転生トラック ~鉄と魔術の大地オフライン~
転生トラック。
この言葉に魅せられて、作ってしまった。
以前投稿した短編と、同じ内容です。
しおりを挿む 転生トラック ~鉄と魔術の大地オフライン~ 作者:単六電池
友人が失踪した。
原因を調べるため、俺は友人が最後に遊んだゲームを開始した。
ここに、友人が失踪する原因があると信じて。
「転生トラック?ありましたね、そんなことも……」
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「さて、一体何が始まるのかな」
俺は、再生ボタンを押した。
そして、ゲームが起動するまでの間に、最近の出来事を回想していた。
俺の友人には、クソゲーマニアがいた。
友人は「私はクソゲーマニアではない」と断言したが、友人が面白いと俺に勧めるゲームは、決まって世間がクソゲーと断言するものばかりだった。
俺は、自分でプレーせずにクソゲーと評価することは、したくは無かったので、ちゃんと友人から借りて遊んでから評価している。
ただ、これまで友人から「オススメだぞ」と言われて借りたゲームは、ことごとくクソゲーの評価に値する内容だった。
「おかしいな。
いやになっちゃう巻物とか出てきて、面白かったのに。
ちゃんと「オススメRPG」とシールが貼ってあったのに」
友人は首をひねりながら答えた。
友人よ、そのシールは、メーカー自身が貼ったやつだ。
信用してはいけない。
「買おうかどうか迷ったけど、あのシールを信じて購入して正解だったよ」
「ああ、君がそう思うのならそうなのだろうな」
俺はしみじみとつぶやいた。
友人と制作者とは波長が合うようだ。
「最近、すごいゲームで遊んでいるよ」
友人と夕食を食べながら話をしていた。
月に1度程度だが、友人とは一緒にゲームをして遊んでから、夕食を食べることにしている。
友人とは家が近く、小学校からのつきあいで、よく一緒に遊んでいた。
大学を卒業後、お互い定職を持ち、土日が休みではあったので一緒に遊ぶ機会は多かったのだが、俺の職場が実家から離れたところに移転した。
このため、俺は職場の近くのアパートに引っ越することになり、友人と遊ぶ機会は減っていた。
今では、月に一度実家に顔を出したあとで、友人のところに遊びに行っている。
家に帰っても、両親が「早く結婚しろよ」とうるさく言われるので、実家は本当に顔を出すだけだ。
「最近、超能力の訓練を中断するくらい、はまっているよ」
「それは、すごいな」
友人の話に、俺は驚いていた。
友人は15年以上前から、超能力開発ゲームを日課のように遊んでいる。
そのゲームでは、スプーンを曲げたりカードに書かれた絵柄を透視したりするのだが、訓練を積むとゲームを監修した超能力者から、ありがたいお言葉を聞くことができる。
その中にはたしか、再来年あたりに超能力と科学とが一体化するという予言があったのだが、いまだにそのような報道はなされていない。
友人は今でもその言葉を信じて、トレーニングに励んでいる。
がんばってくれ。
もし超能力が使えたら、俺もそのゲームを毎日するから。
「そのゲームとはどんな内容なの?」
「RPGだよ」
俺はオススメシールが貼ってあったゲームソフトを思い出す。
「邪悪な魔法使いを倒すために、とある君主から召還された主人公が活躍する話だよ」
「パソコンで最初の頃に出たゲームを思い出すのだが」
俺は、銀色の大蛇を紋章にした王様の事を思い出す。
彼の頼みで、聖者を目指したのは良い思い出だ。
王様に火炎瓶を投げつけたのも良い思い出だ。
あれは、聖者にあるまじき振る舞いであるが。
「鉄と魔術の大地オフラインだ」
「オフライン?」
「そうだ」
友人は面白そうに答える。
俺の知っているゲームであれば、「鉄と魔術の大地オンライン」しか知らない。
しかも、そのゲームはβテスト開始直後に制作会社が倒産したため、幻のゲームと言われているはずだ。
俺は、オンラインゲームにあまり興味がなかったので遊んだことはなかったが。
「知ってのとおり、鉄と魔術の大地オンラインは販売されることなく、制作会社が倒産した。
その際に、数人の社員がデータを持ち出し、オフラインで遊べるように改良して、コンシュマーゲーム機で遊べる同人ゲームとして密かに発売された。
だが、もともとオンラインゲームで考えられたゲームバランスはそのままにしたらしい。
大半のプレーヤーは難易度の壁に阻まれ、挫折したそうだ」
「もともとはオンラインゲームだろう。
