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23.スキル試し打ち

 食事を終え、サリア嬢の自習する姿を見届けた夜の九時頃──。

 テツオとミカゲはスケジュールの隙を突き、早速、テツオが習得した三つのスキルの試し打ちをすることにした。

 スキルの発動を現地人に見られるわけにはいかないと、二人は人目を忍んで、空いた客間にこっそりと身を滑らせる。


「ではテツオさん、最初は盗聴スキルからやりましょうか」


「了解です」


〈盗聴Lv1〉──テツオが習得したスキルの一つ目。

 半径五十メートル以内の音声を、遮蔽物の有無を問わず聞き取れる。

 聴力そのものを向上させるため、大きな音を立てられると鼓膜が潰れる可能性有り。


 これを使いこなせれば、情報収集において大きなアドバンテージとなるだろう。


「こめかみに指を添え、サリア嬢に意識を傾けながら『盗聴』と呟いてみましょう」


「はい──盗聴っ」


 ミカゲに言われた通りにすると、周囲の雑音が驚くほどけたたましくなり、テツオの肩を跳ねさせた。

 城の中を行き交う使用人たちの足音が隙間なく鼓膜を撫で、そこらで漏れ聞こえる会話が無差別に耳元で蠢き続けて聴覚を埋め尽くすのだ。


「やっばっ、超うるさい……頭おかしくなる……」


「もっと、サリア嬢の方向に意識を集中させて下さい。マイクを向けるような気持ちで」


 掻き乱された思考をなんとか落ち着けて、テツオはサリア嬢の自室の方向に、ガンマイクを向けるような意識を作る。

 すると間もなく、しっとりと囁くような声が聞き取れる。


『優れなければ、神の祝福は得られない……誇り高き血統を継ぐ者は、常に、神器たる天秤をその胸に思い描き……』


 息苦しい聖典の内容を音読しているサリア嬢の声が、鼓膜に静かな響きを打つ。

 マイクに一枚布を被せて撮った音声のような少し曇った質感。だが、定位がはっきりしている。サリア嬢が立てる息遣いも、衣擦れの音も、すべて何処で鳴っているか鮮明に知覚できる。


「解除……」


 一口唱えてスキルを解き、テツオは疲弊を吐き出すように息をつく。

 その背を曲げる様子に、ミカゲは一拍置き、柔らかく問いかけた。


「どうでした? かなりコツのいるスキルだと把握してますが」


「ちょっと慣れが必要そうだけど、手応えを感じます」


「それは良かった。ただ、長時間の使用は避けて下さいね。聴力をブーストさせるスキルですので、鼓膜に強い負担がかかります。一時的に難聴になってしまうこともありますから」


「もうすでにしんどいかも……」


 テツオは耳の中に人差し指を突っ込んで軽くマッサージする。デスメタルを大音量で聴き続けたような疲労感が耳の奥で胡座をかいている。乱用は控えなければならないだろう。


「はい、次は〈アイテム作成〉ですね」


 ミカゲは言うと、テツオにフォークを一つ手渡す。

 先ほど、食堂でミミズのように暴れていたものだ。どうやらそのスキルが暴発して起こってしまった現象らしい。

 

〈アイテム作成Lv1〉──現地で入手可能な素材を用い、あらゆるアイテムの作成が可能。

 素材さえあれば、破損した物体の修復も可能だと言う。


 文言通りであれば、最も腐りにくい、凄まじいスキルではないだろうか。

 物作りが好きなテツオが真っ先に注目したものだ。


「お花の形にして見て下さい」


「なんの花が良いです?」


「うーん、では私たちは死者ですから、彼岸花にしておきましょうか」


「難しいこと言うじゃん……花の中で一番複雑なデザイン……」


 無茶振りではないか。そう思ったが、アイテム作成スキルというのは、材料と知識さえあれば、どんな凝った物でも作り出せるとか。

 しかも、ミカゲの解析スキルで蓄積した知識を、テツオは提供してもらうことが出来るため、合わせ技で万能の威力を発揮できる。


「アイテム作成」


 唱えて、テツオはフォークに両手を添える。

 すると、淡い光が両手に灯り、パキパキと小さな音を立てて輝く銀色が変容し始めた。

 フォークの先端がいくつも枝分かれし、細長い持ち手が丸まって花弁を形作ってゆく。


「おお、これは」


「お見事です」


 またたく間に、ただの食器が彼岸花の銀細工に変化してしまった。

 その出来栄えにテツオは感嘆して、ミカゲに緩やかにプレゼントする。


「はい、どうぞ」


「うふふ、ありがとうございます」


「どういたしまして」


 大事そうに銀の花を両手に包むミカゲを横目に、テツオはやはり思ってしまう。

 まだ地球で映画を撮っている頃にこのスキルが欲しかった。これさえあれば、撮影に必要な小道具の調達に苦労しなかっただろう。

 

「この〈アイテム作成Lv1)って、洋服とかも作れる?」


「知識と材料があれば可能です。他にも絵の具と紙があれば頭に浮かべた絵画なんかも再現できます」


「え……すご……ラッセンとかゴッホも?」


「できます。記憶さえ鮮明であれば、完璧な贋作が作り出せます」


「やば……一番の正解を引いたかも」


 テツオは爛々と瞳を輝かせる。最早チートスキルだ。

 任務に役立つ上に、個人的に遊ぶこともできる。無限の暇つぶしを手に入れてしまった。

 

