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掌編小説

夏休みの課題

作者: 斎藤康介

 夏の陽射しは容赦なくグランドを焼き、期末考査明けで緩んだ運動系部活連中の身体を無慈悲に痛みつけていた。一方、僕らは冷房の効き過ぎで若干肌寒くなった203号教室の中央やや前列の席に集まっていた。教室には僕らを除き数名残っているが、妨げになるほどのことではない。そんなクラスメートらの顔はテストの終わった開放感からかやや間抜けに見えた。


第28回会合

議題:「夏休みの過ごし方」


 この一見、小学生の教育指導のようなテーマが本日の僕らのテーマである。


 僕らのクラブは「思考実験研究会」という。クラブといえども自称で、学校正式なものではない。この物々しく堅苦しい名前から、哲学的な内容か好意的にSF同好会のような印象を抱く人もいるかもしれない。事実、僕らはそんな会話もし、それを表看板に利用している(多くの場合、僕らの活動に興味も示さない人のほうが大多数ではあったが)。

 略して「思実研(しじけん)」、通称「マス研」。僕たちは自虐的な揶揄をこめ後者で呼んでいる。もちろん「マス研」といえどもよくあるようなマスコミ研究会なんかではない。実態は「マスターベーション研究会」であった。


「さて、本日の案件は夏休みをいかに有意義に過ごすか、である」


 会長のもったいぶった話し方から始まるのが会の恒例である。会長は立見といい、見た感じが会長っぽいという理由で就任した。このことからも僕たちの活動の実情が露呈される。


「確かに来週テスト返してもらって、その次の週から休みだろ。早いねー」と甲高い声が立見に答える。


 副会長の木塚。副会長といえども仕事はない。研究会はこの二人と僕を入れた3人で構成されている。


「そうなのだよ。同士諸君。夏休みは目下すぐにそこに迫っている。福田、何か案はないか?」


 立見に名前を呼ばれ何か考えてみるが何も思いつかなかった。ちなみは僕は研究会の中では書記を務めていた。あってもなくても変わらない地味な役どころだった。

 その後もあれこれ話し合ってみるが、これといって有意義な案が出ることはなかった。

 これぞ『マス研』クオリティーである。


「まったくどうした? 君たちの創造性はザルかね?」


 夏休みに鑑賞したいAV女優の名前しか連呼していなかった立見のありがたい説教で今日の活動はお開きになった。

 そしてこんな無駄な議論を一週間も重ね夏休み迎えることになる。結局、夏休みは各自の自由研究に決まった。要するに何も決まらなかったのだ。

 おそらく僕たちは世に言う『夏の誘惑』に掠ることさえないだろう。

 僕たち修験者のようにおのが部屋にて厳しい修行に励み、自らのリビドーに真摯に立ち向かうのだ。

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