そのゲームには、クリアという概念があるのか?」
俺は友人に疑問を投げかける。
「有るらしい。
マニュアルには、魔法使いを倒すことが目的だと書かれている」
「そうかい。
ごちそうさん」
俺は料理を食べ終わった。
「じゃあな」
「ああ、クリアしたら貸してあげよう」
「あまり遊ぶ時間はないが、やってみるよ」
俺は、友人と別れた。
「……。今日まで連絡がない状況です」
「そうですか」
俺は、友人の両親から、友人の話を聞いていた。
良く遊びに来るということで、友人の両親からは「勝手に家に入って待っててくれ」とか、「合い鍵を渡しておこうか」とか、言われたこともあったが、さすがにそれらの申し出は断っている。
その友人が失踪した。
俺が友人と最後にあってから1ヶ月経過していた。
友人は1週間前に、誰にもなにもいわず失踪したそうだ。
友人の車や鞄はもとより、携帯電話や財布すらそのままだった。
ひょっとして、誘拐されたのかとも考えられるが、誘拐する相手も理由も思いつかないという。
そうはいっても待つだけでは解決しないだろうと、警察に捜索願いを出そうかという話になって、俺が呼ばれた。
失踪した翌日に友人の妹(県外に嫁いでいる)からメールでそちらに行っていないか
といわれたが「それはない」と返事したときに違和感を覚えたが、友人の母親から連絡があるまでは失踪したということまではわからなかった。
「俺あてのメールが最後だったということですね」
「はい」
ちなみに俺に宛てたメールの内容は次のとおりである。
件名:2週目に突入!
内容:苦労の末に、ようやくエンディングまで到達!
さすが、もともとMMORPG用だったせいか、「俺たちの旅はこれからだ!」的な内容だった。
まあ、それでもかまわないが。
そのわりに、何故か2週目モードがあるらしい。
スタッフの力の入れ方がわからん(笑)
風呂に入ってから、2週目いってみる。
詳細は、次あったときにでも説明する。
楽しみにしてくれ。
「風呂には、入ったようです」
友人の母親は、バスタオルがなくなったことを指摘する。
俺の友人は少し変わってはいるが、さすがにバスタオル1枚で外出するような奴ではない。
「もしよかったら、部屋を見せてもらってもいいですか?」
「遠慮することはないわよ」
ありがたい言葉だが、少し重く感じてしまう。
「ありがとうございます」
お礼の言葉をかけて、2階にある部屋にあがる。
友人の部屋は、整然とされていた。
友人の母親の話によると、テーブルにコーヒーがおいてあったこと、テレビとゲームがつけっぱなし出会ったことを教えてくれた。
ちなみに、画面は真っ黒であったそうだ。
ゲームのタイトルはやはり鉄と魔術の大地オフラインであった。
テーブルの上には、ノートが置いてあった。
ルーズリーフでまとめており、表紙にはボールペンで「鉄と魔術の大地オフライン攻略」と記載されている。
ノートをめくると丁寧な文字で、攻略情報が記載されている。
これだけきれいなら、そのまま攻略情報として本ができるなとかんがえながら、友人の母親に依頼する。
「すいません。
これをお借りしてもいいですか。
過度な期待はできませんが、なんらかの情報を引き出すことができるかもしれません」
俺は、鉄と魔術の大地オフラインのソフトとデータカード。そして、ノートを手にした。
「ええ、ええ。
そのほうが、あの子も望むことだと思うから」
友人の母親は、少しうつむいて答えた。
肩を少し振るわせながら。
俺は、友人の母親に礼をいって、友人の家を後にした。
俺は家に帰ると、ゲームソフトを眺めながらしばらく考えていた。
友人の母親には「過度な期待はできないが」
とはいったが、俺はある程度の確信を持っていた。
このゲームが、友人が失踪した理由を解き明かすものであると。
俺はさっそく、鉄と魔術の大地オフラインを立ち上げた。
「開発中止は正解だったか……」
プレイして1時間過ぎたときの俺の正直な感想だった。
βテストの内容を知っているので、「グラフィックがしょぼい」とか、「敵が強すぎる」とか、「移動がもたつく」とかは承知していた。
「まさか、育成モードがテキストアドベンチャーだったとは」
俺はため息をついた。
ゲームの主人公は高校生で、学校生活を一ヶ月過ごした後に、子猫を助けようとしてトラックにはねられた。
「本編に進む前に、ゲームオーバーか」
俺は、昔遊んだ落語家が作ったRPGを思い出していた。
ちなみに、友人の攻略情報は、とある理由によりここまでは役に立たなかった。