「これから先、スキルレベルを上げれば更に出来ることが増えます。

〈アイテム作成Lv10〉までスキルを伸ばすと、ロケッ……なんでもありません」


「え……今……ロケットって言いかけませんでした?」


「いいえ? コケッ!とにわとりの声帯模写をしたくなっただけですが?」


「急に? そんなことある? ってか今のモノマネうま……」


 でしょう。とミカゲがわざとらしく手を後頭部に組んで口笛を吹く。

 自力で宇宙ロケットを作れるようになると言うのか? どうしても気になり、テツオが食い下がろうと口を開きかけると、


「あーあ、素敵な男性にロケットペンダントなんてプレゼントされてみたいな〜」


 ミカゲが慌てた様子でうわ言を被せてきた。

 誤魔化し方が絶望的に下手くそだ。追求したいところではあるが、焦る彼女の面白さに免じてこれ以上はやめておこう。スキルレベルさえ伸ばせば、いずれわかることだ。


「素敵な男性ではないですが、俺で良ければいつでも作ってお渡しますよ」


「あらぁ、ありがとうございますっ。楽しみだな〜」


 互いに苦く笑い合った後、ミカゲが仕切りなすように平手を打つ。


「さあさあ、次はラストの〈短期記録〉です」


〈短期記録〉──十秒間の短い映像を脳内に保存し、その場に投影することができる。

 長時間記録は不可。このスキルを取得することで〈長期記録〉が解放される、らしい。


 テツオが一番楽しみにしてたスキルと言っても過言じゃない。

 アマチュア映画監督として、カメラを回したい衝動は死後も健在であるから。


「『アクション』と唱えてから目を一度瞑って下さい。その後、目を開くと自動で録画が開始されます」


「カチンコ(正式名称:クラッパーボード)みたいでワクワクするね」


「何を撮りたいですか?」


「じゃあ、ミカゲさんを──」


 テツオは視界にミカゲを収めながら、問答無用で「アクションッ」と唱える。

 すると、視界の端に淡い光で『REC』の文字が明滅し始めた。どうやら無事に録画が開始されているようだ。


「はわわッ 急ですね……」


 ミカゲが可愛らしくあたふたとして、何かしようと焦り始めた。

 すると何を思いついたのか、カクカクとした動きで客間をぐるぐる歩き始める。


「え、何してんの?」


「ロボットダンスです」


 なぜ? と問うのは無粋だろうか。ストリートパフォーマーのように、真剣な面持ちでロボットに成り切っている。

 しかも妙に上手い、躍動感がある動きだ。声帯模写と良い、ミカゲはかなりの多芸だ。ここまで打てば鳴るのだから、今後も被写体として活躍してもらおう。


「──ッ!」


 そんなテツオの邪な企みを咎めるように、視界の『REC』の文字が消え失せ、頭にズキリとした鋭い痛みが走る。


「痛ッ……」


「〈短期記録〉は脳内に映像を保存するスキルですから、脳に強い負担をかけてしまいます。録画時間の終了時にその皺寄せが来てしまうんです」


 ミカゲいわく、副作用として莫大な脳のエネルギー消費が必要であるため、大量のブドウとケトン体を生成できる脂肪と、タンパク質などを摂取しないといけないそう。

 さもないと、集中力と思考力が著しく低下し、眠気やイライラ感に襲われるようだ。


「ひどい場合、眼球に激しい充血を起こし、鼻から出血も伴います」


「やっぱり、これも乱用を不可かぁ……」


 副作用を聞き取ってもなおこのスキルの習得に踏み切ったのだが、想像以上の負担だ。

 一番使いたいスキルが一番重く、使い所を限定されるのは少し残念だ。

 

「せっかく撮影したんだし、投影してみましょう。映したい場所を選んで『投影』と唱えて下さい」


 言われて、テツオはミカゲの真隣を指差し『投影』と口にする。

 その瞬間、ロボットダンスをするミカゲが生き生きと部屋を練り歩き始めた。


「おおッ、いいなコレ!」


 恥ずかしそうに佇むミカゲと、躍動感のあるダンスマシーンであるミカゲロボ。

 同じ部屋に同じ顔が並んでいる。しかも、映像であると認識できないほどの立体感と息遣い。触ってみないとどちらが本物か見分けがつかない。


「凄い……何回か撮って重ねれば、ミカゲさんだけでダンスグループ組めるんじゃ?」


「どっちに話しかけてるんですか……。一応、記録は何本も出来ますし、投影も重ねられますから、可能は可能です」


「やってみましょう。マイケルジャクソンの『スリラー』をミカゲさんだけで再現してみましょう」


「やりません……絶対に……」


 はしゃぐテツオに、ミカゲの表情が冷たいものになってゆく。

 揶揄い過ぎたか、映像を扱える喜びに、つい熱くなってしまった。


「すみません、調子に乗りました」


「いえいえ、嬉しい気持ちはわかります。私も初めてスキルを習得したときは楽しくてしょうがありませんでしたから。それより──」


 朗らかに理解を示すと、ミカゲは改めてテツオに向き直った。


「スキルを習得したテツオさんに、やってほしいことがあるんです」


 何か、鋭い覚悟を胸に秘めるような、引き締めた相貌を作るミカゲ。

 突然の空気の転換に、テツオの喉がゴクリと鳴る。


「急にどうしたの? 緊張するからやめてその感じ……」


「ああ、すみません。少し頼みづらいことだったので」


 顔をほぐすように、ミカゲは頬をマッサージする。

 そして、「ふう……」と一息吐いた後、緊張の面持ちで言うのだ。


「グレゴドール家の信仰の象徴である〈黄金の天秤〉──あのオブジェを排除します」


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