キミになら、見られてもいいよ
やあ (´・ω・`)
ようこそ、「キミになら、見られてもいいよ」へ。
この「作品」はサービスだから、まず読んで落ち着いて欲しい。
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、このタイトルを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない「ときめき」みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういう気持ちを忘れないで欲しい。そう思って、この話を作ったんだ。
じゃあ、感想(苦情)を聞こうか。
メロスはこのように走ったのだろうか。
僕は、全力で教室に向かいながら、先日読んだ国語の教科書の内容を、思い出していた。
「僕は、自分の為に、走って、いるけどね」
僕は、息を切らせながら階段をかけあがる。
そういえば、メロスも友人のためではなく、自分自身の約束を果たすために走っていたことを思い出した。
僕が教室へと急ぐ理由は、机の中に入れている財布を取りにいくためである。
普段、財布は制服のポケットにいれていた。
しかし、数日前に衣替えがあり、夏服になったことからズボンのポケットに財布を入れていたが、授業中尻が痛くなったので、途中から机の中に入れていた。
電車に乗ろうとして、財布を忘れたことにようやく気づいて、あわてて教室に取りにいき、ようやく教室の目の前にいるのが、今の状況である。
なんとか、次の快速電車に間に合いそうだと思いながら、息を整え、教室の目の前にたどり着き、大きな音を立てて扉を開いた。
「きゃっ!」
甲高い声とともに、僕は小柄な少女とぶつかった。
「うを!」
急ぐことしか頭になかった僕は、避けることができず反動で、尻餅をつく。
目の前のツインテールの少女も、鞄を手放して尻と右手が床についた。
「いたい……」
少女はぶつかった衝撃と、急な展開で体が動けていない。
少女の足下に転がった鞄は、落下の衝撃で中に入っていた教科書やノートを吐き出した。
どんよりとした曇り空の下、薄暗い教室の中自分とぶつかった少女しか存在しない。
静寂の中で、僕はようやく口を開く。
「ご、ごめん。澤金さん、大丈夫!」
僕は慌てて、倒れている丸顔の少女に声をかける。
「だ、だいじょうぶ」
澤金さんは、黒く落ち着いた瞳を僕に向けると、ゆっくりと立ち上がる。
169cmの僕の身長と比べて、少し低い澤金さんは、僕を見上げる状況になる。
「澤金さん。ごめん」
僕はあらためて澤金さんに、頭を下げる。
「だ、大丈夫よ、松垣君」
澤金さんは、柔らかく小さな唇から、優しい言葉を紡ぎ出す。
「えっと、手伝います」
僕は顔を赤くして、澤金さんから視線を下に外すと散乱した教科書やノートに気がついて片づけの手伝いを提案する。
僕は澤金さんのことが気になっていた。
澤金さんとは、高校2年になってから、はじめて同じクラスになった。
澤金さんは、普段からおとなしく、あまり目立たない存在であるが、僕はいつのまにか澤金さんの方に視線を移すことが多かった。
しっかりと背筋を伸ばして授業をうける姿。
先生から問題を当てられて、慌てながらも、丁寧に回答を答えるときの凛とした表情。
背を伸ばしながら、板書に答えを書く姿。
左手でかかれた、小さいけど力強くかかれた文字。
正解であることを先生からほめられた時に見せる、かすかに頬を染め、少しだけうつむきながら喜びを示す表情。
体育の授業で、小さな手足を精一杯動かしながら走る姿。
休憩中、軽いため息とともに窓の外の景色を眺める、かすかに憂いをおびた表情。
そのいずれもが、僕の心をとらえて、離さない。
僕は、最初、澤金さんを眺めたときに胸が苦しくなる理由がわからなかった。
子どものころに、近所のお姉さんに抱いた初恋でも感じることのできなかった感情。
もはや、止めることができないと思った。
だが、僕は未だに澤金さんにこの想いを伝えていない。
僕と澤金さんとは、クラスメイトだけど、軽い挨拶程度しか交わしていない。
澤金さんは、僕のことをどう思っているのだろうか。
たぶん、クラスメイトのひとりとしか認識さえていないかもしれない。
伝えなければという想いと、失敗したらどうしようという想い。
ふたつの想いに葛藤しながら、ふと澤金さんの表情を伺う。
「!」
澤金さんは、片づけを手伝う僕の右手を、右手で握り、左手で僕が手にしていた黒い大きめの手帳を取り上げる。
最近は珍しい、ボタンでとめられた手帳だなと、僕は思いながら視線を手帳の移動先へと移す。
「!」
ふたりともしゃがみながら、片づけ作業をしていた。
そのため、僕の視線から澤金さんに移したとたん、制服の胸元から、谷間と黒い下着が見える。
普段は、背筋を伸ばしていることが多いので気づかなかったが、胸はかなり大きい。
僕は思わず息を飲み込む。
澤金さんは、手帳を胸元で抱きしめていた。
みれなくなったことに、半分ほっとして、半分残念そうに感じた。
「……。どうしたの?」
澤金さんは、軽く首をかしげる。
「な、なんでもない」
僕は慌てて、大きく首を振る。
澤金さんは、僕の方に視線を向けて、動かさない。
「見たいの?」
胸元に黒い手帳を抱えたまま、澤金さんは、少しいたずらっぽい表情をみせる。
「……」
僕は、顔を真っ赤にする。
それでも、僕は澤金さんへの視線を逸らさない。
「キミになら、見られてもいいよ……」
澤金さんは、頬を赤く染めて、ボタンを外す。
「……」
僕は、息を飲み、目の前の澤金さんを眺める。
「私の思いを見て」
僕の目の前に、大きめの黒い手帳が差し出された。
「私、ネットに小説を掲載しているの。みんなに知られたくないので、内緒にしてね」
僕は、手帳に記載されている、澤金さんが作成した小説を読み始めた。
もはや財布のことや、快速電車に乗り遅れることなどすっかり忘れていた。