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3. 1992年3月

 やっと見つけたオレンジ()()()ダイヤはどれもアンダーソン夫人に満足を与えるに至らず、探しても探しても目指すものが見つからない日々が続いていた。


 当然と言えば当然である。


 アンダーソン夫人から送られてきた娘の髪、その写真を見た瞬間、ショウは卒倒しかけた。


 夫人が事前に伝えてきた通り、息女の髪は確かに「ストロベリーブロンド」としか形容のしようがない髪色で、オレンジのような、赤みの強いブラウンのような、つまり石で言えば寧ろオレンジ系のスフェーンに近いような色合いであったのである。


 アンダーソン夫人はショウの提示するいずれの代替案にも色良い返事をしなかった。


 二週間前はイスラエルからニューヨークへ、今日はベルギーからニューヨーク、そしてやっとの帰宅だ。


『違うわね……、イメージとしては近いのだけど』


 サンプルとして持ち込んだ色石ばかりが増えていく。


 クリフトンの自宅に戻るとショウはガックリと肩を落としながら廊下を歩いた。キッチンからヒョイと顔を出したメアリーに「お帰りなさいませ」と言われてもそれに手をヒラヒラと振るだけの挨拶をするしかない。


 荷物はジョンが持ってくれているためショウは手ぶらであったが、誰よりも重い荷物を持っているかのような心持ちで廊下を進む。


「あらあら、お疲れですわね。何か飲まれますか? お食事は?」


「要らない……シャワー浴びたら一眠りするから食事もいい。なにか連絡はあった?」


「日本のお父様から一件。ブルーダイヤは見つかったか? とのこと。ないならお返事は不要だそうです。それからお手紙がいつくか。お仕事関係のものと振り分けておきました」


「あんがと」


 ブルーダイヤ、それもなかなか見つからないがまあ、厳密な依頼というわけではないから今は放っておいても問題はない。


 問題があるとすればオレンジダイヤだ。

 空振りも空振りだ。ショウは項垂れた。

 まあ、期待はしていなかった。


 オレンジダイヤなど前代未聞、というか、あるとしたらそれは薄いブラウン、または濃いイエローのダイヤだ。

 そのどちらかで妥協してもらえればよいが、アンダーソン夫人は譲る気はないらしく、つまり馴染みの卸業者に「オレンジのダイヤと言えなくもないものがあるにはある」などと言われればショウはそちらに飛ぶしかない。


 彼らに悪意はなく、馴染客のショウを思ってそれらしいものを見繕ってくれただけのこと。モノが期待していたカラーではなかったからと言って彼らを責めるわけにもいくまい。


 だが少しばかりの期待を胸に方々へと駆け回ってはサンプルを胸にニューヨークへ飛び、『これじゃないわね……』、などと言われて結局手ぶらで帰宅する日々には流石に辟易してしまう。


 次回はインドだ。次こそはあるといいのだが、望みは薄い。

 ショウはため息をつきながらまずは仕事部屋へと行き手紙を確認する。

 これは要らない、これは必要、これも不用……、あれこれと更に振り分けていくと、白い封書が目に止まり、ショウは眉根を寄せた。


「オークションの招待状……」


 レターナイフで封を切り中身を確認する。

 非公開オークションの招待状である。

 ショウは一応は、と手紙に目を通した。


「大処分市ってとこかねぇ」


 ふうん、とショウは考える。

 アフリカ大陸南部ではこの数年、大旱魃や政治的混乱などの複合的な理由で、いくつかの国では政府主導のオークションが行われていた。目的は外貨獲得。とにかく外貨が欲しいのだろう。外国籍のショウにさえ、こういった招待状が届くことも珍しくはなかった。


 今回の開催主催は——、ドンブウェ国政府である。


 地図上で、南アフリカ共和国の上部に隣接するディタボラ共和国、その上にある比較的小さな国だ。両隣はディタボラ同様にボツワナとジンバブエである。


 確か、一応のところの内戦が収まったのは半年前のことだ。


 旱魃に内戦、混乱に次ぐ混乱の中で開催されるオークションは、それ自体が混乱しているようなものだろう。オークションの体裁こそ整っているのだろうが、一部目玉商品を除き、他はそう期待でるものではない。


 参加か不参加か。下見会プレビューだけでも参加すべきだろうか。

 だが招待状によると出品数は数多あれど宝石の数はそう多くないようだ。どちらかというと美術品に比重の寄ったオークションといった様相である。


「ドンブウェ……、採れねんだよなぁ、ダイヤ」


 そう、今回のオークション開催国、ドンブウェはダイヤの産出がほとんどないのである。これは期待ができそうにない。


「要らね」


 そのまま丸めて捨てようと考えるが、しかしショウはその手を止めた。


 正直、ショウはドン詰まりなのだ。


 世界中を歩いたところでないものはない。そう突っぱねられれば楽なのだが、ショウの性格上、それは難しかった。


 なによりも、アンダーソン夫人はあの老獪に紹介料を支払っているのだ。

 ため息が漏れる。


「あのジジイ……」


 アンダーソン夫人の求める色合いと完璧に合致するようなものではなくともそれらしいものは用意するしかない。

 ものは試し、参加をしてみるべきだろうか。下見会は今から二週間後である。


 ショウは立ち上がった。


 下見会に参加するのなら、メアリーに予定を告げねばならないだろう。インド行きを一週間先に控えていることから、そちらとの調整も図らねばならない。

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