俺はゲームをリセットしようとして、ボタンを押そうとしたところ、ゲーム画面が切り替わった。
「目が覚めたか」
ゲームの中に現れた白い袴を身につけた幼女が俺に話しかける。
CD音源を使っているようで、妙に力を入れている。
「わしは、神様じゃ」
幼女は胸を張って答える。
「お前さんは、手違いで死んでしまった。
すまぬ」
神様は急に、頭を最敬礼とされている角度まで下げて、下手にでた。
「手違いかよ!」
ゲームの主人公がテキストで回答する。
「すまぬ。
とはいっても、生き帰らせることはできない。
できるとしたら、お前さんに力を与えて異世界に送りだすことじゃ」
「なら、仕方ない!」
ゲームの主人公は、即座に納得した。
すごいご都合主義だが、「納得できない!」と回答したとしても、話が進まないので大目に見ることにした。
「それでは、次の3つから選んでね?」
「1 学業成就」
「2 健康祈願」
「3 安産」
「神様らしい、選択肢とはいえるのだが、……。
安産はないだろう。さすがに。
商売繁盛とかなかったのか?」
俺はしばらく悩んでから、健康祈願を選ぶことにした。
RPGなら、ステータス異常攻撃が想定される。健康祈願であれば、対応できるはずだ。
「そうか、いらないのか無欲な奴だな」
神様は気が短いのか、俺が選択する前に、勝手なことをのたまった。
「い、いや決まってないから」
ゲームの主人公も俺の気持ちを読んだのか、神様に反論するも、
「うじうじと悩む男はもてないぞ」
神様はそういって、俺をいやゲームの主人公を異世界にとばしていった。
「……。リセットするか」
俺は再びゲーム機本体のボタンを押す前に友人が作成した本を開いた。
ここで、友人の攻略情報を確認することで、次回のプレイ時に参考とするためである。
本来であれば、攻略情報を見ながら遊ぶタイプではないのだが、今回ばかりは時間が惜しい。
俺は、目当てのページを確認し読み始めた。
「項目:神様トラップに注意!
内容:異世界転生前の時間制限選択肢は、時間切れをねらうのがジャスティス!
他の選択肢を選ぶと、確かに君が大好きな「俺tueee!モード」を味わうことができます(ただし安産の選択肢を除く)。
しかしながら、これらの選択肢を選択すると(安産の選択肢を含む)ゲーム進行上不具合が発生し、クリアできなくなります(厳密にいえばアナザーエンディングという名のバッドエンド)。
リセットして、再度選択肢を選び直そうとする君を狙った、神様トラップです。本当にありがとうございました」
「なんというトラップ」
俺は今日ほど、友人の存在を感謝したことはなかった。
友人の忠告がなければ、俺は確実にトラップに引っかかったはずだ。
俺は、友人が作成したノートを参考に、ゲームを進めた。
正直、友人の攻略情報がなければ、途中で投げ出していたはずだ。
「君のように、最適化を目指す場合には、確実に引っかかるだろう」
「君みたいに女心を理解できない場合は、失敗するはずだ」
何故か、俺が読むことを前提に書かれているのが、納得できなかったが。
友人のおかげで、クリアすることができた。
とはいっても、クリアするのに2ヶ月は費やしてしまっていた。
この期間が長かったのか短かったのかは、再会する友人に判断を仰ぐとして、俺はモニターを確認していた。
友人の捜索願は警察に出されたが、今のところ一切情報は得られていない。
1週目と同じ画面。
クリアデータでは、再度のプレイができなかった。
「俺の勘違いだったか」
俺は、友人の話やメールの内容、そして失踪した状況から、クリアデータを利用することで転生できると考えていた。
しかし、予想は外れた。
再び画面を眺めると、選択できる内容が一つ増えていた。
「サウンドモード?」
俺は、念のためサウンドモードを選択した。
サウンドモードに突入すると、ゲームの主人公が神様と面会した部屋にとばされる。
「わざわざ、この部屋に来るなんてあんたも暇なのね。
しょうがないわね、好きな曲を選ぶといいわ」
神様は、幼女から少女に成長していた。
なにも、こんなところに力をいれなくても。
「とりあえずは、普通のサウンドモードだな」
俺は、ひとまず曲の内容を確認する。
最初の内容は曲ではなく、幼女神様の「ラジカセに入れないでね」という警告メッセージだった。
「作者には悪いが、微妙な曲だ」
そのわりには、CD音源を利用しているのが理解できなかった。
30分ほど経過し、最後の曲になった。
普通のCDは76分なので約半分の容量を使用している。
俺にはそれが贅沢なのか無駄遣いなのか判断がつかなかった。
