第十三話 「悪役令嬢としての矜持」
※本作はオリジナル作品です。
※BLゲーム世界が舞台ですが、女性主人公視点で進みます。
※次回も三日以内に更新予定です。
早々に調査の結果は返って来た。
これは、ただの確認作業などではなく、
既に確信していたことを、揺るぎない事実に変えるための手段だ。
そして証拠さえ揃えば、彼らの逃げ道を一つ残らず塞ぐことができる。
私の大切なうゆくんに手を出した挙句、
我が西園寺家を敵に回した時点で、あちらに勝ち目など毛頭ない。
私の専属メイド・奈々から
“結果の入った封筒”を受け取り、お父様の元へ向かった。
「……お父様」
父はすぐに察したのか、視線で“続けなさい”と促す。
私は封を切り、調査書の要点を読み上げた。
使用人たちの証言。
医師の所見。
近隣関係者への聞き取り。
——あらゆる証拠が集まっていた。
そして、極め付けに。
彼らは“躾”と称して、数々の暴力を日常的に振るっていたという。
文字を追えば追うほど、声が震え、喉が渇いていくのがわかった。
当時、彼はまだ幼かったはずだ。
たとえ、うゆくんのように特別な存在ではなかったとしても。
子供にこんな非道を浴びせるなど、許されるはずがない。
私はゆっくり息を吐いた。
お父様は何も言わず、ただ静かに私を見守っていた。
——だが、これで“決着の準備”は整った。
胸の奥で煮え立つ怒りを抱えながら、私は次の一手へ思考を切り替えた。
今なら、復讐に走る者の気持ちも、痛いほど分かってしまう。
それが“大切なものを守るため”なら、なおさらだ。
たとえ、悪役と罵られようとも構わない。
私はその役目を、最後まで全うするだけだ。
「お父様……」
「我々家族で、彼の心をどうにか癒してあげたいと思ってしまうのは…傲慢でしょうか……」
お父様は迷わずに私へ告げた。
「人の心は、一朝一夕にはいかないだろう。
それでも、“嘘偽りのない本物の想い”を前にすれば、誰だって応えたくなるものじゃあないかな」
思わず喉の奥が熱くなる。
「鈴乃が心から彼を案じているなら、それはきっと、彼にも伝わっているはずだよ。
だから、焦らずゆっくりと向き合ってやればいいんだ。
できる限り、私も力になろう」
さすがは私のお父様である。
私が欲しい言葉を、欲しい時にきちんとくれる。
そんな父が言うのなら、きっとそうなのだろう。
久しぶりに父に甘えてしまって、なんだか照れ臭い。
父は「まだまだ子供でいてくれて嬉しい」と言うけれど、
私は“立派な淑女”であるというのに。
「それでも鈴乃が、心配する子なのはよく分かっているつもりだ。
だから近々、我が家主催の夜会を開こうと思っている」
私は、あまりに唐突な提案に目を瞬かせた。
「それは…つまり……」
父の目が細まる。
「…そう、結真くんを正式に“我が西園寺家の息子”として紹介する場を設けるつもりだ」
「お父様……!
