広範で、修学旅行先の京都で、30人以上声を掛けられていた。

その中には、北海道から修学旅行に来た女生徒や、ウクライナから観光に来た夫婦、さらには舞妓さんにも声を掛けられていた。

友人達からは、宇宙人に知り合いがいてもおかしくないとまで言われていた。

「問題ない。全員が初めて顔を合わすのだから」

「オフ会なの?」

僕は驚きながら質問する。

「……。そうとも言える」

雨晴君は少し考えてから答えた。


「でも、会話についていけないと怪しまれるよ」

「大丈夫だ。魔法の言葉を教えてやる」

「魔法の言葉?」

「神妙な顔をして、「エリオスの日が近い」と言えばいい」

「エリオスの日?」

僕は聞いたことの無い言葉を、ゆっくりと復唱した。


「そうだ」

「言葉の意味は?」

「いろいろあるので説明すると長くなる。

とりあえず、適当に繰り返せばいい」

「本当?」

僕は心配になって、思わず雨晴君の目をみつめる。


「大丈夫だ。

用事を済ませたら、すぐに俺も参加する」

「早くきてね」

「ああ」

雨晴君はいつもの自信たっぷりの表情で、僕の右肩に手を置いた。

大丈夫だ。そう、僕は確信した。




ようやく、雨晴君が来てくれた。

後は彼に任せて、食事を取ろう。

先ほど、巨体の少年が食べていた、「どどん丼」も捨てがたいが、ここは定番のミックスピザ定食(ごはんとみそ汁のお代わりが自由)にしよう。

そう思って、メニューから視線をあげると、目の前には雨晴君と、見たこともないような美少女が現れた。




-----------------------------


ナカマside


私は、どうしようもないとあきらめていました。

しかし、今手をつないでいる彼、雨晴君が、全てを解決しようとしています。


「エリオスの日」と呼ばれる日に、ノーサイドと呼ばれる宇宙人がこの地球を攻撃します。

本来であれば、私たちナカマと呼ばれる宇宙人が対応しなければならないのですが、母星が攻撃を受け、現在地球には私しか残されていません。


そして、対策を取るために地球人の協力を得ようにも、ノーサイドの精神探索によりこの事実を知った人間が発見され、排除されます。

私の力では、私自身と1人の地球人ぐらいしかノーサイドの精神探索を逃れることができません。

その1人の地球人が、手をつないでいる彼です。


「解った、君の助けになろう」

彼は私の手を握って協力してくれました。

彼は、作戦を実行するために多くの仲間を集めました。

私は精神探索で排除されると言いましたが、

「大丈夫、問題ない」

と断言しました。


私は不安でしたが、これまで彼の協力者が精神探索から攻撃を受けたことが有りません。

不思議に思いましたが、彼ならばきっと上手くいくと確信しました。


彼は、今日主要な仲間を集めて打ち合わせをすると言いました。

私は危険だと言って反対しましたが、

「危険なんてどこにもない」

といって、微笑んでくれました。


私は、彼に全てを任せることにして、集合場所のファミレスに向かいました。

私は彼の手を握り、黙って彼の話を聞きました。

集まっていた皆さんは、彼の話を聞くうちに、一丸となって戦うことに賛成してくれました。

理由はわかりませんが、誰も、ノーサイドの影響を受けていません。

私は、これならば勝てると確信しました。




私たち6人が、宇宙人からの侵略から地球を守る為に立ち上がった記念すべき日となりました。

ただ、私と雨晴君以外は、その事実を知りませんでした。

この文章を考えるのに、構想から三週間かかりました。

もう少し、要約しても良かったかもしれません。

私は「Side使い」には向かないようです。

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