タイトルは、「トラック23 異世界へ」だった。
「まさか、異世界トラック……」
俺がつぶやくと、画面が光り輝きはじめた。
俺は急に意識を失った。
「遅いぞ」
俺は、なじみの声とともに身体を揺さぶられて目を覚ます。
「おお、正解だったか」
周囲を見渡すと、失踪していた友人と少女の姿が見える。
「すごいな、おぬし。
本当にこいつが、ここまでたどり着けると予想するとは」
少女が友人に話しかける。
「まあ、あれだけヒントを残したのだ。
確実にたどり着く」
友人と少女の話を聞いて、少女が誰か理解した。
「ひょっとして、神様?」
「他の何かに見えるかい?」
少女は意地悪な笑顔を見せる。
「君のことだ。
彼女に対して、ゲーム画面の神様の方がかわいいとか、失礼なことを考えていないとは思うが」
「それはない」
俺は、ゲームの少女と目の前の少女との胸の大きさの違いについては、言わない方がいいと思いながら、
「ここに呼び出された理由を知りたい」
「想像はつくだろう?」
「想像なんて、簡単に外れるものだ」
「まあ、いいだろう」
少女は説明をはじめた。
「私は、鉄と魔術の大地と呼ばれる世界を守っている神様じゃ。
当然神様なら、世界を好き放題にできるのだが、破壊神に目をつけられてしまった」
俺と友人と神様は、テーブルに座りお茶を飲みながら話をしていた。
「その破壊神は、私にゲームを持ちかけた。
破壊神はとある世界から魔術師を呼び出して、魔族を率いさせる。
私は別の世界から冒険者を呼び出して、人間を率いる。
ゲームの開始から10年以内に人間が住む五大都市のすべてが滅ぼされたら、破壊神の勝ち、一つでも守り通すことが出来たら私の勝ちだ」
「どうして、破壊神とゲームをしなければならなくなった?」
俺は神様に質問する。
「破壊神は強力で、ゲームに応じなければ、お前達が住む世界を滅ぼすと言ってきた。
私や、お前たちの住む世界の神様の力では対抗できない」
なるほど、俺たちが住む世界の危機ということか。
理不尽だが、逆らうことが出来ない。
「なぜ、俺たちが選ばれた?」
俺は質問する。
「お前たちが遊んだゲームは、この世界を、ある程度忠実に再現した。
魔王の能力は、破壊神と契約した内容を元にして、シミュレートした。
クリアして2週目を遊ぼうとするお前たちなら、勝利することが出来るだろうと考えたのだ」
「ゲームバランスが悪いのは、ゲームでは無いからということか?」
神様は頷く。
「そういうことだ。
本来なら、オンラインゲームとして販売したかったが、破壊神側から妨害された。
そうでなかったら、もう少し参加者を増やせたのだが」
「結局、何人が参加するのだ?」
俺は、期待せずに質問する。
「お前達を含めて7人だ」
「そうか、そんなところだな」
俺は頷いた。
こんなゲームをクリアして2週目をする人間などいないだろう。
「さて、どうやって始めるのだ」
「目の前の扉を出たら、鉄と魔術の大地の世界に旅立つことができる。
他の5人は既に出発した」
「じゃあ行くか」
俺は友人に視線を移す。
「ああ」
俺たちは、新しい世界に旅立った。
この世界を守るために。
自分たちが住んでいた世界を守るために。
「なあ、聞きたいことがあるのだが?」
俺は、目の前にいる友人に質問する。
「私で答えられる事であれば」
「どうして、俺たちは学生服を着ているのだ?」
俺たちは30歳を過ぎていたが、転生したおかげか15歳程度の顔をしている。
そうでなかったら、かなり痛いことになっているはずだ。
「高校生という設定だからな」
「そこから始まるのか!」
「そうだな、ゲームが原作に忠実なら、高校に入学してからゲームが始まるのは、当然だな」
俺は、嫌なことを思い出した。
「……。転生トラックは?」
「1ヶ月という短い高校生活だ。思い残すことのないように楽しめばいい」
本文中に登場したゲームの元ネタについて解説します(一部別の文字を充てています)。
1 「オススメRPG」とシールが貼ってあったゲーム
里見@謎
話に登場する巻物はイベントクリアに不必要なアイテムです。
2 超能力開発ゲーム
マインドシ-カ-
サイレベルが上昇するたびに監修した超能力者から、ありがたいお言葉をいただくことが出来ます。
3 銀色の大蛇を紋章にした王様が登場するゲーム
ウル〒ィマ
話に出たシナリオは、Ⅳ(FC版)です。
4 落語家が作ったRPG
ZA∀ASⅡ
主人公の能力を決めるため、赤ん坊が泳ぐことになりますが、制限時間内にゴールに到着しないと死んでしまいます。