それは、天才ですわ……!!さすが私のパパ!」
「ハッハッハッ。久しぶりに“パパ”と呼んでくれたな。
小さい頃はあんなに、
パパ、パパと後ろをくっつきまわっていたのに……」
「それは言わない約束でしょう!」
やれやれ、余計なことばかり口にする人だ。
…それでも、さすがは私のお父様である。
これで、うゆくん自身が少しでも
「自分は存在してもいい」
と心から信じられるようになるための力になればと、切に願う。
だが…
これは、本来なら攻略対象たちが担うべき役割なのかもしれない。
けれど、彼の事情を知ってしまった以上、私は何もせずにはいられなかった。
この家の権力は、ただの飾りなどではない。
使い方次第では、闘う矛にもなれば、
守るべきものを守るための盾にもなり得る。
そしてそれを“使える”というのは、ある意味、私だけの特権だ。
微笑みながら、容赦なく相手を追い詰め、
悪役令嬢としての矜持を——思う存分、見せつけてやるのだ。
夜会当日。
この日を迎えるまで、西園寺家はいつも以上に慌ただしかった。
会場となる大広間は、普段よりもさらに華やかに整えられ、シャンデリアの光は宝石のように眩く輝いている。
磨き上げられた床には、水面のように揺れる影が静かに映っていた。
花は季節の香りだけを残し、
料理は“魅せるため”の美しさに徹している。
まさに、夜会という言葉に相応しい光景だ。
参加者は言うまでもない。
四大財閥の当主、そして次期当主を担う者たち。
政治家、名門の子息令嬢、さらには海外の貴族までもが顔を揃える。
……お父様は、一体何者なのだろうか。
これほどの権力者が集まる場は、さすがの私でもおどろおどろしく思う。
なぜなら、ここでは言動ひとつで噂が広まり、
こちらの価値を勝手に値踏みされてしまう。
それが社交界という場所だ。
だからこそ私は、完璧を装う。
表情も、立ち居振る舞いも。心さえも。
ひとつの綻びも見せぬように。
そして、
うゆくんにとっては初めての晴れ舞台だ。
私が一番気合いが入ってしまう。
そんな私に反して、うゆくんはというと、ガチガチに緊張していた。
だが、普段は見ることのできない正装姿を拝めた私は、内心ひれ伏していた。
……非常に可愛い。
ここにいる会場の人間すべてを虜にしてしまうのではないかと、心配になるほどに。
その萌えをぐっと押し込み、
私は彼に一歩近づいて、そっと手を握り、声をかける。
「うゆくん、大丈夫よ。
私がそばにいるわ。……それに、お父様だっているんだから」
うゆくんは目を丸くして私を見た。
けれどすぐに、
小さく深呼吸をし、覚悟を決めたような表情へと変わっていく。
ほどなくして——
大広間の中央へ、父が静かに進み出た。
空気が、一気に静まり返る。
注目は否応なく、うゆくんへと集まっていく。
夜会の“本題”が始まる気配に、会場全体が息を止めた。
「本日は、皆様にお集まりいただき感謝する。
そして、この場を借りて紹介したい者がいる」
父の声は低く、それでいてよく通った。
その瞬間。
ほんの僅かに、うゆくんの肩が震えたように見えた。
私は笑顔のまま、彼の隣に立ち、見守る。
「本日この場をもって、
有栖 結真を——
我が西園寺家の息子として正式に迎え入れることを、ここに宣言する」
会場がざわついたのは一瞬のことだった。
すぐさま至るところから拍手が起こり、称賛と祝福の声が上がる。
うゆくんはきょとんとしたまま固まり、瞬きを繰り返していた。
けれど、すぐに我に返る。
そして、会場にいるすべての人へ向けて——
完璧な挨拶をして魅せた。
……魅せられたのは、私だけじゃないだろう。
そう思うと、つい頬が緩んでしまう。
存外、否定的な声は少ない。
むしろ、
「あのお方の髪と瞳の色は………」
そんな驚きの声が、数名ほど耳に入ったくらいだ。
まあ、分からなくもない。
うゆくんの髪と瞳の色は、美しいからな!
と気合満々で、その人たちに勝者の微笑みを向けておいた。
ある程度、会場も落ち着きお開きの時間となった。
他の者たちは会場を去り、
四大財閥の者たちは必ず最後まで残る。
会議ならぬ、“情報共有という名のお喋り”が恒例だ。
——そんな時だった。
大広間の方が突如としてざわめいた。
ああ。
やっぱり、来たのね。
もう二度と見たくなかった顔が、
この“場”に姿を現した。
そう、ここからが本番である。
私は相手と対峙するため、
淑女に相応しい微笑みを浮かべた。
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鈴乃の父は、自分の理想の父親像でした。。。




